第134話 ショウ、クロを招く
アマンとアビたちが霊都でチュウエイと決戦をしているころ。
ショウ・エンは歓楽都市オアシスを訪問し、ウルファーと面会していた。
ウルファー、この都市のギャングを束ねるリーダーである。
「これはこれは大公爵ショウ閣下が、こんなところまでどのようなご用向きで?」
ウルファーはショウ相手といえ、怖気づくことなく対応した。
クロやスカーレットに比べれば、大貴族といえどかわいいものである。
それに、ショウは軍隊を連れていない。
身近な者数名だけだ。
軍隊などを連れてくれば、たちまちスカーレットに滅ぼされる可能性が高い。
その気になれば、ウルファーはこのままショウを消してしまうこともできた。
むろん、そんな無意味なことをするつもりはないが。
「この町に、朱雀竜様と玄武竜様がいらっしゃるという噂を聞いたが、本当か?」
ショウはウルファーに、隠すとためにならないぞという視線で問いかけた。
しかし、その回答は思いのほかあっさりしたものだった。
「ええ、いらっしゃいますよ。」
別に二人から口止めされているわけでもない。
「なに?本当か?どこにいらっしゃるのだ?」
ショウと配下の者たちがざわつく。
「玄武竜、クロ様はだいたい娼館に泊まり歩いておられます。ただ、最近は町にいらっしゃらないようですが。」
「娼館だと?」
ショウは耳を疑った。
「ええ、クロ様はなんといいますか、そういうのが大好きでして。普段は娼館で用心棒をしておられます。もちろん、クロ様の正体を知る者はほぼいませんけどね。」
ウルファーは苦笑した。
「して。そのクロ様とはどのような方——いや、どのようなお姿なのだ?」
「見た目は黒髪の美しい女性です。」
「女性?女性が娼館に?」
「いや、見た目だけです。中身はおっさ……いや、男性です。それに上半身は女性のような胸をお持ちですが、下半身はご立派な息子もお持ちです。」
ウルファーはこらえきれずに笑った。
「な、なに……?」
ショウとその配下たちは意味がわからず、愕然とするしかなかった。
玄武竜。
四神の一柱。
その名を、彼は神殿の奥に刻まれるようなものとして想像していた。
それが娼館。
しかも用心棒。
理解が追いつかなかった。
「それで、クロ様とお会いするには娼館に行けばいいのか?」
「いえ、それがどうもここのところ、このオアシスにはいらっしゃらないようで。」
「なんと?まことか!」
ショウは肩を落とした。
「して、どちらに?」
「さあ、私にはなんとも。あの方にとっては、西の砂漠の果ても、東の海の向こうも思いのままでしょうから。」
「そうか、そうであろうな。」
(ここまで来ておきながら、なんとタイミングの悪い。)
「では、朱雀竜様はどうだ?」
「朱雀竜様は酒場かレストランのどこかで働いていらっしゃるかと思いますが、はっきりとはわかりません。」
「酒場だと!?」
ショウは信じられないと声を上げた。
「なぜ、わからないのだ。」
「朱雀竜様——スカーレット様と別れた後は、あの方の顔も声もどうにも思い出せなくなるのです。会っている間は、たしかにそこにいらっしゃる。けれど別れた瞬間、顔も声も輪郭も、霧のように抜け落ちるのです。しかし、また出会うと記憶がよみがえる。」
「貴様、からかっているのではあるまいな?」
ショウの配下が口を挟む。
「疑うなら、ご自分で探されるといいですよ。ただ、スカーレット様を探すのはクロ様より難しいですよ。」
ウルファーは配下の苛立ちを流すように答えた。
「では、ウルファー殿。貴殿からお二人に連絡はとれんのか?」
「勘弁してください。気まぐれで国を滅ぼす方々ですよ。呼びつけるなどとてもとても。」
「いや、私はアオ様とはお会いしたが、そこまでの方ではなかったぞ。」
