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Re:d Box ー異能BGー  作者: Amie


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第15話 新生・兼高班

 地下闘技場の一件が幕を下ろし、数日が経過していた。

 兼高班のメンバーは、いつものようにオフィスへと集まっていた。

 

 「今日からうちで働くことになった岬赤月だ。矢車と櫻子は知ってるな」

 

 研修を終えた赤月が、兼高の横に立っている。

 

 「萌木女子高等学校一年の岬赤月です。よろしくお願いします」

 「よろしくお願いします!」

 

 櫻子が満面の笑みで応じる。

 

 「よろしくね!赤月ちゃん」

 「よろしくな!」

 

 想は勧誘前とは打って変わって、随分とフレンドリーな態度を見せていた。誰とでも気さくに接することができるのは、想の良いところなのかもしれない。

 赤月は斗黎の時と同じく、手錠やバッジ、許可証を兼高から受け取る。

 

 「それと、これがお前の武器だ」

 

 兼高はポケットから折りたたみ式のナイフを取り出し、赤月に手渡した。

 

 「随分小さいナイフですね?」

 

 手渡されたナイフを眺めながら、蓮華が不思議そうに首を傾げる。


 「岬の能力って、どんなのなんだ?」


 想が興味津々といった様子で尋ねる。


 「私の“RED BOX”は……」  


 赤月は片手で慣れた手つきでナイフを開き、刃を露わにする。刃先を前方へ向けると、赤月の黒いシオン粒子が刃の周囲に集束し、やがて透明な長い刀身を形作った。

 

 「これって……」

 「刀みたいだな」


 斗黎が目の前で起きた変化を見て、率直な感想を口にする。  


 「岬の“RED BOX”は“重力”だ。刀身を形成しているのは、シオン粒子で作られた“重力刃”だ」

 「へぇ、こんなので蟲を斬ることなんてできるんですか?」

 「試してみる?」


 赤月は鋭い眼差しを想に向けた。


 「っ、ちょっ」

 「いや、ここでは止めてくれ」

 

 兼高が慌てて制止に入る。

 “ここでは”って……想は斬られてもいいのか。


 「性能は折り紙付きだ。岬の戦闘スタイルにも合っているし、皆の武器と同様、コンパクトで扱いやすいからな」

 「赤月ちゃんが入ったから、合同訓練の試合も五対五でいけるね!」

 「合同訓練?」

 

 兼高が説明を始める。

 

 「“RED BOX”ホルダーが在籍しているうちと、SEALDsでは定期的に合同訓練を実施している」

 「へぇ」

 

 株式会社SEALDsにも異能力者がいることは知っていたが、合同で訓練まで行っていたとは知らなかった。

 

 「次は年明けの一月中旬に予定を組んでいる。みんな、鍛錬を怠るなよ」

 「はい!」

 「合同訓練って、何をするんですか?」

 「基本的にはボディガード役と敵役に分かれて、“RED BOX”を使わずにマルタイ警護の訓練をするよ!」


 “RED BOX”は使わないのか?


