第123話 蜜談
霊教会にて——
「はじめまして。私がここの責任者のリジュエルと申します。」
ワタシは個室に通された。
ここまで横にいるアオに誰も気がつかなかった。
ワタシは促されて机をはさんでリジュエルの前の席に座る。
リジュエル、30代前後の女性に見えるが年齢はわからない。
青みがかった美しい髪の女性だ。
ワタシが名乗ろうとした瞬間、空気が変わる。
リジュエルの後ろに二人の人物が急に現れた。
長い黒髪の三白眼の鋭くも美しい女性の容姿、クロと、朱色の髪のスカーレット。
「やあ、アビにアオ。」
クロは今までそこにいたかのように気軽に話しかける。
スカーレットは少し笑って手を振っている。
いや、実際にいたのだろう。
全く気がつかなかった。
アオと同じく隠行の術で姿を消していたのか。
「やあ、二人とも、こんなところで何をしてるんだ?」
アオもそれに返事をする。
「な……!?これはいったい!?」
リジュエルが驚いて声をあげる。
どうやら彼女はクロとスカーレットから何も聞かされていなかったらしい。
「紹介するよ。リジュエル。」
クロはそういって背後からリジュエルの両肩に手を置く。
「そこの青い髪の女が青竜アオだ。そして、彼女はその友人であり、恋人であり、パートナーのアビだ。」
紹介の仕方が気になるが、いちいちつっこまない。
「ど、どういうことですか?あなたは難民ではなかったのですか?」
リジュエルは咎めるように言う。
「すいません。リジュエルさん。だまして申し訳なかったです。確認したいことが一つあったのと、こちらにその二人がいるとアオから聞いたもので、その関係の確認をしたかったのです。」
「……わかりました。こちらのお二方は、とあるご縁で知り合った友人です。あなたとアオ様と同じような関係でしょう。で、確認したいこととは?」
リジュエルはこちらをにらみながら答える。
「あなたがた、霊教会はこの国の内乱に不干渉を唱えましたね。」
「それはそうです。公表したとおりです。それがなにか。」
「ワタシはチュウエイに敵対しキョウ王女殿下に協力するものです。率直にいいます。不干渉ではなく、私たちの味方をしてくれませんか。」
「フ、なにをいいだすかとおもえば。」
リジュエルは鼻で笑いながら、こちらをにらむ。
「そんなふざけた話、あああ!」
リジュエルが話そうとしたとき、クロがリジュエルの肩を揉んだ。
「なかなか、面白い話じゃないか。話くらい聞いてあげようよ。」
クロは笑みを浮かべながら、リジュエルの頭に手をやり、頭皮をマッサージするようなしぐさをする。
「あ、わたしの一存で……そんな……あ、」
リジュエルは恍惚とした表情を浮かべる。
「ほら、話くらい聞いてあげないと、やめちゃうぞ。」
クロは邪悪な笑みを浮かべて、今度はリジュエルの二の腕をマッサージするようなしぐさをする。
「わ、わかりました、クロ様がそういうな、ら」
リジュエルは呂律も回らない様子でようやく答えた。
(クロ……なんてやつだ。)
(ある意味、スカーレットがましに見える。)
(でも、今回はこちらも助かる。)
「で、私に、いえ、霊教会に何をしてほしいと?」
リジュエルはなんとか落ち着こうとしながら答えた。
「何か理由をつけて、チュウエイを呼び出せませんか?そこを私たちが襲撃する手はずです。」
「なんですって?仮にも聖職に仕える私に人殺しの手伝いをしろとおおおおああああ!」
またクロがリジュエルのこめかみをマッサージし、リジュエルが悶絶した。
なにやら言語にしがたい快楽が走っているようだ。
「そうだね。手伝ってやってもいいけど、タダってのはあんまりだろ。」
リジュエルの代わりにクロが答える。
「あなたに頼んでるわけじゃないけど。」
ワタシはクロを見て言った。
「見てのとおり、この子は私の言うことは大概のことは聞いてくれるよ。」
今度はクロはリジュエルの肩に手を置く。
「そうみたいね。いい趣味とはいえないけど。」
「私に考えがある。こういうのはどうだ。リジュエル、君がチュウエイに、霊教国の本国の枢機卿に推薦してやるからといってここに呼び出すんだ。」
「ふざけないで、いくらなんでもそんなことができるはずがない。第一、そんな嘘であのチュウエイが騙されるわけがない。」