「アオ様は人のことを考えておられますからね。おそろしいのはスカーレット様とクロ様です。あの方々がこの町を煩わしいとお思いになれば、明日にはこの町はありませんよ。ご存じでしょう。つい先日も、十万の兵が消し飛ばされたのを。」
そういわれて、ショウは戦慄した。
「わかった。では、せめてお二人にお会いすることがあれば、ショウ・エンがぜひお招きしたいと申していたとお伝え願えないだろうか。客人として迎えたい。礼を尽くす用意はある。」
「礼ですか。あの方々に、人の礼が通じるかは知りませんが。」
「通じずともよい。来ていただければ、それでよい。」
「まあ、それくらいでしたら。」
ウルファーはそう返した。
ショウがオアシスと居城を往復しているあいだに、チュウエイはキョウ王女に討たれていた。
◇
そして二か月後——
この二か月、ショウの陣営は二つの意見で割れていた。
ショウは決断ができなかった。
キョウ王女を自分の陣営に招くか、自らキョウ王女のもとに赴くか。
「アマンの奴にこれ以上好き放題させるわけにはいきません。」
「われらが領に殿下をお招きするのです。」
「しかし、それでは行方が分からなくなっている陛下に敵対するとみなされても。」
「いや、こんなことをしているよりも、閣下が殿下のもとに行かれ忠誠を見せるべきです。」
「それでは、殿下はともかくアマンごときに閣下が足を運ばれることになる。」
王女を招いた場合、王に歯向かうことになる可能性がある。
どう見てもチュウエイの命令であるが、王は姿を消し、未だに王女討伐の勅命は取り消されてはいなかった。
現状、王女は仮の王——摂政ということになっているが、あくまで王はカイ王である。
そもそも、実権を握っているアマンが王女を手放すことも考えにくい。
しかし、こちらから王女のもとに向かえば、アマンの風下に立つこととなる。
ショウはそんな自分の立場を決めきれず、今日も家臣たちのやりとりを観察していた。
そんなときである。
「やあ、君がショウ公爵かい?」
会議室に突然ひとりの女が現れた。
髪をポニーテールにくくった黒髪の美女である。
異世界風のパンツにシャツという、庶民の間で流行しているようなカジュアルな服装だった。
ショウの護衛たちは優秀だった。
ショウの指示を待つまでもなく、女を取り押さえようと襲いかかった。
「何者だ!」
しかし、女につかみかかった護衛は、次の瞬間には宙を舞っていた。
女は護衛の身体をつかみ、ゴミでも投げ捨てるように次々と放り投げた。
護衛は壁や天井にたたきつけられ、うめく。
「おいおい、話くらいきけよ。そっちから呼んだんだろ。私がクロだ。」
(クロ……!)
(どこかで聞いたような……。)
そのとき、ショウに電流が走った。
「やめろ貴様ら!」
そう叫ぶやいなや、ショウはクロの足元に跪いた。
「閣下……!?」
意味がわからず固まる家臣団。
「この方は玄武竜様だ!」
「げ、玄武竜様!!」
ショウの声に家臣たちも次々と跪く。
「まあ、立ち上がってくれよ。部下を少々痛めつけたのは悪かったけど、話もなしにいきなり襲いかかってきたんだから貸し借りなしだ。」
「この度、ご尊顔にお目にかかれましたこと、ありがたき幸せ。」
ショウは恭しく礼を伝えた。
「そういう固いのはいいよ。ウルファーから話を聞いたよ。大公爵様がわざわざ私に会いにオアシスまで来てくれたそうじゃないか。こちらからも挨拶に来ないとね。それに——私も君にちょっと頼みがあるんだ。」
「頼みですと?」
(玄武竜様がこの私に? だが、これはチャンスだ。)
「わかりました。まずは話を伺わせてください。皆の者、今日の会議はおわりだ。後で私が告げる者だけここに残れ。私はクロ様と話がある。」
クロからの依頼とは、ショウの想像を超えるものだった。
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