↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。  作者: 黒木菫
正義愛鬱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
145/279

第145話 野望の終わり

「なぜ、こんなことに……」


コウロは城に戻り、偽りの玉座に座り込んだ。


息はあがり、膝が震えている。


「これ!だれかいないか!?蜂蜜酒をもて!」


静寂が返ってきた。


「……だれか。」


もう一度、今度は小さく言った。


やはり、誰も来なかった。


女たちはいずこかに逃げてしまっていた。


玉座の間に、コウロ一人だけが残されていた。


「ええい!だれかおらんのか!?」


壁に向かって叫んだ。


こだまだけが返ってきた。


「閣下、お待たせしました。」


リングがやってきた。


火傷が全身を覆い、応急処置の回復魔法も追いついていない。


それでもコウロのもとへ来た。


「おお!リングか!よかった!今すぐ和平の準備をしろ!」


「和平……とは?」


「うむ!アマンにわしの娘をやろう!奴は未婚だったろ!公爵の、いや、他国の王の娘とあればアマンも誇り高いであろう!」


リングは首をふった。


「ああ、まだおわかりになりませんか……。」


「なにがだ!?」


「アマンはそんなもの望んでいません。むしろ、貴族制度そのものをなくそうとしているふしがあります。」


「なに!?それではやつのほうが、大逆の破壊者ではないか!?」


貴族制度をなくす。


コウロにはその言葉の意味がわからなかった。


「コウロ様、ここは潔く降伏してください。あるいは——」


リングは手元から短刀を取り出した。


「なんだ!?貴様、余に死ね、というのか!?この大公爵たる余に!?長年、王家に忠誠を誓ってきたエン家のわしに!?」


「ええ、コウロ様が自決されれば、アマンはお嬢様や奥様まで手にかけることはないでしょう。刃物には毒が塗ってあります。ほんの少し肌を傷つけるだけで、眠るように亡くなれます。」


「うごおおお……」


コウロは唸った。


玉座の肘掛けを、両手で強く握った。


長い沈黙だった。


「わかった。」


コウロはゆっくりと息を吐いて立ち上がった。


「わしは死ぬ。」


「閣下……」


リングは短刀を差し出し、コウロはそれを手に取った。


リングの目に、尊敬の色があった。


最後の最後に、この方は覚悟を見せた——


リングがそう思った、その瞬間だった。


「ぐお!」


短刀がリングの腹に深々と刺さっていた。


コウロが突き立てたのだ。


「コ、……ウ……」


リングはゆっくりと崩れ落ちた。


床に倒れ、動かなくなった。


「ばかめ!」


コウロは短刀を引き抜き、リングの遺体を見下ろした。


「なぜわしが死なねばならん!お前ひとりが死ね!」


コウロは自分が作らせた王の服を脱いだ。


それをリングに着せた。


リングの遺体を引きずり、玉座に座らせた。


火傷だらけの顔が、玉座の上で前を向いた。


「だれかおらんか!リングが乱心した!わしは逃げ……いや、ショウのもとに行くぞ!金を用意しておけ!敵の包囲の少ないところを探せ!」


駆けつけた兵の前で、コウロは命令した。


その声だけは、まだ王のように響いた。


◇


「陛下!北門のほうが敵の数が少ないようです。」


「うむ!わしは庶民に変装してひそかに脱出する!」


「王妃様や姫様はどうなされますか?」


「後日、迎えをよこすゆえ、城においていく!」


「は?……しかし!?」


「代わりの死体を置いていくから、わしは自決したと伝えろ!いくぞ!」


コウロは数名の兵だけを連れ、北門から走り出た。


妻も娘も置いて。


玉座に残したリングの遺体も置いて。


だが、それをアマンの魔導士は【望遠】スキルで見ていた。


◇


「コウロはどこだ!!」


「このあたりにいるはずだ!?」


「探せ!」


アマンの兵がコウロを追った。


(なぜだ!なぜわかる!?)


コウロは森の中を一人、走っていた。


連れてきた兵たちはいつの間にか散り散りになっていた。


もう誰もいない。


持っていたものは何もない。


ただ一つ——魔力感知を妨害する、代々伝わる魔道具だけが、今もかろうじてコウロを人の目から隠していた。


(逃げ、いや、ショウのもとへ行くのだ。そうだ、あいつに王を譲ってやろう。そうすれば……!)


何かに縋るように、コウロは走り続けた。


肺が燃えるように痛かった。


足がもつれた。


それでも走った。


◇


「ほんとに、こっちにコウロがくるのかよ?」


ヨクトが空を見上げながら言った。


空は青い。


のどかだった。


「まあ、こなきゃこないでいいわよ。来たら捕まえろと言われてるだけで、前金はもらってるしね。」


ワタシはヨクトに答えた。


傭兵の仲間たちも退屈そうに笑いあっている。


コウロの城の反対側では激しい戦闘があったと聞いているが、こちらには魔力感知でも兵は見当たらない。


アオも周囲に兵はいないといっている。


もっとも彼女にとっては十万の兵も脅威ではないので、あまり参考にはならないが。


「リーダー!向こうのほうに爺さんが倒れてるらしい!」


偵察に行っていたソウが駆け戻ってきた。


「じいさん?こんなところで?旅人か?」


「仲間が介抱してるが、もう助からないかもしれない。ずいぶん衰弱してる。」


気の毒だな。


最期くらいは看取ってやるか。


そう思って、ソウの後をついていった。


◇


七十くらいに見えた。


髪は白く抜け落ち、肌はしなびて、死相が出ていた。


全身が泥と汗で汚れ、衣服はぼろぼろだった。


「おじいちゃん、大丈夫?」


ワタシはしゃがんで、老人に声をかけた。


いや——待て。じいさんじゃない。


この顔。


泥の下の、この顔を、ワタシは知っている。


「お前!コウロ!」


思わず声が出た。


「え!?こいつが!?」


ソウも声をあげる。


「たしかにコウロだ!」


ビゼンも驚く。


コウロはワタシの声を聞いてうめいた。


しかし、その目はもう焦点が合っていなかった。


ワタシが誰かも、わからないようだった。


「蜂蜜入りの水が……飲みたい……」


それだけ言って、コウロは死んだ。


ワタシとビゼンはお互いに顔を見た。


(あのコウロが、なぜこんな場所で、なぜ一人でこんな格好で——)


ワタシにはわからなかった。


ただ、一つだけわかったことがある。


ワタシとコウロの因縁は終わった。


拍子抜けするほど、あっけなく。


なんとも後味の悪い終わり方だったが。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


続きが気になった方は、

ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!

SNSで拡散お願いします

やる気がでます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。