第105話 公爵と青竜
「今、帰った。」
アマンは連合軍の陣地につくと、着替えもせずにその足でショウ・エンのもとに向かった。
ショウと豪族たちは酒盛りをしていた。
「いやあ、アマン殿、心配しましたぞ!」
「なんでも、例のアビとかいう傭兵団が官軍を裏切って助かったとか!」
豪族たちは言葉こそ心配していたが、その顔と目はアマンをあざ笑っていた。
「敗北したのは事実だが、アビは官軍を裏切ったわけではない。我々こそ官軍で、相手が反乱軍なのだ。そこを間違わないでいただきたい。」
「あー、そうであったな。ハハハハ。」
アマンは嘲笑う者たちを無視して、ショウ・エンに向かって言った。
「今回の戦いで十分だ。これ以上ここに意味はない。一度、故郷に戻るつもりだ。」
「ほう?言い出しっぺが真っ先に帰るのか?」
ショウは皮肉を込めていった。
「その通りだ。無駄な戦いだとわかった。チュウエイ対策は別の方法を考えたいと思う。」
アマンはそれだけ言って出ていった。
「ハハハハハ!見たか、あの赤毛の小僧の顔を!」
「まだまだひよっこよのう!」
「それに比べてショウ様は名君でいらっしゃる。」
アマンが去った後、宴会は彼への嘲笑と罵詈雑言が酒の肴となった。
「しかし、たしかにアマンの言うことにも一理ある。この連合は一旦お開きかもしれんな。」
ショウは自分の配下にだけ聞こえるようにつぶやいた。
◇
「あんなに好きに言わせておいていいのか!」
帰還準備をするアマンにジユンが詰め寄る。
「かまわん。好きに言わせておけ。」
「結局、まともに戦ったのは俺たちだけじゃないですか。」
エイサイも不満そうにいった。
「そういうな。今回の戦いは非常に大きいものを得た。」
「なんですか?それは?」
カギが興味深そうに聞く。
「アビだ。あれがいれば、今後の戦いは別の形になる。」
「アビ?確かにあの徐姫とかいう悪魔との戦いを近くで見ましたがすさまじいものでした。しかし、それ以上に兵を失いました。」
カギが疑問を呈した。
「それに所詮傭兵、いつ裏切るかわかりません。」
「それに関しては同感だ。」
リユウもカギに同意した。
「あの女はやばい。何なら今殺しておいたほうがいい。」
「馬鹿をいわないでくれ。アビのところには青竜様がいる。聞いただろう、南方に向かった兵がどうなったか。」
アマンはリユウを制した。
「なんでも、朱雀竜様に10万の兵が皆殺しにされ、王都の近くの山が吹き飛ばされ、おまけにコウロの領地も襲撃されたとか。」
「10万の兵が殺された……まじか。」
「なんだ、お前、知らなかったのか。」
リユウの話にエイサイの手が思わず止まる。
「その同じ四神の青竜様があのアビのところにいらっしゃるんですか?」
エイサイが顔色を変えて聞く。
「ああ、つまりわが軍には今、その青竜様がいらっしゃるということだ。なんなら会いに行ってみてはどうだ?」
アマンがからかうようにいう。
「どんな化け物なんですか?」
「人とは思えないほど、美しい女性だ。」
「は?美しい女性?」
エイサイは間抜けな声をあげる。
「そんなに気になるなら見に行けばいい。もっともあの方、アオ様が青竜様だというのは秘密で、アビの陣営の中でも青竜様にお仕えする聖女ということになってるらしい。わが軍でも口外しないようにな。」
「たしかに青竜様がここにいらっしゃるなどと知られればとんでもないことになりますね。」
カギが危惧を口にした。
「もっとも、アオ様自身は全く隠す気はないので公然の秘密になってるようだが。」
アマンはそう言って自分の仕事に戻った。
しかし、アマンの危惧どおり、アオの話はショウ・エンの耳に入ることになった。
◇
「なに?アマンが青竜様を陣に招いただと!?」
家臣からの報告にショウは耳を疑った。
「あくまで噂ですし、正確にはアマン様を救助した傭兵団のところに青竜様がいらっしゃるという話なのですが。」
ショウは一考した。
「そんなものただの噂であろう。まじない士が青竜様の名をかたっているのではないか?」
「しかし、このタイミングでそんなことをするやつがいるでしょうか?」
家臣がショウの疑問に答えた。
朱雀竜が官軍10万を皆殺しにしたという話はショウのところにも届いていた。
(いや、待て。アマンのやつはコウロのところで青竜と究姫に会ってきたといっていたな。)
(もし、アマンのところに四神がいるということが事実なら——大変なことになる。)
「すぐにアマンをここに呼べ!今すぐだ!」
ショウはすぐさまアマンのもとに使いをやった。
◇
「何か用でもあるのか。」
呼び出されてアマンはすぐにやってきた。
「軍を出したいので、手短に頼みたいのだが。」
「では、手短にいおう。」
ショウはアマンの眼を見て言った。
「貴様の軍に四神の青竜様がいらっしゃるというのは本当か?」
「ああ、本当だ。」
アマンは即答した。
「なぜ、そんな重要なことを報告しなかった!」
ショウは机をたたいた。
「別に隠すつもりもなかったが、報告する義務もない。それに報告すると余計な問題を増やしそうだしな。」
アマンは無表情に答える。
「どうやって青竜様など味方につけたのだ。」
「ああ、それは誤解だ。アオ様は別に私の味方ではない。客将として招いている傭兵のアビのご友人らしい。」
「ご、友人だと?」
「ああそうだ。」
ショウはアマンの言っていることが理解できず思わず固まる。
しかし、なにかごまかしているようでもない。
「なぜ、私に紹介しなかった!」
ショウはアマンを問い詰める。
「勘違いされては困るが、アオ様はたまたま私と同行されているが、関わらないほうがいい。あの方は人にどうこうできん。触らぬ神にたたりなしというやつだ。」
アマンは肩をすくめて答えた。
「では、質問を変えよう。私がお会いすることは可能か?」
「好きにすればいい。まもなく出立されるが、あそこの部隊では誰でも普通に話しているよ。」
「青竜様がだれでも普通にだと?」
「ああ、ただしおすすめはしないがね。それでは話は終わりだな。私はこれで失礼させてもらう。」
アマンはそういうとショウに背中を向けて去っていった。
◇
(やはり信じられん。)
ショウは家臣と護衛を連れてアビの部隊へ向かった。
アオの件については近しいものにのみ話した。
「閣下、アマンのたわごとを信じられるのですか?」
「侯爵閣下が傭兵団の陣営にいくなどとんでもない。その青竜様を名乗るものとアビとかいうものを呼びつければいいでしょう。」
そのように進言する者もいた。
しかし、アマンはそんなつまらない嘘をいうやつではない。
そしてそんな噂を簡単に信じる男でもなかった。
アビの傭兵団はアマンの軍の一角だ。
自身の目で確かめることにした。
アビの駐屯地はすぐにわかった。
数十人ほどの小さな部隊だった。
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