第124話 裏切り者たち
チュウエイは宰相室で霊教会からの手紙を読んでいた。
(あのジョイエルがこの俺を霊教会の枢機卿に推薦するだと?)
枢機卿といえば、将来的に霊教会の頂点、教皇を選ぶ選挙権および、被選挙権を得ることができる。
(つまり、この俺が教皇になる可能性もあるということか。)
チュウエイは興奮を抑えることができなかった。
(なんならそれを理由にこんな国を出国してもいい。)
「よし、リジュエルよ。日程を調整し、すぐに向かうとジョイエルにつたえてくれ。」
チュウエイは傍らに控えるリジュエルに伝えた。
「閣下、お待ちください。」
「なんだ?」
「これはおかしいです。」
「なにがだ。」
「ジョイエル殿は恐れながら閣下のことはあまりよく思っておられないと聞きおよんでおります。つい先日も内戦については人道的な救助以外は不干渉にすると宣言したところです。このタイミングで閣下を枢機卿に推薦するというのは不自然です。」
「では、どうしろというのだ。」
「ここは一旦辞退されるべきです。」
「なんだと?枢機卿になる機会などそうそうあるまい。そんな理由でチャンスを逃せというのか。」
「いえ、まずはこの内戦をのりきり、キョウ王女を討伐し、天下を納めた後、推薦をお受けするとお伝えするのです。」
「だが、ジョイエルのやつが俺をハメて、なんの得がある。やつとて、俺あっての今の立場だぞ。」
「どうも嫌な予感がします。」
「わかった。貴様がそこまでいうなら、護衛にロフをつけよう。そして、あの女が何かしようものなら、返り討ちにしてくれる。」
「いえ、最近、ロフ殿は閣下に対して反抗的です。」
「安心しろ。すくなくとも俺やロフを殺せるものなどおらん。わかったらさっさとジョイエルのもとへ使いを出せ。」
チュウエイはそれ以上は言わなかった。
リジュエルはだまって宰相室を出た。
「ああ、我々は女の手で滅ぶかもしれん。」
リジュエルはおもわず天井を見上げた。
言葉にはできなかった。
しかし、何かが動いている。
リジュエルはそんな予感を振り払えなかった。
◇
チュウエイ軍、徐姫隊——
徐姫はチュウエイに殺されかけたが、さらに金を受け取り、軍を率いてアマンの部隊を防ぐように命令された。
受ける気などなかった。
しかし、チュウエイから使いでやってきたものが問題だった。
饕狼——
遷都に逆らったものを生贄に召喚された強力な悪魔だった。
魔神達にとっては強さこそすべて。
上位者には絶対服従。
饕狼は徐姫に言った。
「自分が勝てばおとなしく言うことを聞けと。」
徐姫は勝負を受けた。
そして、敗北し、犯され、下僕となった。
しかし、悪魔族にとってはそれは当たり前のことだった。
負けたものが悪いのだ。
命を取られなかっただけでよしとしなければならない。
徐姫はしぶしぶ兵を率いて前線に戻った。
◇
「徐姫様、饕狼様より伝言です。」
「うるさい。そんなもの聞きたくない。徐姫は戦死したと伝えよ。」
徐姫は自分のもとにやってきた使い魔を追い返そうとした。
蝙蝠の翼が生えた少年のような容姿をしている。
「徐姫様、勘弁してください。私が饕狼様に殺されます。報告が遅れた隊長の首をその場で引きちぎりました。」
「では、聞くだけ聞いてやる。」
「は、『貴様自ら兵を率いて、ジユン隊を早く滅ぼせ』とのことです。」
「今やってるじゃないか。」
「しかしながら、饕狼様は、先日から防戦一方ではないかとおっしゃっております。兵が逃亡しておりますが。」
「だから、お前をやっている。お前が何とかしろ。」
「いや、しかし、敵も強力で私ごときが……うわ!」
使い魔が反論しようとした刹那、徐姫の髪の毛が一本伸び、使い魔の耳を切り落とした。
「申し訳ございません!」
使い魔はひれ伏し、詫びた。
人間の兵たちはそんな二人のやりとりを、自分たちに飛び火しないことを願いながら見ていた。
「チ、こんなことなら妲姫と一緒に行けばよかったか……」
徐姫は逃がしてやった妲姫とのやり取りを思い出す。
◇
チュウエイに殺されかけたあと、徐姫はなんとかチュウエイに仕返しができないものかと考えた。
(この魔力は……妲姫か?)
徐姫は結界に捕らえられている妲姫の魔力を感知した。
徐姫は兵の目を掻い潜り、結界に閉じ込められた妲姫のもとに向かった。
「久しぶりじゃないか。妲姫。」
徐姫は結界の外から同じ眷属の悪魔に話しかけた。
「お前、徐姫か。お前も受肉していたとはな。」
妲姫は結界内から徐姫に話しかけた。
「お前、閉じ込められているのか。よければ妾が助けてやろうか?」
「ああ、そうしてくれると助かる。私の力では内部からは破壊できないようだ。」
「わかった。たやすいことだ。」
徐姫はそういうと、いとも簡単に結界を破壊した。
「すまない、助かった。脱出しようと思ったが、どうしたものかと思っていた。それよりお前はこんなことをしていいのか。」
「かまわぬ、かまわぬ。妾の契約は終わったからな。フリーじゃ。」
「そうか、では、私と一緒に来ないか。ひょっとしたら、究姫様ともお会いできるかもしれんぞ。」
妲姫は徐姫に共に来るよう誘ったが——
「妾にも気になるものがおる。そやつを少し近くで見守りたい。」
徐姫はロフのことを思い出した。
「そうか。では困ったことがあったら、いつでも来てくれ。私はキョウ王女とともにいる。」
「わかった、王女のところだな。」
妲姫はうなずくとその場を去っていった。
◇
そして、現在、アマン軍との戦場-
徐姫は使い魔を一瞥して言った。
「向こうの敵に教えてやれ。饕狼は金属に対して無敵だが、銀に弱いと。」
「は?」
使い魔は耳を疑った。
その瞬間、再び徐姫の髪が動き、再生した使い魔の耳を飛ばした。
「妾の声が聞こえぬ耳ならあっても仕方あるまい?」
「はは!かしこまり!」
そういって使い魔は闇に消えていった。
「私は疲れた。寝る。」
そういうと徐姫は自分の部屋に戻った。
(この戦いが終わったら——ロフのもとに行こう。)
徐姫はそう思いながら、目を閉じた。
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