第110話 荒廃した王都にて
「アビ、アオ様よく来てくれた!」
ワタシとアオはアオの空間転移でキョウの前に移動した。
ほんとに便利だな。
「話は妲姫から聞いたよ。ワタシからも伝えたいことがある。」
◇
「なるほどね。王都は官軍がもう賊になっている。民衆は無理やり新都に追いやられた。そこにコウロの軍がやってきたと。」
ワタシは妲姫から聞いた話を整理した。
「コウロの軍は魔物と人間の混合軍だった。そして残された人々の救出活動をしていた。」
妲姫が続ける。
(正直、もう官軍に正義はないな。)
ワタシはそう思ったが、キョウの前ではいえなかった。
「ワタシたちもアマンの依頼で王都の難民救出に行くことになっている。」
ワタシはキョウにそれを告げた。
「とにかく、ワタシも王都に行かないと。」
キョウが必死の表情を見せる。
「落ち着いて、キョウ。あなたが王都に姿を見せたらどうなるかわかってる?」
ワタシはキョウに言う。
「官軍の暴挙を世間に訴えることになる。つまり、弟のカイ王を敵に回して戦うことになる。」
「……!」
キョウは思わず言葉に詰まった。
「ここはいったん私たちに任せて。王都の人間はできるだけ私たちが助ける。」
「カイと、戦う……」
「それだけじゃないわ。国を二つに分ける戦争になる。ここは耐えて。」
ワタシはキョウの肩をつかんで、まっすぐ目を見た。
「しかし、だからといってここで待っておるわけにはいかない。せめて私も民のもとに行かせてくれ。妲姫、私がいない間、影武者を頼む。」
そういって、キョウは妲姫のほうを向く。
妲姫もキョウに応じる形で、幻術でキョウの姿に変わった。
「止めても無駄ね。」
「ああ、わかってくれてうれしい。私もお前がやりたいことを止めないよ。アビ。」
ワタシはキョウの思いを尊重することにした。
「ただし、あなたは王族キョウではなく、傭兵の一人、ルオ。それでいい?」
「もちろんよ。私は傭兵ルオ。今日からアビ傭兵団のメンバーよ。」
ルオはそういうと王女の衣服を脱ぎ捨てて、身軽な格好に着替えた。
「というわけで、アオ。救助部隊を転移させることってできる?」
ワタシはアオの方を向いた。
「できなくはないけど、リスクはあるよ。」
「どんなリスク?」
「空間結合というのはこんなイメージだよ。」
そういってアオは机の上の一枚の紙を手に取った。
「この紙が空間。空間結合というのは、この端と端を持ってひっつけるイメージだよ。」
そういってアオは紙の端をつなげて、手を放す。
当然、紙は微妙に曲がっている。
「こんなふうに一度曲げた紙は必ず少し歪んでしまう。特に質量をかければかけるほどね。」
「人が数名くらいなら大した影響はないけど、軍隊まるまるの質量を送ったら、時空に歪みが出るかもよ。」
「ぐ、具体的にはどんな?」
「大きいものだと、地層がずれて大地震が起こるとか。それが都市部で起こると数万人の犠牲者が出るかもしれない。」
「あー、それはまずいな。じゃあ、こうしよう。ワタシとアオとキョウで一旦先に王都の様子を見に行く。アマンの救援部隊は通常通り陸路でいく。」
キョウはワタシの提案に頷いた。
◇
アマンに部隊の転移が難しいことを話したワタシたちは王都に転移した。
そこには予想もしない光景が広がっていた。
焼け落ちた屋根。
倒れたまま誰も起こさない柱。
路地の隅に座り込んで動かない老人。
泣きながら瓦礫の中を掘り返している女。
何を探しているのかは聞かなくてもなんとなくわかった。
道の真ん中に子供が一人、ぽつんと立っていた。
誰かを待っているのか、どこに行けばいいかわからないのか。
その子の目に涙はなかった。
ただ、空を見ていた。
賑わっていた町並みはもうそこにはなかった。
焦げた匂いが鼻をつく。
遠くから誰かの怒鳴り声が聞こえた。
しかし、もう止めようとする者もいなかった。
「上からも見てみようか。」
アオの提案にワタシたちは頷いた。
アオの霊力でワタシたちは上空高く舞い上がる。
