第132話 最後に勝つのは正義
「やあ、アビ、久しぶりだね。」
究姫がアオと近づいてくる。
二人とも近づきながら傷はおろか衣服まで直っていく。
「終わったよ。」
ワタシはアオに報告した。
「そうね、お疲れ様。」
「ちょっと。私は?私が生きててうれしくないの?」
究姫が不満そうに言う。
「ワタシはペルフェクティオなんて知らない。あんた誰よ。よくもワタシの剣を消し飛ばしてくれたわね。」
「意地悪いうなよ。アビ。私もチュウエイの顔を立ててやろうと、死んだふりをしてやっただけなんだよ。」
ワタシはチュウエイの亡骸を見た。
「あんなやつでも墓くらいは建ててやるか。」
ワタシはチュウエイのもとに行こうとするが——
「そういうわけにはいかない。」
アマンがやってきた。
アオの魔力に吹き飛ばされて、左腕をかなり負傷しているらしい。
「アオ、あんたのせいでこうなったのよ。治してあげてよ。」
「しかたないわね。」
ワタシはアオに彼の治療を頼んだ。
「いや、アオ様、結構です。たいしたことはありません。」
彼はきっぱり断った。
(アマンはアオたちを嫌っているというより、借りを作りたくないんだろうな。気持ちはわかるが。)
「じゃあ、せめて、アオに頼んで兵の治療を。」
ワタシは彼に提案する。
「いや、それも結構だ。それより、殿下。皆に勝利宣言を。」
アマンはそういって、キョウに跪いた。
「たしかにそうだ。」
キョウはうなずく。
「皆のもの!逆賊チュウエイは死んだ!私たちの勝利だ!この勝利を国中に知らせろ!戦争は終わったのだ!」
「オオオオオ!」
キョウの声に兵たちが雄叫びを上げた。
そして、チュウエイについていた兵たちも剣を投げ捨てた。
◇
キョウはアマンとともに、戦後の打ち合わせのためにさっていった。
代わりにワタシたちのもとに饕狼がやってきた。
しかし、戦闘の意思はもうないらしい。
「あんたはどうするの?まだやるの?」
ワタシは饕狼に確認するが。
「勘弁しろ。究姫様と青竜様を前にやるはずがない。それに、死んだ契約主との約束を守るほどお人よしでもない。お二人にご挨拶に来ただけだ。」
そういって、饕狼は究姫とアオにひざまずいた。
「お前はこれからどうするんだ?饕狼とやら。」
究姫が言った。
「これ以上、アビとやるというなら、この場でお前を消すけど。」
アオが饕狼を脅す。
「め、めっそうもありません。青竜様に無礼をはたらき、華姫が消されたという話は聞いています。」
アオが相当怖いらしく、ひれ伏したまま起きない。
「この近くにわが主がいらっしゃるようなので、契約主も死んだのでご挨拶に伺います。」
「わが主って?」
「こいつは四凶、魔王・饕餮王・死翼の眷属だ。このところ姿を見せなかったがね。」
究姫が補足した。
(いいにくい名前だ。)
「そういえば、お前。私の眷属、徐姫をかわいがってくれたそうじゃないか。」
究姫の目が光った。
「いえ、あれは、ちがうんです!」
饕狼は巨体を震わせ、全力で手を振った。
「まあ、気にするな。負けたあいつが悪い。まあ、よしなにしてやってくれ。」
「ハハ!」
饕狼は震え上がって頭を床にすりつけたあと、全力ダッシュで逃げていった。
何があったか知らないが可哀そうになってきた。
やつもやばいやつだから、悪さをしないことを祈ろう。
なにはともあれ、ワタシはチュウエイとの決着をようやくつけたのだった。
しかし、新たな戦いはすでに始まっていたのだ。
◇
時間をさかのぼる。
キョウがチュウエイの前に現れたとき——
王宮のリジュエルにその報が届けられた。
(やはり、なにかあったか。)
「アタを呼べ。至急だ。」
リジュエルは武官のアタを呼んだ。
40前後の武官である。
「リジュエル様、なんでしょうか?」
アタはリジュエルにひざまずいた。
「チュウエイ閣下が襲撃されたそうだ。相手はキョウ王女だ。」
「なんですと!すぐに救援に向かいます!」
アタは立ち上がり救援に向かおうとする。
「まて、あわてるな。救援は無用だ。」
「は?それはどういう?」
「閣下をお助けするよりも我々はカイ王を連れてこの霊都を離れるのだ。」
「なんですと!?」
「いいか、よく聞け。我々が閣下を助けに向かったとして、間に合わんかもしれんし、できないかもしれん。しかし、王を連れていけば、我々にまだ勝機はある。」
「リジュエル様は閣下を見捨てると!?」
「そうではない。私は閣下をお諫めしたが聞き入れられなかった。閣下なりにお考えがあるのだろう。もし、閣下が勝利されれば、あとで合流すれば問題ない。しかし、我々が行っても間に合わなければどうしようもない。だが、王を連れていけば、正義はわれらにある。」
「な、なるほど。」
「わかったら、王を連れて今すぐ霊都を発つのだ。」
「しかし、いったいどこへ。」
「まずは、西の西関に向かい、そこの霊教会の庇護を頼るとしよう。」
「ハ!かしこまりました!」
アタは礼をいうと出ていった。
部屋に静寂が戻った。
「あなたの思い通りになりましたね。ジョカエル様。」
リジュエルは誰もいないはずの部屋に向かって言った。
「ああ、それでいいのよ。」
一人の少女が現れた。
見た目こそ10歳程度の少女だった。
しかし、少女にはありえない自信にみちた笑みを見せた。
彼女はジョカエル。
霊教会の大司教の一人にして神使である。
「最後に勝つのは正義なのよ。…アビ。」
ジョカエルはなぜかアビの名を呟いた。
◇
その後、アタは一軍を率いて、リジュエルとともにひそかに霊都を脱出した。
アマンとキョウが王宮についたとき、王とリジュエルたちの姿はすでになかった。
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