 「最後に社対抗で、“RED BOX”と武器を使用した対人戦闘訓練を行う」

 「!?」

 「今まではこっちの人数が足りてなかったから、向こうは代表を三人選んで試合してたの」

 「そうだったのか」

 「うちは今まで一度も勝てたことないんだよね」


 蓮華は苦笑交じりに話す。


 「ごめんなさい、私、戦闘が苦手で……毎回、私で一敗しちゃうから……」


 申し訳なさそうに、しおらしくなる櫻子。


 「櫻子のせいじゃないよ!それに櫻子も試合を重ねるごとに強くなってるじゃん!」

 「うん」  

 「地下闘技場の時の狙撃は凄かったよ!」


 赤月も同意するように頷いた。


 「ありがとうございます」

 「勝ったことが無いってことは、蓮華や想でも負けるのか?」

 「まぁね。特に代表の息子は戦闘センスの塊だね。私よりも強いよ」


 蓮華よりも強いのか……。俺なんかじゃ、相手にもならないんじゃ……。


 「惜しかった試合だってあったろ?」


 すかさず、想がフォローを入れる。


 「新しい仲間も二人入ったし、試合順によっては今度こそ勝てるかもね!」

 「んでもって、試合が終わったら、毎回皆で焼き肉だぜ」

 「次は絶対勝ってもらう」


 兼高が静かな口調で言い切った。


 「SEALDsの班長と兼高さんは、SP時代の同僚で、向こうの班長は後輩なんだ。毎回、負けた方が打ち上げの焼き肉代を奢ってるんだ」


 それじゃあ、今までの焼き肉代は全部、兼高さんが支払ってたのか。


 「今日はこれで解散だ」


 兼高さんが、その日の勤務の終わりを告げる。


 「皆さん!明後日はクリスマスです!」


 櫻子が無邪気な笑顔で声を上げた。


 「そうだなぁ」

 「改めて、赤月さんも入ったので、歓迎会も兼ねてクリスマスパーティーをしませんか?」

 「いいわね!」

 

 蓮華がすかさず賛同する。


 「そんな……いいわよ」


 赤月はどこか申し訳なさそうに遠慮した。


 「歓迎会は賛成だけど、クリスマスはパスで!」

 「へぇ、霧島って彼女いるんだ」

 「いや、セフレでしょ?」

 「ちげーよ!いや、違くはないけど」

 「はぁ?」

 

 赤月の視線が、途端に鋭さを増す。

 

 「セフレとは会うけど、夜くらいは家に帰んねーとな」


 なるほど、心宵ちゃんか。

 

 「ちゃんと、“お兄ちゃん”してるんだな」

 「うるせーよ!」


 想は照れくさそうに顔を背けた。


 「じゃあ、どうしましょうか」


 櫻子が困ったように眉を下げる。


 「この前、心宵ちゃんも誘うって言ってなかった?」

 「日をずらして、別の日にクリスマスパーティーと歓迎会をすればいいんじゃない?」

 「そうだね!日曜日は皆、空いてる?」

 「クリスマスパーティーの後に、もう一度クリスマスパーティーをするの?」

 「パーティーは何回やってもいいだろ?」


 家族と過ごすクリスマスも大切だが、こういう過ごし方があってもいいな。小学生だった頃、児童館で開かれたクリスマス会を思い出す。


 「そうだな!」

 「そうですね!兼高さんもどうですか?」


 毎度のことながら、櫻子は兼高にも声を掛ける。

 

 「すまんな。日曜日は娘と出掛ける用事があってな」

 

 やっぱりですよね。


 「そうですか〜。じゃあ、五人でうちでやりましょう!料理とかは任せてください!あと、プレゼント交換もするんで、皆さん、用意をお願いします!」


 家族以外とクリスマスパーティーをするのは初めてだ。  表には出さないものの、内心では期待に胸を弾ませている斗黎だった。

 

****

 

 ——十二月二十四日。

 

 日中は休みだったが、ここ最近の疲れが溜まっていたのか、斗黎はなかなか起き上がることができなかった。

 目を覚ました時には、すでに夕方になっていた。

 

 ——階段を降りる斗黎。

 

 「お兄ちゃん、やっと起きたの?」

 「あんた、全く起きなかったわね」

 「……」

 

