↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。  作者: 黒木菫
幻教操国編~第一部最終章~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/270

第108話 遷都

コウロの軍勢がオアシスの近辺を素通りして王都に向かっている。


その知らせは王都を震撼させた。


数は5000ほど、大したことはなかった。


問題はそれではなかった。


なぜか朱雀竜がそれを素通りさせたのだ。


会議室は荒れていた。


「直ぐに迎撃に向かわせるのだ。」


「しかし、迎撃させた軍がまたしても朱雀竜に攻撃されるかもしれん。前回と同じ末路をたどるだけだ!」


「では、指をくわえて王都まで素通りさせるのか!」


「朱雀竜がコウロの軍を素通りさせたのはなぜだ。コウロと内通しているのではないか!」


「馬鹿を言うな!朱雀竜様がそんなことをするわけがない!」


「では何故だ!説明してみろ!」


怒号が飛び交い、誰かの書類が机を叩いた。


正論をいう者もいれば、怒鳴るだけの者もいた。


まともな意見と怒りと恐怖が入り混じり、会議は体をなしていなかった。


「指揮官はあのレツオウの娘らしい。」


誰かがその名を出した瞬間、室内が少し静まった。


「あのレツオウのか!?」


会議は難航した。


(レツオウ、死してなお、その娘がオレの邪魔をするか。)


チュウエイは腕を組み、在りし日のレツオウを思い出した。


強かった。それは認める。


あの男の武勇と人望は本物だった。


しかし——愚かな男だった。


義だの忠義だの、そんなものに縛られて自分の力を無駄に使い果たした。


もっと賢く立ち回れば、この国を動かせる立場にいられたはずだ。


それをしなかった。


できなかったのではない。しなかったのだ。


(そういう男の娘か。)


血は争えないのか、それとも——


(まあいい。どうせ同じ末路をたどることになる。)


「一旦、休憩とする。」


進まない会議に苛立ちを感じながら、チュウエイは休憩を宣言した。


苛立ちを抑えながら宰相室に戻ると、リジュエルが話しかけてきた。


「閣下、これはチャンスです。」


チュウエイには思い当たることがあった。


「例の件を実行するときです。」


「遷都計画か。」


チュウエイはリジュエルに答えた。


チュウエイは密かに霊教色の強い都市の建設を進めていた。


いずれは都をそちらに移す。


そんな餌をぶら下げて霊教から支援を受けていた。


しかし実際には、そんな約束を果たす気はなかった。


(だが、たしかにこれはチャンスかもしれん。)


チュウエイはリジュエルと計画を話し合い、再び会議に向かった。


◇


「方針は決まった。この都を捨て、新たに建設中の西方の都市——霊府に首都機能を移す。そしてその地を霊都と称することにする。」


群臣、貴族たちを前にチュウエイは宣言した。


リジュエルはその様子を満足そうに見ていた。


「閣下、お待ちください。遷都など軽々しくできません。」


「遷都したからといって、反乱軍は防げません。」


群臣たちから反対の声が上がる。


「それだけではない。」


チュウエイは群臣の声を制して言う。


「この旧都を焦土と化す。つまり焦土作戦を取る。反乱軍にはなにも残さん。」


「ばかな!民は!民はどうなるのですか?」


群臣がざわついた。


「ご安心ください。霊都では民はさらに手厚い加護が受けられます。なお、このことは陛下も賛成されています。」


リジュエルは群臣を制した。


「実は、陛下には何度か霊都にお越しいただいており、非常に喜んでいただいております。陛下だけではありません。皇太后様にも何度かお越しいただいております。大変喜ばれましたよ。」


無論、幼いカイ王はそのようなことは知らなかった。


(コイツ、そんなことをしていたのか。)


チュウエイはキョウ王女には注意していたが、幼いカイ王のことなどほとんど見ていなかった。


(だが、今回はそれが助かった。)


「陛下のご意向があるのであればこれで決定だ。これ以上反対するものは逆賊となるが、どうか。」


チュウエイはそういって群臣を見渡した。


誰も口を開かなかった。


「なお、遷都の詳細については他言無用だ。たとえ王族であろうとな。」


その一言が、会議室の空気を変えた。


王族。


その言葉が誰を指しているのか、その場の全員が察した。


しかし、誰も口にしなかった。


◇


霊府で公務の式典がある。


キョウはそんな話を聞いて、カイ王とともに王都を出た。


馬車の列は長かった。


護衛の騎馬、荷車、随行の文官たち——王家の行幸はいつもそれなりの規模になる。


しかし今回は、いつもより多い気がした。


(皇太后様も来られるとは珍しいな。)


キョウはそう思いながらも、久しぶりの弟との馬車の旅を楽しんでいた。


窓の外には、見慣れた街道が続いている。


「姉上、あの木なんていう名前ですか?」


カイが窓の外を指さす。


「白楊よ。秋になると葉が金色になるの。」


「きれいですね。見てみたいな。」


「そうね。秋になったらまた来ましょう。」


他愛のない会話だった。


しかしキョウは、その会話の合間に何度か窓の外の護衛を確認していた。


(しかし、妙ね……)


