第150話 三者の行方
アマンは父を抱きながらテントを出てきた。
「アマン、キョコウ様は!?」
顔中を血まみれにしながらジユンが追ってきた。
アマンは首を横に振った。
「そんな……おのれ、霊教会め!」
ジユンは自分の傷も忘れ、怒りをあらわにした。
「待て。たしかに父を誘拐したのは霊教会の者かもしれんが、手にかけたのは別の者かもしれん。見ろ」
アマンは悲しむ間もなく、周囲を冷徹に観察した。
「これは……仲間割れか?」
誘拐犯らしき者たちが殺し合っていた。中にはまだ生きている者もいる。
「まず生きている者を捕らえろ。話を聞こう」
アマンは父の遺体を部下に任せ、尋問に向かった。
◇
「ここで何があったか言え」
アマンは誘拐犯の一人を冷徹に見据えた。
すぐに殺してしまいたい衝動を、辛うじて抑え込む 。
「私たちは霊教会の者だ。あの老人を護衛するよう言われただけで、誘拐だなんて知らなかった。本当だ!」
「続けろ」
アマンは冷たく命じた。
「あんたたちが追ってきたと隊長が言って、そこで初めて誘拐だとわかったんだ。だが隊長も、俺たちも、殺すつもりなんてなかった。隊長はすぐに逃げようと言ったんだ!」
「その隊長というのはこの男か」
ジユンは死体から切り飛ばした隊長キョウソの生首を、静かに机の上に置いた。
隻眼となったその目が、嘘をつけばこうなるぞと語っていた。
「ひ……そ、そうだ!そしたら、ヒョウという傭兵が隊長を殺して、略奪を始めたんだ。俺たちも止めようとしたが、殺された。嘘じゃない!」
現場の状況を見れば、この男の言葉は概ね本当だろう。
「嘘とは思わん。だが、まだ聞くことがある」
アマンは男をにらみつけ、その場を離れた。
「オウライ、捕らえた者たちからアジトを聞き出せ。口を割らなければ拷問してかまわん。嘘をつく可能性もある、必ず複数から裏を取れ。それと——西に逃げた、顔に刻印のある男を追え。おそらくヒョウという。やつだけは逃がすな」
「ハッ!」
オウライをはじめ、部下たちが短く、しかし力強く答えた。
アマンはジユンに向き直った。
「ジユン、その傷では捜索は無理だろう。今なら霊都に戻れば、眼も再生できるかもしれん」
ジユンは首を横に振った。
「いや。これはオレの不注意が招いたことだ。オレがやられなければ、キョコウ様は死なずに済んだかもしれん。そうでなくとも、犯人を捕らえることはできたろう。これは戒めにしておく。」
「ジユン……」
アマンはそれだけ言って、黙ってうなずいた。
◇
カギはショウからの親書を確認し、リユウ、エイサイ、キョウとともに協議していた。
「今すぐ霊都と旧王都を明け渡せ、そして、まずこちらに来い……か」
キョウは親書を見ながらつぶやいた。
「アマン様も不在のうちに、こんなもの飲めるはずがねえ」
エイサイは拳を握りしめた。
「なるほどね。キョコウ様を誘拐してアマン様を不在にさせ、その間に無理難題を吹っ掛ける。回答がなければ武力行使。よく考えてるね」
リユウはそう言いながらも眉間にしわを寄せた。
「私がカイのもとに行くのは構わんが……」
キョウが口を開く。
「殿下、恐れ入りますがそれはお考え直しを。殿下のお命が危のうございます」
カギが反対した。
「わかっているよ。それに私があちらに行けば、たとえ無事でも、お前たちの大義名分がなくなる。世話になっているお前たちを困らせるような真似もしたくない」
「殿下」
カギはキョウに深く頭を下げた。
「ではこうしよう。この申し出はその方向で考えると返事をしろ。その上で、私は仮病を使う」
「クククク、殿下も悪知恵が働く」
リユウが意地悪そうに笑った。
「リユウ殿、不敬ですよ」
カギがリユウに釘を刺した。
「とにかく、アマンが戻ってくるまで時間を稼げ」
「では、そのように使者を送ります」
「ああ、ゆっくりでいいぞ」
キョウはいたずらっぽくニヤリと笑った。
◇
私たちアビ傭兵団三百人は王国を出て、旧魔王領へ向けて進んでいた。
「見えてきたね。関所の町、西域が」
遠くに街の輪郭が浮かびあがる。
はじめて踏み込む者も多く、期待と緊張が入り混じった空気が列の中を走った。
「旧魔王領ってどんなところなんだ?」
隣を歩くヨクトが聞く。
「一言で言うと、修羅の国ね。強い者が絶対で、弱い者は死ぬか搾取されるか、誰かに庇護を求めるしかない。もちろん地域差はあるけどね」
「オアシスみたいなもんか」
ソウが顔色を変えた。
「ただ、あそこのルールは人間基準だと秩序ができる。ルールより力が上回るなんてまずない。でも魔王領は魔族がうじゃうじゃいるからね」
「そんな中で、リーダーはどうやって生き延びたんだ?」
「来てすぐに少し訓練を受けられたのがラッキーだったわ。あとはスキルを磨いて、やばい相手かどうかわかるようになってから——戦う前に逃げることができた」
「へえ……さすがだな」
解析スキル【翻訳者】は自動発動型に鍛えた。
自分より格上の相手は「解析不能」と表示される。
おかげで、やばい相手には戦う前に避けることができた。
まあ、あとはあまり思い出したくない。
本来は戻ってきたくもなかった場所だ。シリュウに呼ばれるなら、仕方ない。
「もっとも、魔王ヴィクトリーも元は人間だったんだけどね」
カギにもらった飛翔板が気に入ったようで、地上をすべるように移動しながら、アオがさらっとすごいことを言った。
「そ、そうなのか!?」
ヨクトが驚く。
「なんだ、知らなかったのか」
ビゼンは知っていたようだ。
「死翼が彼を魔王にしたんだけどね。アビも魔王にならない? 私が推薦するよ」
「冗談じゃないわよ」
(でも、この三百人を連れて傭兵隊長をやっているのも、そろそろ限界ではあるのだが)
「しかし、そんなやばいところから魔族たちが攻めてこないのはなんでだ?」
ヨクトが言った。
「私たちがいるからだよ。強い魔族ほど、私たちや四凶には近づきたがらないから」
アオが答えた。
「なるほど。アオにクロにスカーレット、それに究姫に凍子——あなたたちがいるから、関わりたくないってことね」
「それだけじゃないけどね。四霊も人間を教化したがってるから。実際、侵攻してきたヴィクトリーは滅んだでしょ」
「逆に聞くけど、あんたがあっちに行っていいの?」
「ダメな理由はないよ。あんまり娯楽もないから行かないだけでね」
「あまり騒ぎを起こさないでよ」
「何言ってんの。騒ぎを起こしに行くんでしょ」
アオは笑って言った。
まあそれはそうなので反論のしようもなかった。
西域まではシリュウが迎えに来てくれると言っていたが——元気にやっているだろうか。
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