第141話 降伏するもの、行き詰るもの
「坊や、敵さんから、降伏したいというものが来た。」
エルフの魔導士、リユウは合図もせずにずかずかとアマンのテントに入ってきた。
「リユウ殿、坊やはやめてくれ。」
アマンは無許可で入ったことは咎めずにいった。
「だれもいないからいいじゃないか。」
リユウは肩をすくめて笑っていった。
「で、何者が下ってきたのだ。」
「豪族、カンユの息子、ゲンリュウと名乗っている。」
「カンユ、聞いたことはある。」
アマンは考えながら話した。
「コウロの領地の近辺の豪族だ。彼がわが陣営に来るなら、よろこばしい。」
「罠だという可能性は?」
「罠なら、このあと彼は父に連絡するために軍に戻るというだろう。カンユにはこちらから使者を出すと伝えればいい。それで、あっさりのめば罠ではないだろう。ゲンリュウ自身が人質になるのだからな。」
「なるほど。坊やは昔から悪さを考えるのは得意だね。」
「では、すまないが、彼をここに連れてきてくれるか。あと、ジユンもここに呼んできてほしい。」
アマンは苦笑しながらリユウに依頼をした。
「わかった。」
リユウはそういうとゲンリュウを呼びに行った。
◇
「ほう?卿とその父、カンユ殿とやらは私と戦う意思がないと。」
アマンはひざまずくゲンリュウを見下ろし、改めて聞いた。
「ハッ、兵たちもコウロに忠誠などありません。兵ともどもアマン様に降るでしょう。以降、我ら親子はアマン様に忠誠を誓います。」
ゲンリュウはひれ伏し、膝をつく。
「いいだろう。戦わないものを攻めるわけにはいかない。では貴殿はこのままわが陣にとどまり、君の父君にはこちらから使者を出すが、それでかまわないかね。」
「ハッ、結構でございます。」
「わかった。今日より、貴殿および父君はわが同志だ。」
アマンはゲンリュウの手をとり、立ち上がらせた。
「今日のところは疲れたであろう。ゆっくり休むがいい。」
「ありがとうございます。」
「ジユン、彼を案内してやってくれ。」
「かしこまりました。」
ジユンはそういうとゲンリュウを連れて行った。
「どうやら、罠ではなさそうだね。」
リユウは安心したようにいった。
「ああ、そうだろうと思っていた。」
「思っていた?」
リユウは不思議そうな顔をした。
「コウロがこちらに向けて軍を派遣したことは把握していた。しかし、その速度が異常に遅いのだ。何かあるとは思っていた。」
「なるほどねえ。さすがだねえ。えらいねえ。」
リユウは、アマンをからかうようにいった。
「しかし、降伏してくれるのはうれしいが、これでは張り合いがないな。」
アマンは再び机に向かった。
◇
一方、旧王都にはコウロ配下のリングが、オーガの戦士、周鬼にアマンの背後を襲撃するように、ハオの使者とともに来ていた。
「なるほど、たしかにこれはハオ様の文字だ。わずかにハオ様の魔力も感じる。」
周鬼はリングから受け取った書面を見ていった。
「そうか、ならば命令に従い、アマンの背後を襲撃しろ。」
リングは周鬼を見上げながらいった。
リングも巨漢の戦士だが、さすがにオーガにはかなわない。
「断る。」
周鬼はきっぱりといった。
「なぜだ!ハオ殿の命令に間違いはないだろう!」
リングが周鬼に詰め寄る。
「たしかに、これはハオ様の文字だ。そしてわずかに魔力も感じる。しかし、それでもこれが本物だという確証がない。」
「なにをいう!そこの使者は紛れもなく、ハオ殿の使者ではないか!」
リングはそういって一緒に来た使者を指さす。
「たしかに。だが、上位魔族が化けているのかもしれないし、脅されているのかもしれん。」
周鬼は屁理屈をこねてかたくなに断った。
「クククク。」
「フフフフ。」
そんな二人のやりとりを見て、同じくオーガの戦士、蔣鬼と魔族の女であり、コウキの妻、宵喬はからかうように笑っていた。
「ふざけるな、貴様!」
リングは侮辱されたことに顔を真っ赤にして怒りをあらわにする。
「別にふざけてはいない。ようするに、オレは貴様を信用していない。それだけだ。」
「な、なんだと!?」
「簡単な話だ。オレは強いものには従う。貴様はオレと勝負して勝てばいい。そうすればすぐにでも貴様を信じよう。」
「ばかなことを!」
そうはいったが、どう見ても勝てるわけがなかった。
リングも腕には自信があった。
並の戦士には負けるつもりはなかった。
だが、それは人間並みの魔物が相手の話である。
周鬼の丸太のような手足、岩のようなガタイはどう見ても勝ち目がなかった。
「ク!貴様覚えていろ!」
そういいながら、リングは周鬼のところから去っていった。
その様子を見て、宵喬と蔣鬼はますます笑った。
「おお、人間、貴様はお使いすらできんのか!」
「蔣鬼、そんな難しいことをいって、あの人を困らせてはだめですよ。」
リングは顔を真っ赤にして出ていった。
しかし、職務を果たせず、どうすればいいかは全くわからなかった。
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