リジュエルは快楽に抵抗しながら答えた。
「誤解するなよ。チュウエイを騙すわけじゃない。本当に枢機卿に推薦してやればいい。本物の推薦書も書いてね。」
「な?私に霊教国を裏切れと!?」
「そんなことはいってないよ。でも、姿をあらわさない霊神様と、こうしてあなたのそばにいる私と、どちらをあなたは信じるんだ?私はあなたの望むものを可能な限りすべてかなえてやるよ。」
クロがリジュエルの耳元で甘くささやいた。
「クロ、ちょっとまって。あなたの狙いは何?なにを企んでるの?」
ワタシは二人の話を遮った。
「別に企んではないよ。」
クロは邪悪な笑みで答えた。
(こいつに比べれば四凶とよばれる究姫がましに見えるが……)
「簡単なことだよ。アビ、君はこのアカ子とすらヤッたらしいじゃないか。アカ子もすごくよかったといってたぞ。私もまぜろよ。」
ワタシは椅子からひっくり返った。
「何をいってるんだ、お前は……」
「なんだ、そんなことか、いいじゃない。アビ。減るもんじゃないし。」
アオが人ごとのように言う。
「あんたまでなにいってんのよ!」
「だって、アビ、あなた、女じゃなくて、ちゃんと男と恋愛したいといってたじゃない。このクロは男だよ。」
「いや、どっからどうみても女でしょ、この人は!」
「ああ、それはね、私がこのほうがいいからこうしておけとデュエル・ウィザーズの罰ゲームでこうなってるだけだよ。本来のクロはこんな姿だよ。」
そういって、アオは一枚の写真を出す。
今のクロをそのまま男にしたような美男子の長身の筋肉質の男が写っている。
(かっこいい。)
不覚にも思わずそう思ってしまった。
ワタシは写真とクロを見比べた。
「一応、クロのお願いで性器は男がベースだから大丈夫だよ。」
「なにが大丈夫なのよ!」
「ちゃんと本物のアレで男女のアレができるってことよ。」
「言わなくていいわよ!わかるわ!」
「でも、私は女の子が好きなんで、この姿になってもらったんだよ。」
「そういうわけで、私はあと200年はこの格好でいる約束なんだ。」
クロはリジュエルから離れる。
「あら、私は今のほうがいいと思うけど。」
スカーレットがそう言って、クロの後ろから彼女、いや彼の胸を揉んだ。
クロがひじ打ちするのをスカーレットはからかうようにかわす。
「じゃあ、お友達からはじめましょう。それでいい?」
神々のぶっとんだやりとりに流されないようにワタシはやっと言葉を出した。
「ああ、それでいいよ。ワタシたちには時間はいくらでもあるからね。」
(ワタシはあんたたちほど長く生きてはいないし、おばあちゃんになると思うけど。)
そういいかけたが、これ以上話がそれるのも嫌だったので言葉を飲み込んだ。
「決まりだ。リジュエル。あとよろしく。」
クロはリジュエルに話しかけた。
「わかりました。ただし、わたしができるのはあくまでチュウエイを枢機卿に推薦し、ここに呼び出すことです。それ以外のことは知りません。そして、これは極秘ということにします。万一でも策略だと外にもれるわけにはいきませんので。」
リジュエルはワタシを見ながら答えた。
「それで、日時は?」
「それはいえません。」
「どういうこと?」
「私からはいえません。しかし、クロ様やスカーレット様が誰かに勝手に漏らしてしまうことは私にはとめようがないでしょう。」
リジュエルは諦めるように言った。
「私はあくまで偶然、秘密の日時を知る。それをアオにうっかりもらしてしまう。アオもうっかりアビにもらす。そういうことだ。」
クロはニヤリと笑った。
「なるほど。それでいい。わかったわ。」
「ところで、アオ、久しぶりにどうだい?私と。」
クロがアオの隣にやってきて、絡みつく。
「そうね。今回、世話になったし、いつでもどうぞ。」
「じゃあこれからでもどう?」
「いいわよ。」
「いいわけあるかあ!」
ワタシははいていた靴を脱いで、思わずアオの頭をひっぱたいた。
この国の行く末が決まる戦いを前にしても、神々にとっては些末なことらしい。
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