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冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。  作者: 黒木菫
正義愛鬱編

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155/279

第155話 キ州の虐殺

国は二つに割れていた。


国王カイを擁する公爵ショウ・エンにつくか、王女キョウを擁する宰相アマンにつくか。


誰もが実際のところを知っていた。


アマンは逆賊チュウエイを倒し、国賊コウロを討ち、王都をふたたび取り戻した。


一方でショウは指をくわえて見ていた。


しかし、国王カイを保護したことで、形式的にはショウが大義名分を得た。


だが、誰もが知っていた。


カイ王は幼く、ショウは何もしなかった。キョウ王女は自ら剣を取り、アマンとともにチュウエイを討った英傑であると。


小さな貴族や豪族たちはどちらにつくか決めあぐねていた。


事件は、そんなあるショウの属州、キ州で起こる。


◇


ブンセッツという領主がいた。


とびきり有能というわけではない。


策謀を巡らすような器でもない。


しかし、この男には一つ、確かなものがあった。


民が好きだった。


それだけだった。それだけで、この男は三十年間、この小さな城下町を治めてきた。


祭りがあれば先頭に立って踊り、不作の年は自分の蓄えを崩した。


領民の葬式には必ず顔を出し、生まれた子どもの名前を覚えた。


それが当然だと思っていた。


妻も同じだった。


病人が出れば薬を届け、夫が宴を開けば自ら厨房に立った。


子宝にも恵まれ、城下の子どもたちはみなブンセッツ夫妻を慕った。


そんな男のもとに、ショウから使者が来た。


『貴殿の家とわがエン家はかねて友好的な関係を築いてきた。今後も変わらぬ誼を期待するものである』


ブンセッツは使者を別室で待たせ、ユメとともに身の振り方を考えた。


「わが家はずっとエン家に仕えてきた。筋から言えば、ショウ様に忠誠を誓うのが筋だ。それに、ショウ様のもとには陛下もいらっしゃる。だが……」


「わかります。殿下は領民から人気ですものね」


キョウはチュウエイを倒したのち、各地を自ら回った。


この町にも訪れ、直接陳情を受けた。


アマンに命じて、領民たちの悩みをすみやかに解決した。


それだけではなかった。キョウは視察の途中、用水路の泥詰まりを見つけると、侍女たちが止めるのも聞かず、自ら手を突っ込んで泥をかき出した。


汚物も、臭いも、関係なかった。


「殿下、お手が……!」


「手は洗えばいい。水路は今日直さねば明日の畑に響く」


それだけ言って、キョウは泥だらけの手のまま笑っていた。


その話は城下中に広まった。


「しかし、ショウ様に逆らうわけにもいかん。かといって、キョウ殿下やアマン様に楯突くなど考えられん」


「あなたが悩むのも当然よ。でも——あなたはあなたの答えを出すでしょう」


ユメは静かに笑った。


ブンセッツはしばらく黙っていた。


そこへ使用人が声をかけてきた。


「旦那様、領民の長老や重役たちが陳情に参っております」


(もしや、この件か)


「すぐに通せ」


◇


「領主様、今来られているのは、ショウ公爵の使いでしょう」


「ああ」


ブンセッツは困ったように答えた。


「領主様、キョウ殿下はこの町に来て——汚物まで、自らの手ですくってくださいました。あのような方に背くなど、私たちにはできません」


「そうだ。あの方こそ本物の……」


「おい、めったなことを言うもんじゃない」


ブンセッツが苦笑しながら抑えた。


「なんなら、あの方にこそ女王になっていただきたいくらいだ」


「そうだそうだ!」


老いた長老が、珍しく声を張り上げた。


ブンセッツは領民たちの顔を見渡した。


鍛冶屋の親父、麦を作る夫婦、子どもを背負った若い母親。


三十年間見てきた顔ばかりだった。


「わかった。任せろ」


それだけで、領民たちは安心して帰っていった。


◇


「なにやら、領民たちが来ていたようですね」


使者は静かに笑いかけた。


「ええ、まあ」


「キョウ殿下につくと、そういうわけですか」


「・・・」


ブンセッツは黙って決意を込めた目で使者を見た。


「私の顔を見ても、意志は変わりませんか。この私が言っているのですよ」


使者の声に、かすかな凄みがあった。


(しかし、自分の顔とはどういう意味なのか。)