いつもより警備が厚い。


街道の両脇にも、騎馬の影が見えた。


(チュウエイが暗殺でも企んでいるかと思ったが、それなら警備は薄くなるはず。)


(むしろ逆だ。)


「姉上、どうかしましたか?」


カイがキョウの顔色を読んで声をかける。


この子は昔から、人の変化に敏かった。


「ううん、なんでもない。ちょっと気になったことがあっただけ。」


キョウは弟に余計な心配をさせまいと、笑みを作った。


◇


王家一行は途中、とある宿場町で宿泊した。


用意された宿は、その町で最も大きな屋敷だった。


広い中庭、高い塀、そして——やはり厚い警備。


(襲撃でもされるかと思ったが、その様子もない。)


(むしろいつもより、警備は厚いくらいだ。)


夜になった。


キョウはバルコニーに出て、夜空を見上げた。


王都の方角に、星が瞬いていた。


「妲姫、頼みがある。」


背後に気配を感じていた。


妲姫はいつもそこにいた。


「王都の様子を見に行ってほしい。」


「私が離れたら護衛がいなくなるぞ。」


「今は大丈夫だ。なぜか今回は護衛も多い。私が知っている者たちばかりだ。」


「……では、わかった。」


「でも、無理はしないでね。見に行くだけでいい。異変があったらすぐに戻ってきて。」


「了解。」


妲姫はそういうと、静かに夜空に飛翔した。


その姿が星の間に消えていくのを、キョウはバルコニーからじっと見送った。


(なぜ、チュウエイはこんなに護衛を厚くしたのだろう。)


風が吹いた。


夜の空気は冷たかった。




◇


妲姫は夜の闇を駆けていった。


月夜は明るかった。


しかし妲姫はすぐに、王都の方角に異変を感じた。


(なんだあれは——!?)


(煙……違う、これは火だ。)


◇


「急な遷都など無茶だ!」


貴族が屋敷の前に立ち、兵たちに向かって叫んでいた。


「勅命だ!すぐに財産を持って新都に移動せよ!」


兵は再び言った。


「ふざけるな!何が勅命だ!チュウエイが勝手に言っているだけだろ!」


「そうだ!そうだ!」


貴族たちは次々に声を上げた。


「反対するものは反乱分子とみなして拘束せよと命令が出ている。ものども、こいつらを拘束しろ!」


兵長が命令すると、兵たちは次々と貴族たちに飛びかかった。


「やめろ、何をする!」


「極力殺すなと言われているが、武器を持っているやつは構わん!」


「財産は全て没収だ!」


兵たちは次々と貴族の屋敷になだれ込んだ。


床に叩きつけられる食器の音。


引き出しをひっくり返す音。


壁に掛かっていた絵画が、無造作に踏み荒らされた。


「やめてください!それは先祖代々の——」


「うるさい!」


女たちが抵抗しようとするが、兵たちにはねのけられた。


「おっと、貴様はオレが没収しよう。」


兵長はそういうと、貴族の女の衣服をむしり取った。


「きゃあああああ!」


「お、隊長、うまくやってるじゃないか。」


「オレたちもやるぞ。」


貴族に仕える女たちが次々と兵士たちに引きずられていく。


「やめろ!おまえら!」


貴族の男が立ち向かおうとするが、数人の兵士に叩きのめされた。


「殺すなよ!こいつらは悪魔の生贄になるという噂だ!」


兵長の声に、貴族は顔色を変えた。


「だからな!女たちはオレたちに没収されてたほうが幸せだろうが!」


そういって兵たちは貴族を袋叩きにした。


遷都に反対したものは、逮捕され、財産を奪われ、屋敷を燃やされた。


特に、貴族や裕福なものが狙われた。


◇


「貴様ら!何をグズグズしている!」


兵が裕福な商人の屋敷に押し入った。


「いえ、何分急な話でして、準備に時間がかかっております。」


主人が兵長に頭を下げながら説明した。


「なるほど。ではオレたちが手伝ってやる!おい!」


兵長の一言で兵たちが屋敷になだれ込んだ。


「おまえたち!何をする!」


「手伝ってやろうというんだ!感謝しろ!」


兵たちは金目の物を片っ端から運び出した。


家具が引きずられ、壺が割れ、棚が倒れた。


長年かけて積み上げてきたものが、数分で消えていく。


「やめろ!やめてくれ!」


「お前の娘も売れば金になりそうじゃねえか!」


兵はそういうと商人の娘の腕をつかんだ。


「貴様——!」


商人は兵に殴りかかった。


「逆らうか!拘束しろ!」


少しでも抵抗したものは、その場で押さえつけられ、縛り上げられた。


炎が上がった。


遷都に反対した屋敷から、次々と火の手が上がっていく。


王都の夜空が赤く染まっていた。


略奪し、暴力をふるい、燃やす。


それを「遷都」と呼んでいた。


命令を下した者の顔は、この場にはなかった。


しかし、兵たちの顔には確かな喜びがあった。


ずっと虐げられてきた者たちの、歪んだ解放感だった。


それは搾取され続けてきたものたちの復讐のようだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


続きが気になった方は、

ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!

SNSで拡散お願いします

やる気がでます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。