第109話 燃える王都
「おい、都が燃えていないか!?」
先頭を行くハオが王都の空の異変に気がついた。
夜空の一角が赤く染まっていた。
「どういうことだ?」
コウキも訝しむ。
「私たちより先に王都を攻めたものがいたのか?」
ハオがイフの方を見る。
「いや、わかりません。」
「ハーピーを先行させましょうか?」
暁喬がハオに提案した。
ハーピー族は両手が翼に変化する魔物族だ。
「頼む。」
暁喬は部下のハーピー数名を飛ばした。
しばらくして、知らせが帰ってきた。
王都が燃えている。
略奪が行われている。
それをおこなっているのは官軍だというのだ。
「なんだって!すぐに民を助けにいくぞ!ハーピー族は先行して民を助けろ!」
ハオの合図で数名のハーピーが王都に向けて飛翔した。
◇
「誰か助けて!!」
女が悲鳴をあげて路地に倒れ込んだ。
「だからオレたちが助けてやるといってるんだ。」
「へへへへ。」
兵たちが女を取り囲んだ。
もはや彼らは兵士ではなかった。
略奪し、暴力をふるい、笑っていた。
「やめて!やめてください!」
女の声は届かなかった。
その瞬間——
「ぐわあああ!」
兵の額が割れた。
上空からやってきた一人のハーピーの爪が兵の頭を切り裂いた。
赤と黄色の髪、美しい女性の姿だが、両手の代わりに翼が生え、その両足からは鋭い爪が伸びていた。
「魔物だ!紛れ込んできたのか!」
兵たちが武器をとった。
しかし、遅かった。
数名のハーピーが飛来し、次々と兵たちを血祭りにあげた。
あっという間だった。
そして、一人のハーピーが女のもとに降り立った。
女は声が出なかった。
兵士に殺されると思っていた。
次は魔物に殺されると思った。
ただ涙が流れた。
(ああ、私はここで死ぬんだ。)
しかしハーピーは翼を両手に変え、あまりにも意外なことを言った。
「女、立てるか?」
女は声が出なかった。
「私はハオ様の部下、朱舞という。安心しろ。お前たちを助けにきた。」
女は魔物の言っていることが理解できなかった。
助けに来た?
魔物が?
「あちらに向かって走れ。あちらには兵がいない。」
ハーピーはそう言って一つの方角を指さした。
「あ、ありがとう……」
女はそういうのが精一杯だった。
(なぜ、魔物が私を?)
女はそう思いながらも、指示された方向に向かって駆け出した。
走りながら、涙が止まらなかった。
怖かったのか、助かったのか、自分でもわからなかった。
◇
「オレが、ハオ様の一番の部下、周鬼様よ!覚えておけ!」
オーガの戦士、周鬼が刀を振るうと数名の兵士の上半身と下半身が飛んだ。
「ふざけるな、一番の部下はこのオレ、蒋鬼様だ!お前はたまたま先にハオ様に会っただけだろうが!」
もう一人の金髪のオーガが棍棒を振るうと、数名の兵たちが吹き飛んだ。
「なんだ、なんでこんなところにオーガ族が!」
「しかも、人間と一緒に戦っているぞ!」
兵たちはもはや野盗と化し、指揮系統もないも同然だった。
逃げる者、武器を捨てる者、それでも向かってくる者。
周鬼と蒋鬼はそれを等しく薙ぎ払った。
「けが人は助けてやれ!絶対に一般人に危害を加えるなよ!」
ハオも野盗と化した兵を蹴散らし、民衆を助けて回った。
しかし、助けられた民衆の反応は複雑だった。
「ま、魔物が……助けてくれた?」
「あれはオーガじゃないか。誰に雇われてるんだ?」
「逃げろ!魔物だ!」
逃げようとする者もいた。
「待て!オレたちはお前たちを助けに来たんだ!」
周鬼が叫ぶが、民衆は足を止めない。
「追いかけても怖がらせるだけだぞ。」
蒋鬼が周鬼を制した。
「……わかってる。」
周鬼は舌打ちをこらえた。
◇
(なんだ、強力なやつがいる!)
