第154話 勇者の幻影
ショウはアマンに対抗するため、精力的に民の陳情を聞き 、勢力を蓄えていた。
玄武竜を招いたという話はたちまち広まり、多くの強者と学者がショウのもとへ赴いた。
鶏鳴狗盗の人材でも何かの役に立つかもしれない——ショウはそう考え、積極的に宴を開き、会いたいという者には門戸を広げた。
そして今日も、予想だにしない人物がショウを訪れる。
「閣下、とんでもない者が参りました」
重臣のゲンコウが顔色を変えながら、面談の許可を求めてきた。
「なんだ、何者だ?」
「いや、私も信じられないのですが……」
「はっきり言え」
ショウは苛立ちながら答えた。
カクトをはじめ、居並ぶ重臣たちも顔を見合わせる。
「勇者です。あの勇者ヨウトが参られました。しかも——若い姿で」
「なんだと!勇者ヨウトは革命軍として死んだはずだ!」
ざわ、と群臣たちが騒ぎ出す。
「閣下、私も若い頃、ヨウトとは何度も面識があります。一目見れば偽物とわかるでしょう」
北の勇者と呼ばれたカクトが進言した。
「うむ。カクト殿なら間違いあるまい。連れてこい、その勇者ヨウトを称する者を」
「ハッ!」
ゲンコウが下がった。
◇
一人の男が謁見の間に現れた。
黒い髪。顔や手足に刻まれた傷。
年齢は二十代に見えるが、その肌には妙に生気がない。
ショウは若い頃のヨウトなど知らなかった。しかしショウの解析スキルはこの男を弾いた。解析不能。
只者ではないことはわかった。
カクトと老臣たちに目配せをする。
「たしかに、若い頃のヨウトにそっくりだ。だが……何かが違う」
老臣の一人が男を見て言った。
「おい、貴様。何者だ。オレはカクトだ。ヨウトならオレを知らぬはずはない」
カクトが杖をつきながら男の前に出た。
「フフフフ。別にヨウト様のふりをするつもりはありませんよ。私こそがヨウトですよ。」
ヨウトを名乗った男は笑った。
「ふざけるな。貴様は何者なのだ!?」
カクトが杖を突きつける。
「私はヨウトですよ。この腕も、足も、顔も——臓器の一部に至るまで、限りなくヨウト様です」
ショウは男の顔をじっと観察した。
皮膚のあちこちに縫合の跡がある。
「貴様、まさか——本物のヨウトの体から奪ったのか!」
ショウは立ち上がり、男に近づいた。
「狂人か!」
「いえ。私こそが、もはやヨウトです」
「つまみ出せ!この狂人を!」
衛兵たちが男を取り囲んだ。
その瞬間、男が動いた。
衛兵が次々と、音もなく倒れていく。
「おお——これはまさしく勇者ヨウトの動き!」
老臣の一人が叫んだ。
「ショウ様、お待ちください。あなたは強者をお探しなのでしょう。私こそが新しいヨウトです。お力になってみせます」
「しかし……」
ショウは思わずうめいた。
「閣下、策がございます」
ゲンコウが耳打ちした。
「貴様はヨウトではない。ヨウトの息子ではないか?そうであろう」
ゲンコウは男に向かって言った。
「いえ。私がヨウトです」
男はのらなかった。しかし。
「閣下、このものはどうやらヨウト二世のようですな」
ゲンコウがもう一度、ショウに耳打ちをした。
(このような怪しげな者を採用してよいのか。しかし——!)
「わかった。ヨウト殿、貴殿を客将として遇しよう」
ショウは迷いながらも、男を認めた。
「ありがとうございます」
ヨウトは深々と頭を下げた。
◇
ヨウトの個室。
コン、コン。
ノックの音がする。
「どうぞ」
扉を開けたのはリジュエルとジョカエルだった。
「やあ、リジュエル殿にジョカエル殿」
「生きていたのね、ビエム」
ビエム——革命軍の実質的な指導者だった男だ。
「あなた、何しに来たの。しかも、そんなヨウトの皮を被って」
ジョカエルはビエムを見据えた。
「苦労しましたよ。私も元のヨウト様も、体のほとんどが失われましたからね。ヨウト様の体を頂き、その力の一部まで使えるようになったのです!」
ビエムは恍惚とした表情で答えた。
「そんなことは聞いてないわ。余計なことをいろいろやっているのはあなたでしょう。私に任せなさい」
「ジョカエル殿、あなたのやり方は手ぬるい。もっといい方法があります」
「ショウとアマンをけしかけるというのでしょう。そんなにうまくいくとは思えないけど——それが証拠に、キョウ王女はこちらに来ると言っているわ」
ジョカエルは椅子に座りながら言った。
「まあいいです。私は私のやり方で、ショウを動かしてみせます。それが霊神の導きです」
(会話が噛み合わない)
ジョカエルはため息をついた。
「まずはカイ王をこちらの味方につけるのよ。そして霊教を国教にする。この国は王を押さえれば変わるわ」
「いえ、この国は民を変えねばなりません。そのためには力ある者に霊教の素晴らしさを伝えるのです。かつてのヨウト様のように!」
(こいつとは会話にならない)
ジョカエルはため息をついた。
「リジュエル、あなたはどちらにつくの」
「神使のお二人に、私などが意見するなど恐れ多い」
リジュエルは頭を下げ、答えを避けた。
「とにかく、早まった真似はしないことね」
そう言ってジョカエルは部屋を出ていき、リジュエルもあとに続いた。
ビエムは鏡に向かって呟いた。
「はたして——勇者ヨウトならどうするだろうか」
そう、ヨウト様こそが正義。
今や、ヨウト様は私。
私が正義なのだ。
ビエムは鏡の中のヨウトを見て、満足そうに笑った。
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