第101話 アマン対ロフ
「アマン様!ロフが来ます!」
カギが突っ込んでくるロフを見て思わず叫ぶ。
ロフの行くところ、兵たちが次々と切り飛ばされていく。
まるで嵐の中を巨大な魔獣が突き進むようだった。
「やつには私とジユンとエイサイで相手をする。カギはリユウ殿のフォローにまわれ。あの悪魔にはカギとリユウ殿と魔術師部隊であたれ。一体と思ってあなどるな!」
アマンはそういうとジユンとエイサイとともに馬を駆けた。
「ハッ!!」
アマンの指揮のもと一同が動き出す。
◇
アマンはロフを遠目で観察した。
(なるほど——本当に不死身らしい。)
ロフはアマン兵の攻撃をほとんど防いでいない。
致命傷とも思える攻撃を受けても、それを受けながら反撃で兵を倒している。
そして、傷が再生していく。
まるで最初から傷など負っていなかったかのように。
(防がないのか——違う)
(防ぐ必要がないのだ。)
(ならば——)
「ジユン、エイサイ、例の術を試すぞ!」
「ハッ!」
三人はリユウより得た秘術をロフに対して仕掛ける準備に入った。
◇
「貴様がアマンか!」
ロフはアマンの前に切り込み、戟を振りかざす。
「獣に名乗る名などない!」
アマンは剣を抜いた。
(まだ【絶影】も神剣・北斗も使えん。切り札は最後だ。)
ガキン!
ロフの戟の一撃をアマンは受け止めた。
——その瞬間、アマンの腕が痺れた。
(なんという重さだ!)
「ク!」
わずか一撃でアマンは落馬させられた。
地面に叩きつけられながら、アマンは即座に体勢を立て直す。
(スキルだけではない。純粋な膂力が桁違いだ。)
「とどめだ!雑魚が!」
ロフが馬上から戟を振り下ろす。
その軌道をアマンの目が追った。
(来る——!)
「アマン様!」
『魔力散弾矢』
エイサイの魔力の散弾が横から放たれた。
「こんなもの!」
ロフは【飛将】を発動。
宙に大楯を出現させ、散弾を防ぐ。
しかし——エイサイの狙いはロフではなかった。
散弾の一部がロフの馬の足に命中し、馬が転倒する。
「なに!」
ロフはとっさに大地に飛び降りた。
(馬を狙ったか。——やるな。)
ロフは内心敵を賞賛した。
「オオオオオオ!」
そこにジユンが大剣を振りかざすが——
またしても宙に現れた大楯により防がれた。
「クソ!」
エイサイとジユンとアマンは三方からロフを取り囲んだ。
◇
(整理しろ。)
アマンはロフの凄まじい攻撃をさばきながら、冷静に観察を続けた。
(まず——宙に武具を出現させるスキル。おそらく自らの魔力で武具を創造している。盾、戟——どこまで出せる?)
ロフの戟が横薙ぎに来る。
アマンは半歩下がってかわした。
(攻撃を受けても再生する。しかし——)
ジユンの大剣がロフの背に入った。
その瞬間、ロフの動きが一瞬止まった。
(やはりそうだ。再生の瞬間、わずかな隙がある。)
(防御できる攻撃は防御し、相打ちで攻撃できるときだけ攻撃する——それがやつの戦い方だ。傷を恐れないからこそ、攻撃に全力を注げる。)
(ならば——その隙を突けばいい。)
アマンは剣を構え直した。
「ロフはアマン様たちにお任せしろ!」
アマンの兵たちは自らの将を信じ、盾となってロフの兵の妨害を防いだ。
一方、ロフの兵たちも自分たちの将が敗北するなどとは思ってもいなかった。
両軍の視線が、三対一の包囲圏に集まっていた。
◇
徐姫の前に二人の魔術師が立ちふさがった。
一人はエルフの魔術師リユウ、もう一人はカギだった。
「妾の名は徐姫、ロフ殿の副官だ。妾の前に立つとは——勇気だけはほめてやろう。」
徐姫は黒い羽根の扇子をゆっくりと広げ、二人を見渡した。
しかしその赤い瞳は奢ることなく、二人とその背後に展開する数百人の魔術師たちを静かに分析していた。
魔術師たちの魔力が、網の目のように二人を中心に張り巡らされている。
(それでも——戦力は互角か。)
リユウの額に冷や汗が流れる。
自分たちの役目はアマンがロフを倒すあいだ、この悪魔の相手をすることだった。
倒せといわれれば難しい。
しかし足止めをするなら——なんとかなる。
それがリユウの計算だった。
(いくぞ。)
リユウは懐に手をいれた。
十本の指に、細い糸が絡みつく。
編んだ髪の毛を縒り合わせた術糸——それぞれの先端に、苦無が結ばれていた。
【苦無】
十本の苦無が徐姫に向かって一斉に放たれた。
銀色の閃光が空気を切る。
(フフフフ、こんなもの避けるまでもない。)
徐姫は軽く結界を張った。