兵を指揮していたハオは上空に強力な魔力を感知した。、
【朱雀・炎着】
ハオは炎をまとい舞い上がった。
「お前、何者だ。」
そこにいたのは銀髪、褐色の悪魔、妲姫だった。
「私の名は妲姫。キョウ王女に仕えるものだ。」
妲姫は答えた。
「王女……だって?じゃあ、これを命令したのはお前か?」
「ばかな。殿下がこんなことをしろというはずがない。私も驚いている。」
妲姫はそういって、燃え盛る都を見下ろした。
「じゃあ、そのキョウ王女はどこにいるんだ。」
「殿下は遠く離れた安全な場所にいる。」
「へえ?自分は安全な場所に逃げたってことか?」
ハオの表情に怒りが溢れ、右手に魔力の炎が集まる。
「違う。殿下は本当に何も知らない。」
「だったら、お前はなんで、黙ってこれを見てるんだよ!」
ハオは右手から妲姫に向かって魔力の炎を放った。
妲姫は宙を舞い、大きく回避した。
(まともにくらったらただでは済まないな。)
「誤解するな。私はおそらくお前の敵ではない。」
妲姫はハオから大きく距離をとった。
(キョウからは無理はするなと言われているからな。)
妲姫は自分を夜の闇に紛らせて消えた。
「あいつ、なかなかやるな。」
それを見てハオは夜空に向かって呟いた。
◇
数刻後-
「今直ぐ引き返せ!」
妲姫の報告を聞いた、キョウは宿の入口で叫んだ。
「殿下、お部屋にお戻りください。」
兵たちはキョウを止めた。
「お前達!今、王都がどうなっているのか知っているのか!」
「存じ上げません。しかし、お通しするわけには参りません。部屋にお戻りください。」
「クソ!」
キョウは吐き捨て自分の部屋に戻った。
「そうだ!妲姫!アビに連絡をとってくれ!アオ様なら私を王都につれていけるはずだ!」
キョウは妲姫に向かって言った。
「それはいいが、実際、キョウが行ってできることがない。むしろ、事態は悪化するかもしれん。」
「どういうことだ!?」
「民衆の怒りが王家に向いている可能性がある。」
「…!?」
キョウは言葉に詰まった。
「それでもだ!頼む!」
「わかった。アビに話しかけてみる。」
妲姫はアビに念話を試みた。
◇
アマンの陣にて-
「王都の支援に行ってほしい。」
アマンはワタシに単刀直入に言った。
「王都が?何があったんですか。」
「コウロが軍を王都に向けて動かした。南方からオアシスの近くを通ってな。」
「オアシスの近くを通れば朱雀竜が——」
「今回は素通りさせた。」
(スカーレット、何を考えてるの。)
まあ、好意的に解釈すれば、前回、10万人を全滅させたのはさすがにやりすぎたと反省したのかもしれない。
あいつがそんなふうに改心するとは信じられないが。
「それで王都はどう対処したんですか。」
「遷都したのだ。」
「遷都?」
「霊府という西方の都市に首都機能を移すと宣言した。チュウエイの仕業だ。」
「チュウエイが遷都……」
(あいつ、何を企んでるんだ。)
「それだけじゃない。今、王都では略奪が起きている。」
「略奪?誰がやってるんですか、コウロの軍ですか。」
「わからない。」
「——は?」
「都からの情報では魔物に襲われ、都が焼かれたと報告が来ている。しかし、私独自の諜報部からは遷都に反対した貴族や商人の屋敷が焼かれ、財産が奪われている、それを官軍がやっていると報告が入っている。」
「信じられない。」
「おそらくは都の官軍が嘘を言っているのだろうが。さらに、王都で魔物が救助活動をしているという話も入ってきている。」
「魔物が救助活動?」
「コウロが魔物を使っているのかもしれん。いずれにせよ、現地を見てきてほしい。急を要する。アオ様のご協力をお願いしたい。」
(ああ、やっぱりそれか。)
「協力してくれるかわかりませんよ。」
「その場合は陸路で構わない。頼む。」
「わかりました。頼んでみます。」
ワタシはアマンの屋敷を出た。
そのときだった。
妲姫から思念通話が入ってきたのは。
◇
「王都で魔物が救助活動をしているというのは本当だ。」
妲姫の声が聞こえた。
「コウロの魔物?」
「違う。ハオという人間の姫将軍の部下だ。」
(ハオ?)
聞いたことのない名前だった。
「コウロが人助けなんてありえない。一緒に略奪しそうなもんだしな。」
「そうだ。別の勢力が動いている。」
(なるほど。)
状況は複雑になっていた。
「とりあえず、アオに頼んでそっちに行くよ。」
ワタシはそういって思念通話を切った。
キョウのことが頭をよぎった。
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