第121話 湯船で話される世界の真実
「やはり、広い風呂はいいなあ。」
湯船に浸かりながらクロが呟いた。
「あなたたちなら、こんなもの簡単につくれるんじゃないですか。」
同じく湯船につかるジョイエルが答えた。
「私たちも万能じゃないのよ。」
スカーレットが湯船に足だけ浸かりながら答える。
「しかし、あらためて礼を言わせてもらうよ。中立宣言を出してほしいというお願いを聞いてくれてうれしい。少なくともここにいれば私たちも巻き込まれそうにないからな。」
クロはそういって、湯船の中で足の指でジョイエルの足をいじる。
「あなたのためだけじゃない。あのチュウエイというのは私も気に入らなかった。多額の寄付で肩書だけの大司教を買い、霊教を利用していただけだからな。なんなら滅んでくれたほうがいいのです。」
ジョイエルもクロの足をいじり返す。
「へえ、だったら頼みがあるんだけど。」
「何でしょう。」
ジョイエルは恍惚とした表情で答える。
「私の友人があいつを排除したいと言い出したら手伝ってやってほしい。私にとってもあいつは仇なんだ。」
「あなたがたなら、あんな男を排除するのは簡単だろう?」
「それはそうなんだけどね。私たちが動いても人の世は解決しないんだよ。それに関しては四霊に同意だ。だから彼らは人を使うんだけどね。」
「四霊とは?」
「君たちが霊神といってる神だよ。彼らは四柱の神だ。」
それを聞いて、ジョイエルは思わず立ち上がる。
「嘘よ。霊神は唯一人の神のはずだ。」
クロはクククと笑う。
「まんざら嘘も言っていない。四柱の神の一柱が持ち回りで地上に神託などを送っている。そういう意味では一人といえなくもない。」
「そんな。」
ジョイエルは言葉を失う。
「まあ、安心しなよ。霊教というのはまやかしでもないし、神はいる。それに私たちと違って人の未来を考えている。」
「そ、そうか。」
ジョイエルはほっとしたような表情を見せる。
「その、あなたたちは霊神様とお会いしたことはあるんですか?」
「もちろんあるよ。」
クロは答えた。
「どんなお方なんですか?」
「いけ好かない、話が通じない連中だよ。」
「え?それはどういう?」
ジョイエルは当惑する。
「自分たちが絶対に正しいと思っている。たしかに人間のことを考えてはいるけど、犠牲のことは、尊い犠牲程度にしか考えていない。」
「なにをいう!そこのスカーレット様など、つい先日10万人を虐殺したではないか。」
ジョイエルは黙って聞いていたスカーレットを指さした。
「たしかに、私は先日10万人を消したよ。でも、四霊の連中は神託を通じて、それ以上の虐殺をしてるじゃないか。この国でもあいつらの神託をバカ正直に信じたヨウトのやつが魔王を倒したせいで、それ以上の人間が餓死した。」
スカーレットはジョイエルに反論する。
「魔王を倒して、なぜ人間が餓死するのだ。意味がわからない。」
「簡単に言うとね——」
クロが身を乗り出した。
「お金の価値というのは、誰かが保証しないと成り立たない。この国の通貨は金や銀が裏付けになっているから、国が滅びても価値は残る。しかし、霊教国の通貨は違う。あれは霊神が価値を保証している。だから霊教国が信仰を失えば、通貨はただの紙切れになる。」
「それは……そうですね。」
「あの魔王はそこに目をつけた。異世界の知識を持つ者の発案でね。魔王自身が価値を保証する通貨を発行したんだ。」
「魔王が、通貨を?」
「そうだよ。これが非常に賢い手でね。魔王通貨が流通したことで、私たち四神も四霊も、うかつに魔王を倒せなくなった。」
「なぜですか?」
「魔王が死ねば、魔王通貨の価値保証がなくなる。魔王通貨が流通している地域は経済が崩壊する。人間が大勢死ぬ。だから私たちも四霊も、簡単には動けなくなるはずだった。つまり、均衡による平和だよ。」
ジョイエルは風呂場であることも忘れて考え込んだ。
「なるほど……しかし、それなら魔王を倒したのはなぜですか。」
「天にいる四霊はお構いなしに魔王を倒すよう神託を出した。」
クロはあざわらうように言った。
「あいつらは人間経済への影響より、自分たちの都合を優先した。ヨウトはその神託を信じて魔王を倒した。魔王通貨は紙くずになり、経済が崩壊した。さらに、前王は魔王通貨を認めないよう四霊から神託を受け、魔王通貨はまさにゴミになり、この国の経済も長期にわたって悪化した。」
「それが、餓死者を出した原因ということですか。」
「そういうことだよ。尊い犠牲、とあいつらは言うんだろうけどね。」
「なぜ止めなかったのですか。」
「止めたよ。」
クロは笑って答えた。
「あのアオも勇者ヨウトに警告したさ。魔王を倒したら経済が悪化すると。しかし、ヨウトは信じなかった。」
「まあ、アオがあんなことをしたから信じなかったんだよね。」
スカーレットが口を挟んだ。
「あんなこととは?」
「ヨウトの嫁さんのリョウコに無断でヨウトを寝取ろうとしたんだよ。それでヨウトもリョウコもアオを信用しなくなってね。結果、ヨウトは四霊の力も借りて魔王を倒した。」
「……!?」
ジョイエルは二人の言うことが理解できず混乱した。
「要はね、今も四霊と私たちの均衡は続いている。だから私たちはあまり動きたくない。」
「別に私はいいけどね。」
スカーレットがつぶやいた。
「いやいや、人間は話せばわかるんだ。ジョイエルもわかってくれたじゃないか。」
クロはそういいながらジョイエルに抱きつく。
(私も洗脳されているのか?)
ジョイエルは一瞬そう思ったが——答えは出なかった。
「私に何をしろと?」
「だからいっただろ。私の友人がチュウエイを倒すのに協力してほしいといったら、協力してやってほしい。あいつは私の友人、究姫をやりやがったからね。」
「究姫は死んだのですか?」
「そんなわけはない。どこかに潜んでるんだろうよ。でも、死んでなくてもあいつをだまし討ちしようとしたのは変わりない。仇はとってやらないとね。」
そういって、クロはジョイエルを抱き寄せた。
「わかりました。何か考えてみます。」
ジョイエルは恍惚とした表情で答える。
「じゃあ、続きはベッドに行こうか。」
クロはそういって、湯船から出た。
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