第112話 衆道
キョウを生活班にお願いして数日、私たち傭兵団はアマンの救援物資の護衛部隊として王都に向かっていた。
そんなある日、想像もしないことが起こった。
「リーダー、話があります。」
そんなことをいって女兵士たちがワタシのもとにやってきた。
ショウコ、カンヨ、コウユといった傭兵たちだ。
ショウコは元はヨクトとの革命軍の部隊にいた。
オレンジの短髪に引き締まった、見るからに女傭兵といった佇まいだ。
Bランクの冒険者といったところだろうか。
戦闘班の一つの班長をしている。
コウユは王都から参加した魔道士だ。
ワタシがキョウ殿下をハクエイたちから救ったあと傭兵団に参加してもらっている。
給料が高いとかなんとか言っていたな。
アオがオアシスの博打で大儲けしたので、うちの傭兵部隊はお財布事情がかなり潤っている。
そして、カンヨ。
この子もオアシスで拾ったが、なんと前職は夜のお店の接客業だ。
なんでも、冒険者に憧れていたとか。
料理が上手で、ルオことキョウ殿下の教育をお願いしている。
「なに?みんな改まって。」
こういう揉め事の最終決済をするのもワタシの仕事だ。
大抵のことはビゼンとヨクトに頼んでいるのだが、なぜか今回は二人とも直接話を聞いてやってほしいと言っていた。
「あのルオのことだよ。」
ショウコが切り出した。
はて、この護衛では戦闘もなく、戦闘班のショウコとそもそも接点もないと思うが。
なにか揉めたのだろうか。
「なんで、あのルオだけ特別なんですか。」
と、コウユ。
(ああ、あの子なんかやらかしたのか。)
やっぱり殿下に傭兵の仕事は無理だったのかもしれない。
「ごめん、ルオが仕事でやらかした?まだ慣れてないだけだと思うんで多めに見てあげてほしいんだけど。どうしても無理ならワタシが直接預かるけど。」
「そうじゃないよ。リーダー。あの子はよく働いてくれるよ。」
カンヨがルオを庇ってくれた。
「じゃあ何?」
「リーダー、私たちを差し置いて、あんな新入りを寝室に入れてるそうじゃないか!」
(……?)
へ?
一瞬、頭が真っ白になる。
「ビゼン様やアオ様はわかるが、私たちを差し置いて、新入りを先に寝室に入れるってのはひどいんじゃないか?順番ってのがあるだろう?」
ショウコの声に、二人が頷く。
(何をいってるんだ、お前たちは?)
(いや、というか、そんなことをキョウはペラペラと話したのか。)
「ちょ、ちょっとまって!アンタたちはなにをいってるの?」
思わず声が裏返った。
「いや、だから、私たちを差し置いて、あの子とヤルってのは順番が違うんじゃない?って話をしてんだけど。」
カンヨがちょっと顔を赤らめながら言う。
「つまり、アンタたちを抱けと……」
「いわせんな。」
カンヨが横を向きながら言う。
「ちょっと考えさせてほしい……」
そういうしかなかった。
三人とも冗談を言っているようにも見えなかった。
まずは、キョウに話を聞くことにした。
(あいつ、なにを言ったんだ。)
◇
「傭兵団の団長が部隊のものと関係を持つなんて当たり前だろう?」
ルオは悪びれずにいった。
横でルオの正体を知っているヨクトとリョーカとビゼンがいる。
こいつらの前で王女がよくそんな話ができると思う。
「まあ、確かにあいつらからしたら、突如現れた私がお前との関係を聞くのは不愉快だったかもしれないな。悪かったよ。てっきり、もうやってるものだと思ってた。」
ルオはワタシの部屋のソファーに寝そびりながら、全く反省していなさそうに答えた。
「いや、どうすんのよ。これ。」
「どうするもなにも、抱いてやればいいじゃないか。女同士なら少なくともお互い普通にやれば妊娠はしないじゃないか。」
いや、深く考えたことはなかったが、この世界の傭兵団というのは確かに奔放だ。
ヨクトたち革命軍出身の連中はあまりないが、ある日突然、子供ができたとかいって除隊する連中もいる。
それなら、まだいいほうで、父親がわからないという子もいるが、割とたくましく生きているし、自らオレが父親に違いないと名乗り出るやつさえいる。
「ちょっとついていけないんだけど……」
当惑するワタシにヨクトがフォローしてくれる。
「アビは異世界人だからよくわからないかもしれないが、こっちの世界じゃ、憧れの人間とそういう関係になるのは名誉なことなんだよ。男女問わず。」
ああ、そうか。
ワタシの世界でも戦国時代にはそういうことがあったらしい。
大名が酒の席で、自分の家来に「自分も若い頃はこいつを抱いてやった」と笑っていって、それを聞いた他の家来たちも「うらやましい、あやかりたい」といって笑ったとか。そういうものか。
「でも、ヨウトさんや霊教はそういうのに潔癖で、部隊ではご法度でね。だからそういうのめんどうくさいオレたちは革命軍にいたというのもあるんだが。」
ヨクトはそういってリョーカを見る。
「相手が女性ならまだしも、男だった場合、なかなかめんどうなんで。」
リョーカも頷く。
「だったら、ヨクト、あんたも私を抱きたいと思うわけ?そんな目で見てたと?」
思わず、体を抱きながらビゼンのほうに寄りながら聞いてしまう。
「いや、もう、オレにとってはアンタは家族みたいなもんだから。」
そういわれると嬉しいやら、寂しいやらだが。
「実はこの世界には青竜様、玄武竜様、朱雀竜様を祀る神殿や宗教もあるんですが、彼らもみなさん恋多き神々なんですが、御本人を見るとそれも納得というか。」
アオがいないので、リョーカもぶっちゃける。
「ヨウトさんはそういうのも嫌がっててな。というか、かなり潔癖症というか女嫌いにも見えたが……」
ヨクトは勇者ヨウトを思い出すように言う。
「まあ、それはアオのせいでしょうね。」
「あなたたち、ダークエルフの文化はどうなの?」
ワタシはビゼンにも確認した。
「ダークエルフというか、エルフは感情の機微に乏しく、恋愛などほぼしない。とくに同種族間のほうが稀で、人間など他種族と結ばれる方が最近は多いかもしれない。というか、もはや純粋なエルフ、ハイエルフは少ない。だから種としては滅びかかっているのだがな。」
「なるほどね。」
「まあ、要するに。深く考えるな。抱いてほしいというんだから、抱いてやればいいじゃないか。」
ルオがまたしても王女としてあるまじき発言をする。
「殿下、いいんですか、王女がそんなことをいっても。」
「何をいう。私は傭兵ルオだ。キョウではない。」
まあ、たしかにそのように扱うと言ったのはワタシだ。
(でも、正直なところ……)
わかっていても——普通の恋愛というものに、一度でいいから向き合いたいとは思う。
まあ、無理なんだろうな。
というか、こっちの世界ではワタシの常識など通用しないことを改めて思い知った。
皮肉なことに霊教のほうがまともに感じた。
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