しかし——苦無は結界に弾かれることなく、そのまま突き刺さるように止まった。
「なに!」
徐姫が目を細める。
よく見ると、十本の苦無はそれぞれ細い糸で結ばれ、リユウの十本の指につながっていた。
まるで操り人形の糸のように。
リユウの唇が動いた。
『禁——(バン)』
低く、しかし明確な一言。
結界が内側から砕け散った。
苦無がそのまま徐姫の身体に突き刺さる。
「これは!」
リユウは再び魔力を指先に集めた。
術糸が光る。
『禁——(バン)』
「くぁあああああ!」
徐姫の身体に電撃のような衝撃が走った。
苦無を通じて魔力が流れ込む。
まるで体の内側から焼かれるような感覚だった。
「おのれ——」
徐姫は苦無を引き抜こうとした。
抜けなかった。
術糸が苦無を固定し、さらに魔力を流し込んでいる。
「そう簡単には抜けないわよ!」
リユウは三度、魔力を込めようとする。
「くぁああああああああ!」
徐姫は自らの肉を引きちぎり、苦無を引き抜いた。
血が散る。
しかし徐姫は笑っていた。
「なかなかやるな、エルフの戦士よ。名前を聞いておきたい。」
敵を賞賛しながら、徐姫は自らの身体の異変に気がついた。
(再生が——遅い。)
視線をずらすと、もう一人の魔術師の女がこちらに手をかざし、呪文を唱え続けていた。
徐姫はその魔法を素早く解析する。
(——なるほど。)
理解した。
数百名の魔術師たちは二人の魔力を増幅していたわけではなかった。
カギの魔力だけを増幅し続けていたのだ。
そしてそのカギの魔力が、徐姫の魔力と再生能力を封じている。
封印術——エルフが得意とする技だ。
(あの呪文を止めれば、封印もとまるはず。)
徐姫はカギに向かって魔力弾を放った。
空気が歪む。
しかし——
「禁——(バン)!」
リユウの苦無が宙を舞い、魔力弾を正面から迎撃した。
苦無と魔力弾がぶつかり、散った光が二人の間に降り注ぐ。
「やるじゃないか。」
徐姫はそれでも余裕の笑みを崩さなかった。
「で、いいかげん、名前を教えてくれないのかい?」
「そうだったわね。」
リユウはカギを背に庇いながら、徐姫の前に立ちふさがった。
「リユウよ。女悪魔さん。」
術糸が、再び光を帯びた。
◇
エイサイとジユンがロフを挟み込む形で戦いながら、低く呪文を唱え始めた。
声は小さく、しかし明確だった。
(なんだ、何をやっている!)
ロフは警戒するが、それが自身の再生を封印する術だとまでは気がつかない。
ロフの注意が二人に向いた。
その瞬間をアマンは待っていた。
静かに、剣を抜く。
神剣・北斗——刀身が薄く青白い光を帯びた。
(いくぞ。)
【絶影】——発動。
アマンの存在が、攻撃の瞬間だけ世界から切り離される。
ロフの認識から、アマンが消えた。
これで終わりのはずだった。
しかし——
ロフの戟が動いた。
(——なに!?)
アマンはとっさに身を捻り、戟の穂先をかわした。
そのまま神剣・北斗を薙ぐ。
ロフの右腕が、宙を舞った。
「おおおお!」
「やった!」
アマンの兵たちから歓声があがる。
しかし——当のアマンとエイサイ、ジユンは沈黙していた。
三人の顔に驚愕の色があった。
(なぜ動いた。)
【絶影】はアマンの攻撃の瞬間を、ロフだけでなくジユンもエイサイも認識できなくなるスキルだ。
それでもロフは動いた。
(——無拍子。)
アマンは理解した。
武術の極みとして語られる境地——攻撃の意識が生まれる前に、身体が動く。
スキルで認識を奪う前に、ロフの本能がアマンの殺気を感じ取り、無意識で戟を突き出していたのだ。
(こいつは、戦闘の天才だ。)
アマンはロフの強さの本質を認めた。
(しかし——!)
アマンは神剣・北斗に魔力を込めた。
切断面から魔力が逆流する。
ロフの右腕がさらに大きくはじけ飛んだ。
「ぐわああああ!」
さしものロフも思わず叫び声をあげる。
そして——気がついた。
(腕の再生が、始まらん!)
視線を巡らせると、自分の周囲に薄く結界が張られていた。
エイサイとジユンの呪文の効果だ。
(——これが原因か。)
ロフは冷静に状況を分析した。
(心臓に近い左腕を断たれていたら、終わっていたかもしれん。)
ロフはゆっくりと目の前の男を見た。
今まで「相手にする必要のある敵」と思っていなかった。
しかし——
(こいつは、オレとチュウエイの命を奪える。)
ロフは初めて、アマンを真の敵としてとらえた。
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