第133話 無常の風 第一部完
カイ王が連れ去られた。
その事実に、キョウもアマンも怒りをあらわにした。
「申し訳ありません。殿下、まさか、陛下が連れ去られるとは。」
アマンとその配下たちが膝をおり、王座の横に座るキョウに頭を下げる。
正式な場所のため、ワタシたちも、キョウにひざまずく。
なお、空気を読まず、横でアオと究姫はカードゲーム、デュエル・ウィザーズに興じている。
二人の戦いの決着はカードゲームになったようだ。
いつの間に現れたのか、凍子がジャッジをしている。
アイツもアイツで究姫が死んだなんて、ワタシをだましたわけだが、「ごめん、ごめん。悪かったね、テヘ☆」とごまかしやがった。
「その、アオ様、無理を承知でお願いしますが、なんとかカイの居場所だけでも教えていただけますでしょうか。」
キョウがアオたちのもとに行って頭を下げる。
「もうやったよ。霊都どころか、この周辺まで魔力感知を広げたけど、見つからなかった。」
「そんな、アオ様でも。」
キョウは顔色を変えた。
「殿下、ワタシを騙したことを許すかわりにそちらの究姫にも手伝ってもらいましたが、見つからないといっていました。」
キョウは究姫に目をやる。
「私も見つからなかったよ。たぶん死んでるね。」
ワタシが彼女の怒る前に、アオの右ストレートが究姫の左目を貫いて、彼女は悶絶した。
「たぶん神使がいた。」
青い顔をするキョウにアオが告げた。
「神使ですか?」
「そう、霊教会の四霊の代行者だよ。あいつらなら私たちの魔力感知を掻い潜れる。」
「なら、いますぐ霊教会のジョイエル殿に使いをだせ。何か知っているかもしれん。」
キョウがアマンに指示を出した。
しかし、そのとき新たな知らせが入ってきた。
混乱に乗じて、暴徒化した市民が霊教会を襲撃したのだ。
◇
霊教会本部に市民が殺到した。
「邪教を追い出せ!」
「破壊しろ!」
市民によって、教会のシスターや神父が引きずられていく。
「なんてこと……」
ジョイエルは仲間たちとともに礼拝堂にこもって、霊神に祈りを注いでいた。
しかし、礼拝堂のドアの外から破壊音が聞こえる。
「ジョイエル様。」
不安そうに仲間たちがジョイエルの顔を見る。
「あんなやつらの手にかかるくらいなら……」
一人のシスターが短剣を手に取る。
「大丈夫です。かならず、私が守ります。」
ジョイエルも魔術は心得ていた。
しかし、ここにいない仲間はどうしようもない。
そのとき、ドアが破られた。
「ジョイエル様!」
神父が声を上げた。
ジョイエルは身構えた。
暴徒たちが礼拝堂に乗り込んだ。
しかし、そこはもぬけの殻だった。
「いないぞ!」
「どこにいった!」
暴徒たちがいくら探しても教会員たちは忽然と消えたのだった。
◇
ジョイエルは一瞬めまいがした。
景色が歪む。
しかし、次の瞬間、美しい丘の上にいた。
「ジョイエル様、これは……!」
仲間たちも一緒だった。
「ごめんごめん、遅くなってね。」
ジョイエルの前にはクロがいた。
「クロ様……」
そして、轟音がしたかと思うと、天空から火の玉が落ちてきた。
しかし、そこに現れたのははぐれた仲間たちとスカーレットだった。
「クロ、これでいいの?多分これで全員だと思うけど。」
スカーレットがめんどくさそうに言う。
なぜかメイドの姿をしているが。
「スカーレット様……」
ジョイエルは茫然とスカーレットを見る。
「いっただろう。ジョイエル、君は私が守ると。当然、君の仲間も一緒だ。」
クロはそういってニヤリと笑った。
「ありがとうございます。本当に。」
ジョイエルはクロの手を握ろうとした。
その瞬間、ジョイエルの顔が変わる。
『やってくれたな。クロ、アカ。』
その声は二人にしか聞こえなかった。
「なにいってんだ。私たちのエリアに入ってきたのはおまえらだろ。その声は霊凰か。こうして話すのは何百年ぶりか。今はお前が担当なわけだな。」
クロはジョイエルに答えた。
『この女もまもなく覚醒したものを邪魔しおって、これは貸しにしておくぞ。』
