第153話 クソレジェンド/狂信者たち
私たちは船に乗って、刑将のアジトへ向かっていた。
ワタシの世界のフェリー並みにでかい。
身長四メートルを超える文業も問題なく乗れていた。
「あ、あのお方が……青竜様!?」
甲板で他の兵たちとプールを楽しんでいるアオを見て、文業が固まった。
「それに玄武竜に、朱雀竜に、四凶に、姫さん……お前の人脈どうなってんだよ」
最近のワタシの旅をシリュウに話したら、この反応だった。
まあ、ワタシ自身も四神のことなど知らなかったわけだが。
「人脈ってわけじゃないけど。で、今度はそっちの番よ。ワタシたちに頼みたいことって?」
「ああ、そうだな。今、王国でいう旧魔王領——こっちの人間や魔物にとっては今でも魔王領だが、とにかくそこは今、二人の魔人が覇を競い合ってる。一人が私たちのボス、刑将様だ。もう一人が災王だ」
「なるほど、刑将様に災王ね」
一応、スポンサーには敬称をつける。
「二人の実力は伯仲していた。しかし最近、風向きが悪い。それもこれも、チミが災王についたせいだ」
シリュウが忌々しそうに言った。
「チミ……」
「そうだ、あの野郎だ!」
シリュウがなぜかワタシが知っているやつのように言う。
「ごめん、そのチミって何者?」
「レジェンドだよ!レジェンド勇者!」
「あいつか!」
思わず声が出た。
「知ってるやつなのか、アビ」
ヨクトがワタシの声に反応する。
「ええ。ワタシやシリュウと一緒にこっちの世界に来たやつなんだけど、どうしようもないやつよ」
思い出すだけでムカついてくる。
「そんなにやっかいなやつか」
「やつのスキルが厄介でね。ワタシたち異世界から来た人間の武器を使わない攻撃——殴る蹴るみたいなやつ以外、一切受けつけない。つまり、こっちの世界のやつにとっては無敵なのよ」
「なんだそりゃ!まさにチートじゃねえか!」
「面白い。どれほど無敵か試してやる」
うんざりした顔のヨクトと、青竜冷艶鋸を握りしめて闘志を燃やすビゼン。反応が正反対だった。
「でも、そいつ自体は全然弱くてね。昔のワタシが殴り飛ばしたのよ」
「お、おう。そりゃすごいな」
ヨクトが感心した。
「それも昔の話なんだよ」
シリュウが言った。
「何かあったの?」
「鍛錬しやがった」
「鍛錬?あいつが?」
意外だが、厄介なことを。
「ああ。改心したふりをして、ここ数年、体を鍛えた。もうワタシじゃどうしようもないし、こっちの世界のやつじゃあいつには傷もつけられない。異世界の戦士じゃないとどうしようもないんだよ」
「なるほどねえ」
まあ、ワタシが【限界突破】で肉体を強化すれば負ける気はしないけど。
「それでワタシを呼んだってことね」
「そういうことよ。災王は意図的に異世界人を狙ってる。こっちにつくか、さもなくば死ぬかと」
「でも、あのレジェンドの性格なら、災王を殺して自分がトップを狙いそうなもんだけど」
「ああ、災王の妹が美人でな。あいつがぞっこんで言いなりなんだよ」
「やっぱり、アイツの行動原理は女か」
ワタシは呆れた。
「まあ、わかったよ。ワタシへの依頼はレジェンドをなんとかすればいいわけね」
「まあ、そういうことだ。こちらも兵力は多ければ多いほどいいしな」
「ところで、あんたが刑将様に従ってる理由は?お金?」
「それもあるが……いい人だよ。私も恩があるし、魔人だがこの国をちゃんと考えてらっしゃる」
「あんたがそう言うなら、会えるのが楽しみよ」
「ただ、他にも問題がある」
「問題?」
「刑将様の体調が芳しくない。そもそも万全なら、災王など問題にならないんだろうけどね」
「なるほどね」
「ま、固い話はここまでだ。私も遊んでくるよ」
シリュウはそう言うと、アオたちのもとへ歩いていった。
◇
「わかったことを整理しよう」
アマンは会議室でジユンとオウライに話し始めた。
魔法の炎の光の中には、都にいるカギの顔も映っている。
「あのヨウトの顔をした男は、ヨウトそっくりに自分の人相を変えていた」
「なんのためだ!?」
左目にまだ包帯を巻いたジユンが聞く。
「理由はわからん。しかし、顔だけではなく——本当に自分が勇者ヨウトだと思い込んでいるようだ」
「狂信者が!」
ジユンが吐き捨てるように言った。
「やつらは、ヨウトの顔に近づけば勇者の力を得られると信じているらしい。そして厄介なことに、実際に力の一部を得ている」
「それで、あれほどの力を…」
オウライが腕を組む。
「だが、もっと重大なことがある。例の異世界の兵器を、霊教会が保有していることが判明した」
光の中のカギの表情が変わった。
「しかも、量産しようとしているらしい」
「なんだと!」
ジユンが声を上げる。
「それだけではない。チュウエイが残した試作品を、どこかの地で起動し——その威力と、人間への影響を実験しようとしているらしい」
「坊や!場所はどこだ!」
カギを押しのけてリユウが声を上げた。
「場所はわからん。だが、急ぐ必要がある。各地に通達を出してほしい。黒い卵のような魔道具を見かけたらすぐに報告せよ、報告した者には報奨を与え、隠した者は厳罰に処すると」
「わかりました」
カギがリユウを押しのけて返事をした。
「それと、このことをアビに伝えろ。あまり頼りたくはないが、アオ様なら何とかできるかもしれん」
「それが——アビは依頼で旧魔王領に旅立ってしまいまして」
「なんだと」
アマンは一瞬、目を閉じた。
「すぐに後を追え。アビだけではない。オアシスにいる玄武竜様、朱雀竜様も探し出して伝えろ。究姫様、凍子様でもかまわん。事態は一刻を争う」
(クソ、こんなときにアビがいないとは。偶然か。それともアビが——いや、彼女は本来傭兵だ。そういうこともある。考えすぎか)
「カギ。捕らえているトウジョウも何かを知っているかもしれん。聞き出せ。以上だ」
「ハッ」
カギが頭を下げ、通信の光がふっと消えた。
アマンは一人、外に出た。
夜風が頬を撫でた。
(霊教会め。父上だけではなく、この国の民までも狙うか)
拳を握りしめ、天を仰ぐ。
しかし、空は何も答えなかった。
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