第120話 血溜まり
旧王都でのキョウ王女の演説は数日で各地に広まった。
それを機に、ショウ・エンや各地の豪族がキョウ王女支持に回った。
コウロすらも自分に逆賊の汚名をきせたのはチュウエイだとして、王女を支持した。
一方、チュウエイを支持する勢力も現れた。
王国は二つの勢力に分かれたのである。
しかし、その多くは戦いの行方を見守っていた。
◇
霊都——謁見の間
「姉上を討伐などできない!」
カイはひざまずくチュウエイを怒鳴りつけ、書類を破り捨て、ペンを投げ捨てた。
幼い王の怒りだった。
しかし怒りの裏に、恐怖があった。
「ですが、キョウ王女は反旗を翻しました。」
チュウエイはひざまずき、うつむいたまま答える。
「それにはなにか理由があるはずだ!」
カイは立ち上がった。
「では、どうしても署名を拒まれると。」
「当たり前だ!」
カイは叫んだ。
「そうか。」
チュウエイは静かに立ち上がった。
そして——カイの横に仕える女官に近づいた。
次の瞬間、刀を振った。
女官は声を出すこともなく、血溜まりに沈んだ。
「……!?」
王は恐怖のあまり凍りついた。
何が起きたのか、理解するまでに数秒かかった。
「小僧。」
チュウエイはカイを見た。
「本来なら、お前の代筆など簡単にできる。しかし、お前が駄々をこねようが、こうしている間にも、この女官のように死んでいくものがいる。勘違いするな。お前などいつでも殺せるんだ。」
そういって、チュウエイは血に塗れた剣を王に突きつけた。
「この女を巻き込んだのはお前の姉とお前だ。他に犠牲者を出したくなければ、今すぐ署名しろ。」
カイ王は震える手で、キョウ王女討伐の勅命に署名した。
手が止まりそうになった。
しかし、止められなかった。
「それでいい。」
チュウエイはそう言うと、返り血にまみれた手でカイの頬に平手打ちを浴びせた。
乾いた音が謁見の間に響いた。
違う血が頬に手をやりながら王は震えながら、涙を浮かべた。
手に血の温かみがひろがる。
「お前が駄々をこねたせいで、この女は死んだ。余計な世話をやかすな。」
チュウエイはカイを見下ろした。
「もしオレに逆らうなら、姉ぐらいの根性を見せろ。これくらいで泣くな。」
チュウエイはそういうとカイから書面を奪い取り、王の部屋をあとにした。
扉が閉まった。
謁見の間に残されたのは、幼い王と、冷たくなっていく女官だけだった。
◇
霊都にはおどろくほどあっさり入り込めた。
霊教の紋章をつけた兵たちや傭兵たちの姿が見える。
「アビ殿、あまりキョロキョロするな。」
エルフの戦士、リユウがお上りさんのワタシに釘を刺す。
ワタシはアマンの部下、リユウ、エイサイとともに、シシという大臣の屋敷に向かっていた。
貴族風の屋敷の門を叩くと使いの者が出てくる。
リユウがアマンの書状を見せると、しばらく待たされたのち、ワタシたちは応接に案内された。
「この時がくるのをまっていましたぞ。」
初老の男性はワタシたちが着くなり、握手を求めた。
リユウが代表して握手をした。
(ワタシはたんなる傭兵だからな。ここにいなくてもいいくらいだ。)
「現在、キョウ殿下の声を受けて各地で兵が上がっております。この霊都を守る兵も各地に散らばっています。」
シシは説明してくれた。
「なるほど、ではアマン様の合図を待つだけですね。」
リユウが答えた。
「しかし、問題は霊教会ですね。あいつらをどう対策するか。」
エイサイがリユウとシシを交互に見る。
「いや、それは大丈夫です。」
シシが答えた。
(どういうことだ。)
「先日、霊教会の大司教ジョイエルがこの内乱に関してはけが人の救助など人道的支援以外一切介入しない、霊教会に害を与えない限り完全中立を守ると宣言しました。」
「なぜだ?一応、チュウエイも霊教会の大司教だろう?」
リユウが当然のように訝しむ。
「それがわかりません。しかし、これはチャンスです。あとは機会を待つだけです。何か機会があればチュウエイを討つことができます。」
シシは興奮気味に話す。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
ワタシは発言を求めた。
「こちらの方は?」
シシは説明を求めた。
(いつ紹介してくれるのかと思ってたけど。)
「こちらはアビ・キョウカ殿。アマン様に雇われている傭兵団のリーダーです。」
リユウが紹介してくれた。
「傭兵?そのような方がなぜここに?」
「実は、このアビ殿の部隊にはあの四神の青竜様がおられます。この戦いでも重要な役割を果たしてもらえることは間違いないでしょう。」
「なんと!あの青竜様が!それでは勝利は間違いないではありませんか!」
シシは興奮気味に立ち上がる。
「期待させて申し訳ないんですけど、彼女はそういう政治的なことは避けるので、直接戦ったり力を使ったりはしないと思います。むしろ、めんどうくさくなると関係者を全員消すかもしれないので、頼りにはならないと思いますよ。」
(まあ、これは半分ホントで半分嘘だ。)
(ワタシやキョウは最後には助けてくれると思う。)
(ただ、彼女は国とか後のことを一切考えないのだ。)
「そ、そうですか。しかし、青竜様がいるというだけで、相手に対して圧力になるでしょう。」
シシは少し落胆したように座る。
「それだけではないのです。あのチュウエイは四神を殺す力を持っているかもしれないのです。」
「ばかな、四神様を、ありえん。」
「究姫という四凶がチュウエイに殺されました。」
「ばかな!四凶様をですか!」
シシは先程以上に驚いた。
「もっともアオは、究姫が死んだふりをしてワタシたちをからかっていると言っているんですけどね。実際、姿を見せないので、青竜にも注意させないと。」
「なるほど。で、アビ殿、何か名案が?」
「霊教会と接触することはできませんか?中立ではなく、こちらにつかせるとか。」
「こちらに、ですか?霊教会を!?」
考えてもいなかったようで、一考する。
当然だ。
あいつらは革命軍を影で支援していた連中だ。
しかし一方で、政府側のチュウエイも支援している。
つまりはマッチポンプをするような団体だ。
信用できるわけがない。
しかし、だからこそ、利害が一致すれば利用できるかもしれない。
「いや、あのような連中は信用できません。」
シシは首を振った。
「アビ、シシ殿の仰ることはもっともだ。中立をうたいながら、いつ襲ってくるかわからん。」
リユウもシシに同意して、エイサイも首を縦に振った。
「では、ワタシが難民として話に行ってもいいですね。霊教会の責任者、ジョイエルとは比較的簡単に会えると聞きました。」
「たしかにそうだが……」
シシはそういってリユウたちの顔を見た。
「わかった。たしかに会うだけならデメリットは特にない。ただし、アオ様は連れていくなよ。正体がばれるとまずい。」
リユウは条件付きで賛成してくれた。
「たしかにこのまま何かが起こるのを待っててもしょうがねえ。アビ、お前が火をつけろ。」
エイサイも物騒なことを言うが賛成はしてくれるらしい。
ワタシはとりあえず、霊教会に赴くことになった。
まさか、影であいつらが暗躍しているなんて夢にも思わなかったわけで……。
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