「ひどいな。」
王都の様子を見てキョウは呟いた。
その声は震えていた。
遠くに見える王宮も火災で変わり果てた姿になっている。
その時、地上から何者かが近づいてくる。
二枚の翼を持った魔物、ハーピーだ。
「貴様ら、何者か!」
「ひかえろ!私は、王女——」
と名乗ろうとしたキョウの口を後ろから塞いだ。
「私たちはアマン様に雇われている傭兵隊のものよ。救援物資を届けにやってきた。先行して様子を見に来ただけよ。」
ワタシはキョウの口を塞ぎながら言った。
「そうか。とりあえず降りて我々と一緒に来てもらおうか。」
ワタシたちは魔物の指示にしたがってあとをついていくことにした。
◇
ワタシたちはハーピーたちに案内されて避難民のキャンプに連れてこられた。
魔物たちが人間の難民の救助をしている。
(旧魔王領では見かけたけどな。こっちではかなり異様な光景だ。)
ワタシたちは魔物のリーダーらしきもののもとに連れてこられた。
「オレは、ハオ様の第一の部下、周鬼だ。ここの部隊を任されている。貴様らは何者だ。」
2メートル以上ある、黒い角を持つ精悍なオーガの戦士だ。
「私たちはアマン様に雇われている傭兵よ。アマン様はまもなくここに救援物資を届けに来る。私たちは先行してきた偵察よ。敵意はないわ。」
ワタシは周鬼に正直に話した。
敵対しても得はない。
「なるほどな。だが、救援部隊だという証拠はあるのか?」
「ないわね。でも、解放してくれれば、あなたたちと敵対しないよう伝えるわ。それに、救援物資を届けるというのは本当だし、嘘を言っても意味がないよ。」
周鬼は一考した。
「わかった。ではお前が人質になれ。2人は解放してやる。嘘なら人質は殺す。」
そういって周鬼はワタシの後ろにいるアオを指さした。
(あ、助かった。キョウを人質にされるとまずかったが。)
ワタシは内心ほくそ笑んだ。
(もうオチが見えるな。こいつらがアオに振り回されてひどい目にあうのだろう。)
(……人質にする相手を間違えたわね。)
そうは思ったが、それは口に出さない。
「わかったわ。アオ、お願いね。」
「え?普通に嫌なんだけど。」
空気を読まずに断るかこいつは。
「安心しろ。貴様からはなんの魔力も感じない。大人しくしていれば、なにもせん。」
周鬼がそんなことを言っているが、アオの霊力は感知できること自体が桁違いな存在の証なのだ。
「大人しくしないよ。退屈そうだし。言うこと聞くことないじゃない。ほっといて帰りましょう。」
アオは周鬼を無視して話を進める。
「いや、こいつらともめたくないし、すぐに迎えに来るから頼むわよ。」
ワタシは小声でアオを説得した。
「めんどうくさいなあ。なんなら、こいつらを全員消せばいいじゃない。」
とんでもないことを言う。
「いや、こいつらは王都の人たちに感謝されてるのよ。こいつらを殺すと王都の人たちに恨まれるよ。」
「アオ様、頼みます。」
キョウも一緒になってお願いする。
「いい、二人とも。大衆など愚かなものよ。あなたたちがいくら頑張っても恩を忘れるわ。私はそんなことを何度も見ているのよ。別にアカのようにゴミのように扱えとまでは言わないけど、あなたたちが気を使う必要などないよ。」
「なにをこそこそ話している!なんなら三人ともここで死ぬか!?」
業を煮やした周鬼がわめく。
「わかったよ。でも、おとなしくしているかは彼ら次第だよ。」
アオが不機嫌そうに納得した。
「できるだけ早く迎えに来るから。あまり問題を起こさないでね。」
ワタシはそういって再び周鬼に向き合った。
「話はついたわ。この子を置いていく。」
「いいだろう。しかし、怪しい動きをすればこいつの命はないと思え。」
周鬼はそんなことを言っていたが、ワタシはこいつらの命が心配だった。
アオが退屈したときのことを考えると。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




