第158話 振り回される人々/刑将の居城にて
「アンデッドが消えただと!?」
ショウは部下の報告に耳を疑った。
「それだけではありません!緑がよみがえり、傷ついた者たちも皆、回復したそうです!信じられませんが!」
前線から戻ってきた使者が興奮気味に言った。
ざわ、とした空気が重臣たちの間に広がった。
(こんなことができるのは神々しかおらん。もしやクロ様が……)
「民は、閣下が被災地に赴かれ、何か御術をされたのだろうと噂し合っています!」
「なに?」
当然、ショウには心当たりがなかった。
「良いではありませんか、閣下。肯定せずとも、否定する必要もないでしょう」
ヨウトが笑みをたたえて言った。
「そうです!アマンは何もしなかった。現地に赴かれたのは閣下だけです!」
重臣たちもショウを称えた。
ショウは沈黙した。
(たしかに、アマンが難民救済をしていたとしても、現地に足を運んだのは私だ。)
(しかし——)
「……わかった」
ショウは重い口を開いた。
「物的な損害の処理、遺体の収容、難民への物資配給——各担当、それぞれの役目を果たせ。今はそれが先だ」
称賛には答えなかった。
が、否定もしなかった。
ただ、次の任務を命じた。
ジョカエルはひとり、ヨウトを冷たく見ていた。
◇
バキ!
廊下でジョカエルがヨウトを殴り飛ばした。
ヨウトは後ろに倒れ、壁に激突した。
「ジョカエル様!」
リジュエルが声を上げる。
「ビエム。今回の件、やったのはあんたでしょ」
吐き捨てるように言った。
「なんのことだか」
ビエムは立ち上がりながら冷笑を浮かべた。
「とぼけないで。私たちの使命は虐殺ではないのよ」
ジョカエルは再び拳を構えた。
「おっと、神使同士の殺し合いはご法度ですよ」
「わかっているわよ。しかし、この件は本国に報告するわ」
「証拠でもあるんですか? 私がやったという」
「お前以外に誰がやったというの」
「あんなものができるのは邪神どもしかいないではないですか」
「邪神?」
「四神か、四凶か、それとも他の魔王か。可能性はいくらでもある」
「馬鹿な。お前、彼らを敵に回す気なの?」
ジョカエルはビエムをにらみつけた。
「いやいや、私は可能性のひとつを提示しただけにすぎません」
ビエムはヨウトの顔で薄ら笑いを続けた。
「必ずしっぽをつかんでやるわ」
ジョカエルはそう言うと踵を返した。
それからまもなく、民衆の間で噂が流れ始めた。
奇跡を起こしたのは霊神。それを導いたのがショウ。そして——キ州の爆発は、アマン軍の兵器実験の失敗である、と。
◇
アマンは苛立ちと驚愕を覚えながら報告書を読んでいた。
ショウの属州で謎の爆発が起こった。
おそらくは核兵器に違いなかった。
大地は死に、アンデッドが溢れた。
しかし突然、雨が降り、大地に緑が戻り、アンデッドは消え、民と兵の傷が癒えた。
(アオ様たちの仕業と思うが、それならそうと連絡をくれればいいものを)
そして——聞き逃せない噂があった。
(今回の虐殺を、私が起こしただと)
アマンは報告書を静かに置いた。
(否定するのは簡単だ。だが、この手の話は否定するほど疑いが広がる。真犯人を探すしかない)
(そのためにはショウの領地に調査団を派遣させねばならない。ショウが真犯人でないなら、受け入れるはずだ)
(そして——調査団が動けば、黒幕も動く)
罠とわかっていた。
わかった上で、アマンはショウへの調査団派遣の申し入れを行った。
罠に踏み込むことでしか、罠を暴けないこともある。
◇
ワタシたちは刑将の居城についた。
さすが魔族の居城だった。王国では見られない魔人や巨人が、こちらの様子をうかがっている。仲間たちも緊張した様子だ。
しかし文業がワタシたちの前を歩き、シリュウがワタシと談笑しているのを見ると、難癖をつけてくる者はいなかった。
仲間たちは兵舎で待機し、ワタシとヨクト、ビゼンが刑将と面会することになった。
謁見の間、王座には魔人が座っていた。
全身、鋼の肉体。髪は挑発的なオールバック。人間で言えば五十代、ヤクザの親分といった風格だった。
(病気だと聞いたが、そうは見えないわね)
シリュウと文業が跪き、ワタシたちもそれにならった。
「シリュウよ。そいつがお前と同じ、例の魔勇者プロジェクトの生き残りだな」
刑将が低い声で尋ねた。
「はい。アビと申します」
魔勇者プロジェクト——異世界の人間を召喚し、魔王側の勇者として育てようとした計画だ。それに巻き込まれ、ワタシもシリュウもジョカもこの世界にやってきた。
「噂は聞いたことがある。はるばるご苦労だったな」
刑将がワタシに視線をやった。
「恐れ入ります」
短く答えながら、ワタシは彼を観察した。
(強いな、コイツ)
それが率直な感想だった。解析しても魔力の底が見えない。
もっとも、四神や四凶にいたっては底が見えないどころか、せいぜい並の人間にしか感じないわけだが。
「刑将様、お待ちください」
控えていた魔人が声をかけた。
いやちがう。
こいつ、人間だ。
鋼のような半裸の上半身が、謁見の間の灯りを受けて輝いている。
「文業はこの人間を認めたそうですが、我らが認めたわけではありません。ぜひ、手合わせの許可を」
「ククク、すまんなアビとやら。若い連中がこうなったら止めようがない。悪いが少し相手をしてやってくれないか」
ワタシは男の方を見て解析した。
なるほど、なかなかの魔力だ。
「わかりました。ワタシがあなたの相手をすればいいのね」
「正確には、私たちだ」
控えていたローブ姿の魔人二人が前に出た。
「オレの名は籍。この二人は良と異怒だ。そちらも三人、こちらも三人。勝負は対等——どうだ?」
「いいわよ」
ワタシはヨクトとビゼンを見た。
「ビゼン、ヨクト、二人ともいいわね」
「もちろんだ」
ヨクトがニヤリと笑う。
「ああ」
ビゼンが青竜冷艶鋸を構えた。
刑将が王座で腕を組み、静かに目を細めた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




