第139話 逆賊討伐
チュウエイを討伐してからワタシの傭兵団はまた名をあげ、団員が増え、今では三百人を超えるちょっとした部隊になっていた。
スポンサー兼取引先になってくれているのが、魔族商人のジークだ。
彼女との縁もあり、魔族や魔物、エルフたちもちらほら見える。
五十名ほどが魔物や魔族たちだ。
オーガやゴブリンといった魔族たちの中には血の気の多いやつもいたが、ベヒーモスの魔人、モスに押さえられていた。
あいつは両手四本をロフに飛ばされ、上半身と下半身をまっぷたつにされたが、生きて、おまけに現場復帰している。
流石は魔獣が人化した魔人だ。
人間なら当然即死していたわけだが。
なかなかカオスなのが、女性の兵の影響だ。
とくにショウコ、コウユだ。
ワタシの追っかけ部隊だ。
しかし、彼女たちも腕を上げ、今度は自分たちが追っかけられている。
彼女たちを追っかけるのが目的で女性兵士が増え、さらに女性兵士が目的で男性兵士が増えている。
風紀が乱れてはいるが、ワタシは大人としてそこは黙認している。
ただし、性的な暴行だけは基本的にご法度にしている。
先日も勘違いして悪さをしたやつの首を即座にはねてやった。
すると、何人かの兵士が部隊から逃げ出していた。
何を勘違いしてやってきたのだろうか。
うちの部隊は強ければなんでもアリではないのだ。
ただし、例外もある。
この世界では魔族に近いほど、力こそが絶対の文化もあるようだ。
負けた方は勝った方に何をされてもしょうがない、お互い了承の上に決闘で決めた場合は別にしてある。
めったに起こるわけではないが。
しかし、この世界、個の力の理屈は大きい。
兵が逆らわないのは、ワタシやビゼンやヨクトには敵わないからだ。
もっとも、ワタシだって、まともに戦えば、あの二人には勝てない気がするが。
なお、アオはキョウも気に入ったらしく、ワタシのテントとキョウの部屋を扉でつなげてしまった。
そんなわけで、キョウと一緒にいる妲姫とはしょっちゅう会っている。
というか、彼女のベッドの寝心地がいいので、勝手にベッドに潜り込んだりもしているが。
ただ、彼女はワタシの知らない間に夜遅く帰ってきて、朝早く仕事に出ていることも多い。
相変わらず、彼女には頭が下がる。
◇
陣中、夕暮れ——
焚き火の煙が幾筋も立ち上り、肉を焼く匂いと兵たちの笑い声がテントの間を流れている。
ショウコとコウユが、追っかけてきた男たちを軽くあしらいながら笛のように高い笑い声をあげていた。
ワタシもビゼン、ヨクトらと食事を楽しんでいた。
そこへ、飛翔版にのったカギが現れた。
あっちの世界のスケボーのようなデザインで低空を滑空する魔道具だ
護衛もつけず、供もいない。
「どうも、お疲れ様、アビ。」
「カギ様、ご足労おそれいります。」
その彼女は気さくな女性だ。
国の重職が一人でやってくるとは。
実質的にアマンの代行を務めている彼女に、ワタシは頭を下げた。
彼女が王都ではなんと飲み屋を経営していたと聞いたときは驚いた。
舞い降りたカギをワタシはテーブルに案内した。
「アマン様からの依頼を伝えます。報酬はこれだけよ。」
羊皮紙を一枚、テーブルに置く。
ワタシはカギから依頼の内容を受け取った。
報酬は結構ある。
しかも、コウロを生死を問わず捕らえた場合はさらに大きい成果報酬がある。
依頼は特定の地域に待機し、コウロが来たら生死を問わず捕らえることだった。
「これは、ここにコウロが来るということですか?」
「そういうことよ。アマン様は軍を率い、コウロを破ります。敗れたコウロが敗走するいくつかのルートの一つが、あなたの部隊の担当です。」
できればワタシが捕らえて、ボコボコにしてやりたい。
やつには刻印を刻まれ、とんでもない目に遭わせられた屈辱がある。
忌まわしい記憶がよみがえる。
しかし、もう完全に勝つことを前提にしているとは恐れ入る。
「わかりました。ただちに任務に向かいます。」
本当はジョカと話がしたいところだったが仕方がない。
カギは羊皮紙を回収しながら、笑い声の響くテントの外を一瞥した。
「相変わらず、賑やかな部隊ね。」
それだけ言うと、また馬に乗って夜の中に消えていった。
ワタシは仲間たちとともに任務に向かうのだった。
◇
旧王都の宮殿、地下の作戦室——
窓のない部屋に、灯りは一つもない。
代わりに、天井に光る魔法の淡い光だけが部屋を満たしている。
幹部たちを前に、アマンは行軍の説明をおこなった。
空中に、地図が浮かんでいる。
魔力で描かれたホログラムだ。
旧王都、霊都、コウロの領地、歓楽都市オアシス——光の線が国土を縦横に走り、軍勢を示す小さな光点がいくつも瞬いている。
誰も口を開かない。
「我々はまず、いったん旧王都に向かう。なお、旧王都を占拠しているハオ軍とは話をつけてある。ハオはもともとコウロと同盟関係にあったが、我々を素通りさせてくれるらしい。」
「大丈夫なのでしょうか。背後から攻められる可能性はございませんか。」
幹部がアマンに確認する。
「その場合は、別動隊で旧王都を攻める手配をしている。先にハオを滅ぼすまでだ。」
短い答えだった。
それで十分だと、幹部にもわかった。
「もっとも」
アマンは一拍おいてから続けた。
地図の上で、指先の光がハオの領地を示したまま止まる。
「ハオは、彼女の父、レツオウがコウロの配下、ハクエイに逆賊の汚名を着せられ殺されたのではないかと疑っている。実際、おそらくそうだ。証拠はないがな。コウロはそれを利用しているだけだろう。」
その指先の光が、わずかに揺れた。
幹部たちは黙ってアマンの備えに感心した。
「そして、歓楽都市オアシスを大きく迂回し、コウロの領地に向かう。」
光の線が、地図の上を大きく弧を描いた。
「朱雀竜様対策だと思いますが。アビ殿のところにいらっしゃる青竜様から、朱雀竜様に通らせていただけるようお願いするのはどうでしょうか。」
また一人の幹部がアマンに確認した。
アマンの目が、わずかに細くなった。
部屋の光がほんの一瞬、揺らいだ。
「青竜様や朱雀竜様に借りを作るというのは、卿が思うより大きな借りを作ることになる。」
朱雀竜の名を出した家臣を静かに見つめる。
「人の世の問題は、あくまで人の世で解決すべきなのだ。」
カギ、ジユンたち、腹心は深く頷いた。
地下の空気が、いっそう冷たくなったように感じられた。
誰も次の言葉を継げなかった。
地図の光が、コウロの領地で一点、強く輝いた。
「逆賊コウロに、ついに引導を渡す時がきた。諸将の働きに期待する。」
「ハッ!」
その声が、地下の石壁に低く反響して消えた。
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