第116話 災厄の散策
霊都——
二人の女が道を歩いている。
一人は朱色がかった赤い髪、全身のスタイルが目立つ真っ赤なドレス。
スカーレット。
もう一人は黒いストレートの髪に黒い瞳。
前髪をまっすぐに切りそろえた美しい女性。
ただしその三白眼の目元は美しくも猛禽類のように鋭い。
冒険者風のパンツを履き、Tシャツという異世界由来の軽装の女、クロ。
対照的な二人が歩くだけで、道行く人はこっそり振り返った。
「新しい街って聞いたから来たけど、何もないわね。」
スカーレットが景色を見回しながらつぶやく。
王都ならびにその周辺からわかっているだけでも300万もの人が流れてきた霊都は慌ただしかった。
人間だけではない。
エルフやドワーフ、さらには魔物たちまでが流れてきている。
それを霊教の兵士たちが治安を維持していた。
しかし、普段二人が住処にしている歓楽都市オアシスなどに比べると、二人にとっては面白みのない街だった。
「まあまあ、それはそれで散歩を楽しもうじゃないか。」
クロがスカーレットの手を握りながら言う。
「魔力感知で街全体を把握すればすぐでしょ。」
スカーレットはクロの腕に自分の腕を絡ませた。
◇
「まずい。」
人が比較的あふれる酒場で向かい合って酒を飲む二人。
出された豆をつまんでスカーレットがつぶやく。
「まあまあ、いい雰囲気のお店じゃないか。かわいい子もいるし。」
そういって、クロは客や店員の女を物色する。
そのとき店内が静かになった。
空気が変わった。
店の入口から三名の兵が入ってきた。
胸に十字に星が入った霊教の紋章を彩ったネックレスをぶら下げている。
人々は声を潜め、目を合わせないようにした。
「せめて、宿くらいはいいところを取らないとね。」
そういって、クロはスカーレットの指に自分の指を絡ませた。
そのとき、兵の一人が二人に声をかけた。
「お食事のところ申し訳ない。」
クロとスカーレットに目線をやる。
「なに?」
クロは目線を向けた。
スカーレットは目線をやらずに瞬時に解析を行う。
「お二人はどういうご関係で?」
兵たちは二人に質問をした。
「なぜ、そんな質問を?」
クロは興味深そうに聞いた。
「神の教えでは同性愛は禁止されている。誤解を受ける行動は控えていただきたい。」
兵士は二人の絡み合う指を咎めるように言う。
「あー、それは誤解だよ。そもそも私は男なんだ。こんな体をしているけどね。」
クロはTシャツを引っ張り、胸元を見せながら言った。
「ふざけるな!そんな胸をした男がいるか!」
兵はクロに指を突きつける。
ガタ。
クロが立ち上がると、兵たちは思わず身構えた。
クロは指先で兵の一人を奥に来るように案内する。
「なんだ?」
クロに促されて一人の兵士が奥に行く。
兵たちは理由がわからず、顔を見合わせる。
スカーレットは呆れるように奥に行った二人を見ていた。
しばらくして——
◇
「た、たしかに、この女、いやこの人は男性だった。」
戻ってきた兵士がなんとも言えない顔をして言う。
「た、隊長、それはどういう。」
「しかも、かなりでかかった。」
沈黙。
そして、三人の兵は思わずクロを見つめる。
「いや、そのような体は神の意思に反する。なぜ、そんな体に!」
隊長がクロに詰め寄った。
「これは呪いなんだよ。アオ、いや青竜ってやつがいるだろ。あいつにかけられてね。」
「なんと、青竜に!」
兵たちが驚く。
「そう、ひどいだろ。だから解けないんだよ。」
「それは大変失礼しました。しかし、ご安心ください。我々霊教の力であればそのような呪いは必ず解けます。」
兵たちは打って変わって丁寧な対応になった。
「いや、無理なんだって。あいつの趣味なんだ。」
「いえ、ぜひ一度、霊教の教会にお越しください。」
「まあ、そこまでいうなら。どうせ暇だし。そのかわりここの支払い頼める?」
「もちろんです。ぜひ、霊教会のお力を体験ください。そのような邪竜の呪いなどたちどころに消えてしまうでしょう。」
(まじか、こいつ。人にどうこうできるわけないだろうが。)
スカーレットはそう思いながら、このまずい酒代を出してくれるならと付き合うことにした。
◇
「こんな強力な呪いは見たことがない。」
霊教会の神官は、クロの体の呪いを解析していった。
「そ、そうなのか。」
兵たちも驚く。
「そもそも解析しても、呪いを感知できない。しかし、彼女、いや彼の体を見ればなんらかの異変があるのはたしか。」
神官はそういって、クロの顔を見る。
「書物では読んだことがある。強力な霊力はそもそも並の人間には感じることすらできないと。」
それを聞いて兵たちは顔を見合わせる。
「もういいでしょ。行きましょう、クロ。」
退屈したスカーレットはクロに茶番はやめろと急かす。
「そうだね。じゃあ行くか。」
そういってクロは席を立つ。
「待ってください。ジョイエル様ならばあるいは。」
「ジョイエル?」
クロが立ち止まる。
「本国からこられた大司教様です。」
「どんな人?じいさん?」
「いえ、美しい女性ですよ。」
「ふーん、そう。」
クロの目が妖艶に光ったが、誰も気がつかなかった。
「すぐに会えるの?」
「すぐには無理だが、紹介状をしたためます。」
「じゃあ、お願いするよ。」
そういってクロはジョイエルへの紹介状を受け取った。
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