第149話 強盗
「大変です!隊長、トウジョウが捕まり、アマンにバレたようです」
「何!? 本当か! まさかこんなに早く明るみになるとは」
「本来であれば、あのじいさんを人質にしてアマンと交渉するつもりだったが……」
キョウソは思わず地面を見つめた。
「それで、アマンは?」
「軍勢を連れ、まもなくここにやってくるようです」
「クソ、ここまでか。おい皆、聞いての通りだ。解散だ。すぐに逃げるぞ」
キョウソは部下たちに指示を出す。
「しかし、隊長さんよ。このまま解散というのはもったいないんじゃないか」
男がキョウソに詰め寄る。
「どういうことだ、ヒョウ」
「あのじいさん、ずいぶん持ってるじゃねえか。殺して、金品を奪っちまえばいいだろう」
キョウソはヒョウの言葉に驚いた。
「馬鹿を言え。我々は強盗ではない。もう作戦は失敗だ。早く逃げないとアマンが来るぞ」
「そうかよ。じゃあ、アンタとの契約もこれまでだ。オレらは好きにやらせてもらうぜ」
ヒョウはそう言うとキョコウのテントへ向かおうとする。
「待て、貴様!」
キョウソは肩をつかもうとした。
しかしヒョウは振り向きざまにボウガンをキョウソへ向けて放った。
矢が胸を貫く。
「ぐ……」
膝をついたキョウソに、ヒョウは剣を振り下ろした。袈裟斬りだった。
キョウソは声もなく血だまりの中に沈んだ。
「おい、みんな!金目のものを奪ってここから去るぞ!」
そして、惨劇が始まった。
◇
ヒョウの仲間たちがキョコウのテントに押し入る。
老人が振り向いた。
「なんだ、貴様らは——」
言い終わる前に、ヒョウのボウガンが放たれた。
矢はキョコウの腹を貫き、壁に縫い付けた。
「ぐ……あ」
キョコウは壁にもたれたまま、ずるずると崩れ落ちた。
「おい、金目のものを片っ端から持っていけ。」
ヒョウは老人のことなど一瞥もせず、部下に指示を飛ばした。
キョウソの部下も抵抗したが、ほとんどはヒョウの手の者だった。
抵抗した者は皆殺しにされ、金品が荒らされ、女たちの悲鳴が上がった。
「おい何をしてる!女などほっとけ!逃げるぞ!」
そのとき、【望遠】スキルが像を結んだ。
馬の蹄が土煙を巻き上げ、こちらへ向かってくる。
アマンだ。
「やべえ!」
ヒョウはスキルを放った。
【遠矢】——ボウガンが射程にかかわらず、視認した距離まで届く。
威力が増すわけではない。
だが不意打ちとしては、十分すぎた。
◇
アマンとジユンは馬を駆けた。
(父上、間に合ってくれ!)
手綱を握る手に力がこもる。
その時、魔力感知が弾けた。
遠くから何かが飛んでくる。
「ジユン!」
しかし叫んだ瞬間には、すでに遅かった。
「ぐわ!」
ジユンが落馬する。
アマンは馬を止め、駆け寄った。
この一瞬が、ヒョウの命運を分けた。
「ジユン! 大丈夫か!?」
「ええい、クソ……!」
ジユンは力任せに顔に刺さった矢を引き抜いた。
左目ごと、引き抜いてしまった。
「オレは大丈夫だ!行け、アマン!」
顔を血に染めながらジユンは吠えた。
「すまん!」
アマンは再び馬を走らせた。
野営地に踏み込んだ瞬間、血の臭いが鼻を打った。
よく知った顔の使用人たちが地に伏し、女たちが襲われていた。
「貴様らあ!」
アマンは剣を抜いた。
野盗が剣を構える間もなかった。最初の一人は首ごと、二人目は胴ごと、三人目は——もう立っていなかった。
遠くに逃げていく人影が見える。
【望遠】スキルで顔を確認した。
顔に刻印があった。
(まだ取り切れていない者がいたのか)
「アマン様!キョコウ様が!」
衣服を剥がれた女が叫ぶようにテントを指さした。
「わかった!」
アマンは上着を女にかけると、テントへ駆け込んだ。
逃げ遅れた野盗が二人、金品を物色していた。
振り向いた瞬間、二人とも首が飛んでいた。
そして、アマンは見つけた。
壁にもたれ、腹にボウガンの矢を刺したまま、まだ息をしている父を。
「父上!」
「おお……アマンか」
キョコウの唇が動いた。声はかすれ、ひどく小さかった。
「大丈夫ですか! 申し訳ありません、今すぐ——」
アマンはボウガンを引き抜こうとして、手が止まった。
(引き抜けば、失血死する。引き抜かなければ——)
どちらにしても、もう時間がなかった。
「アマン……よく来てくれた」
「父上、喋らないでください! 回復魔法を——」
「いい」
キョコウは小さく首を振った。
「お前の顔が見られた。それで……十分だ」
「そんなことをおっしゃらないでください! まだ——」
「あの悪ガキが……こんなに立派になって」
キョコウの目が細くなった。
笑っていた。
矢が腹に刺さったまま、血だまりの中で、笑っていた。
「私のせいで……すまなかったな、アマン」
「なにをおっしゃいます。私のせいです。私が……私が父さんを巻き込んだ」
「お前は何も……悪くない」
キョコウの手がゆっくりと上がり、アマンの頬に触れた。
冷たかった。
「ありがとう……」
それきり、手が落ちた。
「父さん」
アマンは動けなかった。
「父さん……父さああああん!」
血だまりの中で、アマンは一人絶叫した。
しかし、キョコウが返事をすることはなかった。
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