第122話 隠行の術(強)
「私も霊教会にいくよ。」
アオも霊教会に行くと言い出した。
「いや、あんたが来るとトラブルになるかもしれないので、留守番をお願い。」
ワタシはアオの申し出を断った。
「どうやら、あそこにクロとアカがいるみたいでね。」
「まじで?あいつらがいるの!?なんで!?」
「その、クロとアカというのは?」
リユウが聞いた。
「アオの友人で、四神の朱雀竜と玄武竜よ。」
「なに?四神がふたりもそこにいらっしゃるのか!なぜだ!?」
リユウも当然の疑問を口にする。
「ジョイエルというのはかなりの美人なんでしょ。クロがそのジョイエルというのにちょっかいをかけるつもり、というか、かけたんだと思うけど。」
「は?」
リユウが間の抜けた声を出す。
「あいつは美人と見れば、誰彼構わず手を出すんだよ。王族、貴族、マフィア、人妻。一応、子持ちの人妻と子供には手を出さないけど。」
ワタシは苦笑いするしかなかった。
「な、なんですか?それは?」
エイサイが信じられないという顔をする。
「娘がいる人は気をつけないといけないね。ちなみに、人間だけじゃなく、エルフや魔族も対象だからリユウ、あなたも会わないほうがいい。」
「ど、どんな人なんですか?クロ様という人は……」
「常時、誘惑を発動させるようなやつで、普通の女性は彼に出会うと、彼に悪意すら持てない。大好きな恋人に会うような気持ちになる。彼の体液を吸収すると、幸福感と快感に満たされ、抗えなくなるんだよ。」
「お、女の敵ですね。」
リユウが嫌そうな顔をした。
「そうそう、普通はそうなる。でも、直接会ったアビはそこまで嫌に思わないでしょ。」
「た、たしかに。」
ワタシは思わず納得した。
(影響されているということか。)
「アオ、あなたにも解呪できないと?」
ワタシは聞いた。
「できなくはないけど、自分で何とかしてほしいかな。あなたの成長のために。」
なかなか手厳しい。
「でも、自分と関係を持った女性は守るし、仲間意識は強いから、女性にとっては別に必ずしもそんなに悪いことでもないけどね。」
この辺の感覚はアオやクロは人ではないからな。
「しかし、アビは難民として、ジョイエルに会うつもりなんだろう?アオ様がいればおかしいだろ。そこはどうする。」
リユウが対策を求めるが——
「大丈夫、隠行の術を使うから。」
アオが答えた。
「姿をくらます術ですか。そんなもので霊教会に潜り込めるのですか。」
「私の術を人間のそれと一緒にしてもらっては困る。」
アオはそういって、ワタシを見た。
「アビ、今から術を使うから、リユウとエイサイの様子を見ていてね。」
「わかった。」
アオはそういうと目を覆う布をはずす。
アオが目を開いたら、リユウがおかしなことを言い出した。
「あー、それでなんだったか、そうだ。アビがこれから霊教会に行くんだったな。」
「あーそうだった。その話だった。」
リユウとエイサイの様子が少しおかしい。
(え?)
「そうよ、それでその対策の話をアオとしてたんじゃない。」
ワタシがふたりに言うと、
「アオ様?アオ様は置いていくんだろう?」
リユウが妙なことを言い出す。
会話が噛み合わない。
「なにいってるのよ。今、このアオと話をしてるんじゃない。」
そういって、横にいるアオのほうを見る。
「なにをいってる?そっちにアオ様がいらっしゃるのか?」
リユウとエイサイがアオのほうを向く。
しかし、アオのことがまったく目に入っていないようだった。
二人の視線はアオを素通りしていた。
まるでそこに何もないかのように。
「あ、あなたたち、見えないの?忘れたの?」
ワタシは驚いてふたりに言う。
「なにをおかしなことを言ってる?」
エイサイが不思議そうに言う。
「隠行の術を私が使うとこうなるのよ。」
アオはそう言ったが、それも二人には聞こえていないようだった。
「今の私が見えないどころか認識されない。さらに今ここに私がいたことすら忘れる。記憶が書き換えられるんだよ。」
「す、すごいわね。」
ワタシは思わず驚く。
「お前なにをひとりでぶつぶついってるんだ?」
エイサイが不審な顔をする。
(こいつらには、ワタシが独り言を言っているように見えているのか。)
「そして、こうして隠行の術を使ったまま行動しても認識できない。かりにこうしたとしても——」
アオはそういって、エイサイのおでこをデコピンした。
ガツン。
「いてえ!アビ、急になにをするんだ!」
エイサイはワタシに怒った。
「いやいやいや、エイサイ殿、あなた、本当に何があったかわからないの?」
「お前がオレの頭に急にデコピンしたんだろうが!」
エイサイはムッとして言う。
(デコピンをしたのはアオなのに、ワタシがやったと認識されている。)
(これは——怖い。)
「彼の脳内では、別の認識に書き換えられる。じゃあ術を解くね。」
アオがそういうと——
「「ああああああ!!」」
二人が声を上げた。
「し、信じられない。たった今までアオ様のことを忘れていた。見えてすらいなかった……」
リユウが目を白黒させて言った。
「なんでもありか。アマン様のスキルの完全上位互換を見たぞ。」
エイサイが固まる。
「こんな子どもだましは、当然、クロとアカには効かないし、ひょっとしたらジョイエルは見破るかもしれないけど、一緒には入れるよ。」
アオは二人の反応を見て笑った。
ワタシは今さらながら、とてつもない存在と一緒にいるんだと改めて思い知った。
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