そういうと、ジョイエルは再び、もとの表情に戻った。
「クロ様、私、今何を?意識が急におかしく……」
「疲れてるんだろ。とりあえず、ご飯でも食べようぜ。アカ子、用意しようぜ。」
「これ、あんたにつけとくからね。」
スカーレットが指を鳴らすと、そこに大量のランチボックスが現れた。
「おお、これは!」
「なんとすごい。」
霊教徒たちは二人にひざまずき拝みだした。
「やめてよ。私たちはそういうんじゃないから。」
スカーレットは霊教徒を無視して、子供たちにランチボックスと飲み物を配り始めた。
◇
数日後——
霊教会の人たちがジョイエルを含めて忽然と消えたらしい。
暴徒は鎮圧されたが、事態の真相は不明だ。
しかし、こんなことができそうなのはクロとスカーレットしかいない。
チュウエイは大逆者として、その首をさらされた。
ワタシは傭兵として、その警備を買って出た。
「アビ、お前がこんな役、しなくてよかったんじゃねえか。」
ヨクトがワタシに話しかける。
「まあね、でも、最後くらいはあいつを見届けてやろうと思ってね。」
首になったチュウエイは静かに眠っている。
究姫がそんなことはさせないとでもいうと思っていたが、そんなことはなかった。
「これもアイツが選んだ道だ。あいつの責任だ。」
そういっていた。
ワタシの部隊にも、アマンの部隊にも数名の犠牲が出た。
キョウはワタシたちの仲間も正規兵と同じように弔ってくれた。
そして、ロフ。
やつも最後に身を呈してキョウをかばった英雄として弔われた。
(あいつは最後までわからなかったな。)
わからないといえば、チュウエイの首がさらされたその日に、その首にしがみついて泣いて、衛兵に連れていかれたお年寄りがいた。
しかも知っている顔だった。
キョウがルオとして施しに行っていた貧民街に住んでいた老人だった。
チュウエイは王家の墓をあばいて発掘した財宝などを彼らの支援に使っていたらしい。
それだけじゃない。
キョウやアマンが調べてわかったことだが、チュウエイはやつなりに物価の安定、貧困層の支援をしようとしていた。
そして、金持ちから財産を没収してはいたが、彼自身の私物はほぼ身の回りのものしかなかったらしい。
(究姫もチュウエイはあいつなりにこの国を考えていると言っていた。それもあながち嘘ではなかったわけか。)
空を見上げた。
青かった。
チュウエイが最後に見た空と、同じ色だった。
「アビ、俺たちはこれからどうなるんだ?」
ヨクトがワタシに聞いた。
「まずは、カイ王の行方を探す依頼がキョウやアマンからあるでしょうね。あるいは、今、占領されている旧王都の開放か、コウロ討伐かもしれない。」
(チュウエイとの因縁は終わったけど、コウロの奴にはまだけじめをつけてないしね。)
(あるいは、このままキョウの警護や部隊に就職してもいいかもしれない。)
そんなことを思いながら、もう一度だけ空を見上げた。
◇
ロフの墓の前に一人の女が弔いに来た。
いや、人間ではなかった。
黒い髪に白い肌、赤い瞳が特徴——
徐姫だった。
「まさかお前が死ぬとはなロフよ。」
そして、人の死に少しでも心を動かされた自分にも興味を持った。
「だが、お前ならいずれ、我々の眷属として生まれ変わるやもしれんな。何百年、いや何千年先かもしれんが。」
徐姫は墓石に話しかける。
悪魔である彼女にはそんなところにロフの魂などないことは知っていた。
人の魂は自分たちと違い、混沌の中に混じり別のものになるのだ。
その瞬間に良き魂と悪しき魂は何か違うと聞いたこともあるが、自分たちにはわからなかった。
「できればお前とこの世界をもっと見たかったものだ。妾はこれからどうすればいい?」
(フッ。お前の好きにすればいい。)
後ろでロフの声がしたような気がした。
しかし、徐姫が振り返ってもそこには誰もいなかった。
無常の風だけが吹いていた。
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