第126話 禁断の兵器
霊都、とある酒場——
ロフは一人で酒を飲んでいた。
「将軍、よろしいでしょうか。」
一人の初老の男が声をかける。
ローブをまとい、仮面をつけた男を連れている。
「シシ殿か。なんだ?」
ロフは二人を一瞥した。
「このたびはお祝いを申し上げようとおもいまして。」
「祝いだと?」
「チュウエイ閣下が霊教会の枢機卿になられるとか。そうなると将軍もますますご出世されるかとおもいまして。」
「何?それは誰から聞いた?」
ロフも聞いていた話だった。
しかしなぜもれている。
「みな、うわさしております。」
「まだ決まったわけではない。」
(どうでもいいことだが。)
「将軍は、あまりうれしそうではありませんな。」
「フン、どうでもいいことだ。」
シシはロフの顔色を伺った。
「将軍、今こそ、私の本心を話しましょう。私はキョウ殿下こそ、王にふさわしいと考えています。」
酒を飲む手が止まった。
「今の陛下に落ち度があるわけではありませんが、このままではチュウエイはこの国を霊教国に売り飛ばしかねません。そうなれば、私のような老いぼれはどうでもいいですが、将軍のような若い方は笑われ、家族まで後世まで汚名を残すでしょう。」
「何が言いたい?」
ロフはシシを睨んだ。
「将軍、あなたの弟君はチュウエイと決闘をし、名誉の戦死をされたとか。そして妹君は不審死をされたとか。」
「貴様……」
ロフは目線に殺気を込める。
しかし、シシも怯まなかった。
「このままでは、将軍の弟君、妹君は枢機卿に刃を向けたものとして汚名を残すことになるかもしれません。」
ロフはシシを睨みながら言った。
「たしかにキョウ殿下は勇敢だ。しかし、今もアマンのやつに神輿に担がれているだけだろう。チュウエイのやつは確かにオレの身内の仇ではある。しかし、やつもやつなりにあがき、もがき今の地位があるのだ。それに——やつはやつなりにこの国のことを考えている。オレの弟も必要だったから殺しただけだ。」
そして、ロフは息をつぐように酒を飲む。
「妹のことはわからん。」
「将軍、それについて、紹介したいものがいます。このものです。」
そういって、シシはローブの人物を紹介する。
「このものは、将軍の妹の最後を見たものです。」
「なんだと!?」
ロフの顔色が変わる。
「しかも、このものは自分で見たものを映し出すという特別なスキルをもっていましてな。」
シシが促すと、ローブの人物は懐から水晶を取り出し、テーブルの上に置いた。
そこに二人の人物が映る。
チュウエイと一人の女性。
「レイキ。」
思わず妹の名前が出た。
(どこかにキョウ王女の面影がある。)
シシはそう思ったがいわなかった。
二人が話しているのが見える。
「あれは正当な決闘だった。何度いえばわかる。お前の兄も見ていた。」
チュウエイがレイキに話しかける。
「バク兄さんがお前などに負けるわけがない!」
そういって、レイキは剣を構えた。
「わかった。お前が立会人だ。」
そういってチュウエイはこちらを指さした。
次の瞬間。
バン!!
大きな音がした。
チュウエイが手に持った何かの道具から火花が出たように見えた。
レイキが倒れる。
「それはないんじゃないか?」
水晶から立会人の声が聞こえた。
聞き覚えのある女の声だった。
ロフは思わずローブの人物に向いた。
「お前は、究姫か!?生きていたのか!?」
ローブの女は慌てて、手を左右に振り違うというポーズをした。
「で、究姫よ。今のチュウエイが使ったものはなんだ?魔法にも見えなかったが。」
「あいつの奥の手。異世界の武器、ピストルだよ。鉛の弾を飛ばす武器さ。」
ローブの女は究姫と呼ばれたことも否定せず答えた。
「人間なら、初見では防ぐことも交わすこともできないだろうね。」
「なぜ、今になってこれをオレに?」
「あいつが先に私を裏切ったからね。秘密くらいは暴露させてもらうよ。お前がどう思うかはお前の自由だ。私はもう、すべてを出したうえでみとどけるだけさ。あと、私は究姫などではない。」
ローブの女はあくまで自分は究姫ではないと主張した。
「そうだな……ペルフェクティオと呼んでくれ。」
ロフはそれを聞いてシシとペルフェクティオに告げた。
「オレたち兄弟は辺境の地で、王家にいいように使われてきた。そこで出会ったのが異世界人のチュウエイだ。」
ロフは酒を口にする。
「やつはオレにいった。この国で、この世界で成り上がって、自分たちを見下してきた連中を見返すのだと。そのためには文字通りなんでもする。だが、約束ははたすと。平等な世界をつくってみせると。」
ロフは酒を飲んだ。
「そうだったね。」
ペルフェクティオは答えた。
「シシ殿、オレはやつを裏切るつもりはない。しかし、全ては王女の出方次第だ。王女が何かを見せてくれれば、オレも全てにケジメをつけようじゃないか。」
「ロフ殿、わかりました。殿下にお伝えします。」
シシはロフに深く頭を下げた。
「で、究姫よ。お前はいつまでそれをやっているのだ?」
「私は究姫ではない。しかし、やつを最後まで見届けるものだ。」
ペルフェクティオは答えた。
「そうか。好きにしろ。」
ロフは苦笑して答えた。
◇
「準備は上々か?リジュエル。」
「はい。閣下。」
チュウエイは王宮の広場に枢機卿任命のための祭壇を作っていた。
「しかし、閣下、これはいったいどういったものなのでしょうか?」
リジュエルは眼の前の卵のような物体に目をやる。
厳重な魔法陣の中心に卵は置かれている。
卵自体にはなんの魔力も感じない。
しかし、不思議なことに近づいた者は嘔吐し、回復魔法を受けなかった者は数日後に死んだ。
リジュエルはなんらかの毒を撒き散らす兵器であるということは理解できた。
しかし回復魔法があるこの世界では、大きな脅威には思えなかった。
現在は結界で外界から遮断している。
「これこそ、四神対策の魔道具よ。」
「おお、それは頼もしい。」
リジュエルは声を上げた。
チュウエイはその秘密を誰にも話していなかった。
チュウエイは禁書の中に禁断の知識を見つけたのだ。
核爆弾——。
あちらの世界ではウラン235に核反応を起こすこと自体が難しかった。
しかし、こちらの世界では仕組みさえ知っていれば魔力で再現することが可能だった。
リジュエルには「四神対策の魔道具」としか説明していない。
本当のことを言えば、この国もろとも消える。
それがチュウエイの最後の手段だった。
(万が一、ジョイエルがオレを裏切った場合——この国もろとも消してくれる。)
(仮に四神が現れたとしても、ひとたまりもあるまい。)
(もっとも、使わぬに越したことはないが。)
チュウエイは卵をじっと見つめた。
これを使う日が来ないことを、チュウエイ自身も望んでいた。
しかし——用意した以上、使う覚悟はあった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