使者の真意をはかりかねた。


しかしブンセッツははっきりと言った。


「私は領主として、民にとって最善の選択をするつもりです」


沈黙があった。


「なるほど」


使者はふっと表情を和らげた。


「困らせてしまって申し訳ない。実はあなたと領民のために、ショウ様から贈り物がありましてね」


「……なんでしょうか」


「屋敷の外です。一緒にどうぞ」


◇


それは大きな黒い卵のような形をしていた。


表面はなめらかで、光をわずかに吸い込むような黒さだった。


キョウもアマンも、アオたちでさえ行方を追っていた、異世界の禁断の兵器。


核爆弾であることを、ブンセッツは知るよしもなかった。


「な、なんでしょう、これは」


直感的に、何か禍々しいものを感じた。


身体の奥から来るような、説明のできない不快感だった。


「これは、置くだけでその土地が栄えるという幸運の魔道具です。ぜひ、街の中心にお飾りください」


「……ありがとうございます」


使者が帰ったあと、ブンセッツは妻に言った。


「なんだかあれは嫌だな」


「あなたったら、せっかくの贈り物なのに」


「虫の知らせというやつかもしれん。魔道士たちに調べさせよう」


◇


魔道士たちは黒い卵に触れ、首を傾けた。


「何の反応も感じません。鉄の塊のようですが……」


「そうか」


「あなた、考えすぎではないですか」


妻が笑いながら夫の腕を取った。


「そうかもしれんな。ショウ様にお礼の手紙くらいは書くか」


ブンセッツはそう言って、妻と並んで屋敷に戻ろうとした。


その夜、城下では珍しく宴が立ち、笑い声が路地に溢れていた。


子どもたちが黒い卵の周りを走り回っていた。


鍛冶屋の親父が酒を飲んでいた。


若い母親が赤子を揺らしていた。


ブンセッツ夫妻は手をつないで、そんな城下の灯りを縁側から眺めていた。


「いい町だな」


「ええ」


妻が夫の肩に頭をもたせかけた。


「子供たちが帰ってきたら、一緒に祭りがしたいな」


「あの子たちももう立派になって。お兄ちゃんなんて、去年会ったときはあなたより背が高くなってたわよ」


「そうだな」


ブンセッツは笑った。


次の瞬間、ブンセッツは自分が死んだことすら気がつかなかった。


ユメも、鍛冶屋の親父も、赤子を抱いた母親も、子どもたちも——数万の命が、瞬きほどの間に消えた。


宴の笑い声が、轟音に変わった。


ブッセッツの影だけが残った。




◇


月夜。


丘の上でビエムは都市のあった方角を眺めていた。


従者が釣られてそちらを見た。


「このヨウトの顔を見て、何も思い出さないゴミが」


ビエムは静かに言った。怒鳴っているわけではなかった。ただ、淡々と言った。


「せめて実験台になるがいい」


ビエムは黒い卵の仕組みを完全に理解しているわけではなかった。

だが、起こすべき現象だけは知っていた。

この世界では、それだけで十分だった。

魔力が、異世界の複雑な機構の代わりを果たす。


ほんの少し、魔力を込めた。


空が光った。


遅れて、轟音が来た。


従者は何が起きたのかわからなかった。見たこともないきのこ型の雲が、夜空に向かって立ち上っていた。


「ヨウト様ならこうされたはずだ」


ビエムは呟いた。


ビエムは雲が広がっていくのを見ながら、満足そうに目を細めた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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