 母さんと菜子が、呆れたような視線を向けてくる。

 緋菜は相変わらず、興味なさげな様子だった。 いや、最近の俺はめっちゃ頑張ってたからな。人の気も知らないで、好き勝手言いやがる。


 「休みなんだし、いいだろ」


 そう言いながら、ソファに腰を下ろす。

 テーブルには、斗黎の誕生日と同じく、手巻き寿司とケーキに加えてチキンが並んでいた。

 矢車家では、パーティーや祝い事のたびに、何故か必ず手巻き寿司が食卓に並ぶ。

 ……なんでだろう。

 ピザとチキンみたいな、ジャンク×ジャンクの組み合わせの方が、クリスマスらしい気もするんだけどな。 食事が始まり、矢車家には和やかな時間が流れる。

 小学四年生の妹たちは、母さんからクリスマスプレゼントを受け取った。 小学生にもなれば、サンタクロースが実在しないことくらい、周知の事実だ。

 俺も保育園に通っていた頃までは枕元にプレゼントが置かれていたが、小学校からは手渡しになった。

 中学に上がってからは貰ってない。

 保育園の頃、朝起きると枕元にプレゼントが置かれていた、あの感覚は今となっては懐かしい。

 食事を終え、自室へと戻る斗黎。


 「ちょっと、食い過ぎたな」


 こういう日の食事は、ついつい食べ過ぎてしまう。このまま寝てしまおうか……。


 「おにーちゃーん、お風呂空いたよー」


 緋菜の声が聞こえてくる。


 「わーったよ」


 斗黎は一言だけ返事をすると、重い体を起こして風呂場へと向かうのだった。

 

 ****

 

 「あー、さっぱりした」


 風呂から上がった斗黎は、濡れた髪をタオルで拭きながら自室へ戻る。

 日中ずっと寝ていたはずなのに、もう眠気が襲ってきた。いくらでも眠れそうな気がする。

 ベッドに横になると、ドアの向こうからノックの音が聞こえた。

 

 「どうぞ」

 

 扉を開けたのは、無言のまま立っている緋菜だった。

 予想外の来客に、斗黎は一瞬、反応に困ってしまう。

 

 「おっ、緋菜か。どうしたんだ?」


 できるだけ平静を装い、何でもないことのように尋ねた。

 「今日、一緒に寝ていい?」


 思いがけない言葉に、斗黎は目を丸くした。普段は無口で、菜子とは対照的に甘えてくることも少ない緋菜が、枕を抱えて目の前に立っている。


 「小四なのにお兄ちゃんと寝たいのか?緋菜も子供だなぁ」


 緋菜は、むっとした表情を浮かべる。


 「じゃあ、いい」


 そう言って扉を閉め、帰ろうとする緋菜。


 「あー、冗談だよ。おいで、緋菜!」


 斗黎もまた、恥ずかしさと嬉しさが入り交じり、つい意地悪なことを言ってしまったのだ。

 斗黎の言葉に表情を明るくした緋菜は、そのまま彼のベッドへと潜り込む。


 「珍しいな。一緒に寝たいだなんて」

 「おやすみ」


 会話を強制的に打ち切られた直後、再びドアがノックされる。

 今度は返事をする間もなく、扉が開いた。


 「緋菜!居ないと思ったら、お兄ちゃんの所にいたのね!一人だけ抜け駆けなんてズルいよ!」


 菜子が勢いよく部屋へ飛び込んでくる。その勢いに若干押されながらも、斗黎は遠慮がちに声を掛けた。

 

 「菜子も一緒に寝るか?」

 「うん!」


 菜子は嬉しそうに返事をすると、急いで自分の枕を取りに戻り、斗黎のベッドへと潜り込んだ。

 斗黎が真ん中で、左に緋菜、右に菜子。

 シングルベッドに三人は、ちとキツい。幸い、二人とも細身なので、何とかシングルベッドに収まっていた。

 小学生とはいえ、女の子。ふわりと漂う、ほのかに甘いシャンプーの香りが鼻を擽る。

 二人の体つきも華奢ながら、少しずつ成長してきている。最近では化粧やおしゃれも覚え始めているが……。

 ここで忘れてはいけないのは、二人が妹だということだ。不思議なことに、異性として意識したりすることなどあり得ない。

 どれだけ可愛かろうが、妹は妹なのだ。


 ——これが、櫻子とかだったら……


 そんな不埒なことを考えてしまう自分に苦笑しつつも、まぁ、悪くない。

 最後に一緒に寝たのは、二人が小学校に入学する前だったか。 これはこれで、クリスマスプレゼントなのかもしれない。


 ——こうして、クリスマスの夜は更けていくのだった。

 

****

 

 ——日曜日。

 

