第118話 乱
王都、城外に軍が近づいている。
物見から周鬼に報告が入った。
「わかった。」
周鬼は短く答えた。
周鬼はアビが言っていた救援部隊が到着したのだろうと思い、念のため警戒しつつも自ら迎えに出た。
「まて!貴様らどこの軍か!」
周鬼は軍の先頭に立ち、呼びかけた。
しかし、相手から返ってきたのは予想外の答えだった。
「我々はキョウ王女殿下とともに救援物資を届けに来た!王都に案内せよ!」
アマン配下の将エイサイが答えた。
「なに?王女だと!?そんな話は聞いていない!我々は救援物資が届くとしか聞いていないぞ!」
「たしかに救援物資もある!王女殿下がわざわざ自ら届けに来てくださったのだ!」
周鬼はハオから王都の治安を任されてはいたが、王女がここに来るなどということはまったく聞いていなかった。
「そこから動くな!しばらく待て!それ以上近づけば敵意があるとみなす!」
周鬼はエイサイに警告を出した。
「わかった!だが、そちらにアオ様がいらっしゃることはわかっている!アオ様に殿下を確認いただければ本物だとわかるはずだ!」
エイサイはそういって軍を止めた。
(王女だと!?どういうことだ!?)
周鬼は宵喬と相談するために本陣に戻った。
◇
「理由はわからないけど、キョウが来てるね。本物だよ。じゃあ私の仕事もこれまでだね。」
アオが立ち上がった。
「いえ、お待ちください。そんな話は我々も聞いていません。」
周鬼はアオを引き留めようとした。
「アビは約束を守った。だから私もつきあっていたんだ。お前たちが約束を破るなら私もお前たちの顔を立てる必要もないけどいいか?」
アオはほんの少し霊力を顕在化させ、威嚇した。
それだけで、そこにいた者たちは全員、死をイメージした。
(だめだ。我々ではどうしようもない。)
周鬼は宵喬に目線を送った。
「わかりました。軍をこちらに招き入れます。」
宵喬はそういうしかなかった。
◇
「やあ、キョウ、来たのは君だけかい?」
アオはキョウの前に現れ声をかけた。
「アオ様、申し訳ございません。アビは別のところに向かいまして、居場所についてはのちほど。」
「別にいいよ。早く仕事を終わらせなよ。待っててあげるから。」
「いえ、今回の仕事はかなり時間がかかりそうで、しばらくはアビとも一緒にいられなさそうで。」
「そうか。君もやることがあるんだね。」
アオはそういうとキョウにキスをした。
「アオ様……!」
「キョウ、私は君も好きなんだ。私にとっては10年なんてすぐだよ。あまり愚かな人たちに入れ込まないようにね。私は私の好きな人たちと一緒にいたいよ。」
アオはそういうと、キョウを抱きしめた。
「ありがとうございます。しかし、私にとってはすべての民が愛すべきものたちなのです。」
キョウはアオを抱きしめながら答えた。
◇
王女が王都に戻った。
その知らせを聞いて民衆たちは驚き、ざわめいた。
「我々を捨てて逃げたのではなかったのか。」
「王女が何をしにここに。」
「でも、物資を持ってきてくださったらしいぞ。」
その疑問に答えるためにアマンの軍は広場に民衆を集めた。
演説のためにキョウは台の上に立った。
「まずは王都のみんなにお詫びしたい。このようなことになったのは王族たる私やカイ王の不徳によるものである。」
キョウの声はよく通った。
広場が静まり返る。
誰も声を出さなかった。
ただ、聞いていた。
「しかし——全ての元凶は都を破壊し、民を虐殺したチュウエイだ!」
キョウは声を張り上げた。
「私はここにチュウエイ討伐を宣言する!」
「遅くなったが、救援物資も手配した。食料や医療物資も十分にある。あとで皆に分け与えるから安心してくれ!」
「王族は我々を捨てたのではないのか!」
大衆から声があがった。
「貴様、無礼だぞ!」
兵が男を黙らせようとする。
「よい。」
キョウはそれを止めた。
台の上から、その男を真っすぐ見た。
「その怒りは正しい。私はお前たちを守れなかった。それは事実だ。言い訳はしない。」
広場が静まり返る。
「しかし、聞いてくれ。私も遷都の話など知らなかった。私は協力者の力を得て、なんとかここに戻ることができた。今この瞬間も、カイ王は霊都に実質幽閉されているだろう。」
キョウは民のほうを見まわした。
「王だけではない。霊都に無理やり連れていかれた者たちは、今もチュウエイの圧政に虐げられているに違いない。」
「そうだ!」
誰かが叫んだ。
「お前たちはその目で見ただろう。やつの本性を。やつの兵が何をしたかを!」
「オレは娘をつれていかれた!」
「私は主人を……」
「屋敷を燃やされた!」
大衆の声が次々と上がる。
怒りが、波のように広場に広がっていく。
キョウはその声を全部受け止めた。
目を閉じず、逃げず、ただ聞いた。
「私はお前たちの怒りを受け取った。」
キョウの声が、再び広場に響いた。
「その怒りを、力に変えてくれ。」
「私はここに号令する——天下のものたちよ!チュウエイを討て!陛下をお救いするのだ!そのために、皆の力を貸してほしい!」
一瞬、沈黙があった。
それから——
「オレはまだ戦えるぞ!」
「オレもだ!」
「娘の仇を討たせてくれ!」
一人が声を上げ、また一人が続いた。
それが広場全体に広がっていく。
怒号ではなかった。
叫びだった。
キョウはその声の中で、目を閉じた。
(民よ、私はお前たちのために戦う。)
これをきっかけに、チュウエイとキョウの国家を二つに分けた戦争が始まった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




