第146話 火種
「そうか、兄上が死んだか……」
ショウ・エンはカイ王を迎えにいく道中でその知らせを聞いた。
複雑だった。
コウロは腹違いの兄で、妾腹の自分を見下してきた。しかし、張り合ってきた相手でもあった。
その兄を見返したい思いで努力を重ね、今の地位がある。
尊敬など微塵もしていないが、感謝していないかといえば、それも複雑だった。
(兄を歪ませてしまったのは自分かもしれん。)
ショウはそう思い、心の中で兄に黙とうをささげた。
「閣下、まもなく陛下のもとへ到着します 。」
部下から声がかかった。
「兄よ。あなたの果たせなかった夢は、この愚弟が継がせていただく 。」
ショウの眼はもう前を向いていた。
◇
「ショウ殿、ご苦労であった。」
リジュエルがショウに労いの声をかけた。
「ハッ、臣下として当然の務めでございます。」
ショウと配下たちは幼い王に跪いた。
ショウはちらりとカイ王の顔色をうかがう。
(思ったより顔色がいいな。)
そして、ショウは目線を横にやる。
王の横に一人の少女がついている。
(この娘、何者だ?)
ショウはひそかにこの娘を解析しようとした。
しかし、何もわからなかった。
(これではまるでクロ様や、アオ様ではないか!?)
(こいつ、何者なのだ?)
「ところで、リジュエル殿、陛下の横におられるその少女は?」
ショウはリジュエルに少女の正体を聞いた。
「こちらの方は霊教会の大司教、ジョカエル様です。」
(また、大司教だと!?こんな娘が!?)
「ジョカエル様は見た目どおりの方ではございませんので、ご安心ください。」
それだけはショウも理解できた。
「陛下、これよりは陛下の安全はこのショウがお守りしますので、どうかご安心ください。」
「うむ、よろしくたのむぞ。」
王はそういいながらも、ジョカエルのほうをちらりと見た。
ジョカエルは子供を見るようにやさしくほほえみ、うなずいた。
◇
ときはさかのぼり、コウロが城から逃げ出した後、ハオの軍は堂々と正面からコウロの領地に入っていった。
「ハオ様、万歳!」
「くたばれ、コウロ!」
領民たちはみなハオを歓迎した。
ハオは笑顔で手を振って、領民の歓迎に応えた。
「ハオ様、コウロは家族を捨てて逃げていったようです。家族はどうしますか?」
イフがハオに確認した。
「丁重に扱え。」
「ハッ、そうおっしゃると思っていました。」
「だが、どんな理由であれ、彼らにとっては私は仇だ。会わないほうがいいだろう。頼む。」
「ハッ。」
ハオはそういうとコウロの城内を見て回った。
中は贅沢を極め、食糧にあふれていた。
「コウキ、食糧を民に開放してやれ。いらない絵画や銅像などはなるべく高く売り、食糧や兵の備品に換えろ。」
「御意。」
コウキは笑って短く答えた。
「しかし、問題はこれからだな。アマンはこの城の明け渡しを要求してくるだろう。」
ハオは玉座に座り、みつあみをいじりながら言った。
「そうだろう。だから予定通り、旧王都を明け渡す代わりにコウロ領の領有を認めるように交渉する。」
コウキはハオと仲間たちを見ながら答えた。
「戦って勝てないか?」
ハオはコウキに不満そうにいった。
「勝てないとはいわないが、そもそもここから旧王都は遠い。ここと旧王都の復興を同時にするのは無理だ。アマンにも利がある話だ、飲むと思う。」
「チェ、そうか、戦ってみたかったけどな。」
ハオはつまらなそうにいった。
「で、コウロのやつはどうなったんだ?」
「野垂れ死にしかかっていたところを傭兵に捕らえられたらしい。」
「なるほどな。父上の死の真相を聞けなかったのは残念だが。」
ハオは玉座で頬杖をつき、父の顔を思い出した。
◇
「アビ、ご苦労だったわね。」
カギが報酬の目録をワタシのところに持ってきた。
「ありがとうございます。」
ワタシはそれを受け取った。
「正直言うと、ワタシは何もしなかったのですが。」
ワタシはちょっと申し訳なく思った。
「でも、あなたも兵を食べさせないといけないでしょう。もらっておきなさい。それにコウロにはあなたも因縁があったでしょう。」
(まあそれはそうだ。)
「そうですね。ありがたく受け取っておきます。ところで、アマン様は?」
「アマン様はすでに霊都に戻られました。何か気になることがあるとか、私も詳細はわかりませんが。」
(あいつもいそがしいな。キョウに何があったか聞いてみるか。)
キョウの部屋とワタシの部屋がつながっているのはカギにも秘密だった。
「それでは、あなたたちも霊都に戻ってゆっくり休みなさいな。またね、アビ。」
彼女はそういうと、飛翔板に乗る。
「ええ、また。」
カギは飛翔板を走らせ、消えていった。
◇
霊都——
トウジョウの屋敷に、アマンとその兵が乗り込んできた。
「アマン様、これはどういうことでしょうか?」
トウジョウは慌てて、アマンに向かっていった。
「トウジョウ殿、陛下はどちらにおられる?」
アマンは冷たく言い放った。
「それにつきましては殿下にお答えしました。安全な場所でお守りしていると!」
トウジョウは憤っていった。
「そうだな。だから殿下と私は卿のいうとおり逆賊コウロを討ったのだ。王都もハオと話がついた。すぐに戻ってくる。今度はそちらの番だ、陛下の行方を言ってもらおう。」
「なにをおっしゃいます!ハオが約束を守るとはかぎらないではないですか!それよりこんなことが許されると思っているのですか!」
トウジョウはアマンに指を突きつけてなじった。
その瞬間——
トウジョウは何が起こったかわからなかった。
自分の人差し指がぽとりと落ちた。
「ぎゃああああ!」
トウジョウは指を抑えてうずくまる。
アマンのスキル【絶影】である。
「トウジョウ、勘違いするな。私は言えと命令しているんだ。私は殿下のように甘くはないぞ。狸が、狸汁になりたいか。」
「ふざけるな!こんなこと!」
次の瞬間、トウジョウの耳が落ちた。
「ぎゃああああ!」
「聞こえぬ耳なら必要なかろう。なるほど、卿はここではいえんらしい。連れていけ。残りは私とともに屋敷を捜査する。必ず何か手掛かりがあるはずだ!」
「ハッ!」
トウジョウはアマンの兵たちによって引きずられていった。
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