 午後から九篠家で、歓迎会を兼ねたクリスマスパーティーが開かれる。

 斗黎はプレゼントを用意するため、一人でショッピングモールへと来ていた。しかし、何にしたものか……。

 クリスマスパーティーに招かれたのは、これが初めてだ。

 一体、どんなものを渡せばいいのだろう。

 家族以外とクリスマスパーティーをしたことがないため、見当もつかなかった。

 身内に渡すプレゼントなら、そこまで難しく考える必要はない。だが、他人に渡すとなれば話は別だ。相手がどう受け取るか、余計なことまで考えてしまう。

 到着して早々、ベンチに腰を下ろし、スマホでプレゼントの選び方を調べる斗黎。

 成る程、“消え物”が無難なのか。

 お菓子やバスソルト、ハンドクリームなど、実用的な消耗品が定番らしい。

 スマホをポケットにしまうと、しばらく店内を見て回る。良さそうな品を見つけたのか、おしゃれなテナントに入った斗黎は、小さな袋を手にして店から出てきた。


 「よし!」


 そう呟いた直後、出入り口の方から悲鳴が響き渡った。  吹き抜けの手すりから身を乗り出すと、そこでは蟲が暴れ回っていた。

 どうする。今は任務中ではないため、武器も許可証もバッジも会社に置いてきている。

 こういう時、少し前の自分なら、STACKが到着するまで安全なモノリスの近くに退避していただろう。だが、今は違う。逃げ遅れた人々を助けなければならないという意識が、考えるよりも先に斗黎を突き動かしていた。

 津波のように押し寄せる人波に逆らいながら、出入り口へと向かう。

 これじゃ、全く進まない。やむを得ない。斗黎はパーカーのフードを被ると、空間湾曲移動で一気に飛んだ。

 移動した先には、蟲に喰われたのか、人の手足が散乱し、身動きも取れずにぐったりとしている人々の姿があった。

 

 「酷いな……」


 蟲から逃げ遅れた女の子が、斗黎の目の前で転倒した。  その小さな体へと、蟲がじりじりと迫っていく。

 

 「嫌……ママぁ!」

 「やめて〜!」


 二人の悲痛な叫びも虚しく、蟲は女の子に牙を剥いた。だが、牙が届く寸前、そこにいたはずの女の子の姿が消えた。 斗黎が空間湾曲移動(ジョウント)で救い出したのだ。


 「えっ」


 母親が驚きに目を見開く。その母親もまた、斗黎は女の子と同じように安全な場所へと移動させた。


 ——蟲と対峙する斗黎。


 蟲が獲物を仕留めようと、勢いよく襲い掛かってくる。  斗黎は空間湾曲移動で攻撃を躱すと、一瞬の隙を突いて蟲の頭上へと飛んだ。

 その体に手を触れた瞬間、空間が歪む。次の瞬間、蟲の首と胴体が切り離された。

 血が飛び散り、蟲の動きが止まる。

 警察車両のパトカーが鳴らすサイレンが近づき、やがてSTACKの車両も現場へと到着した。

 斗黎はその場から逃げるように、再び空間湾曲移動で姿を消した。

 到着した隊員たちは、既に騒ぎが収まっている現場を目の当たりにし、怪訝そうに顔を見合わせる。


 「北斗隊長、これは……」


 男性隊員が、隊長と思しき人物に声を掛けた。


 「俺にも分からん……誰かがこの蟲を倒したのか」

 「我々以外に蟲を駆除できる人間はいません!」


 女性隊員が断言する。


 「……乃木、工藤。他の奴らと一緒に、救護と現場の回収を急げ」

 「「はい!」」


 男性隊員と女性隊員は、隊長の指示に即座に返事をした。

 隊員たちが現場の処理に動き出す中、STACKの隊長は、物言わぬ蟲の亡骸を見つめながら思考を巡らせていた。

 

****

 

 斗黎はショッピングモールを離れ、蓮華と櫻子の家の近くを彷徨っていた。

 スマホに送られてきた住所によれば、もうすぐ着くはずだ。 辺りを見回すと、“九篠”と書かれた表札のある家が目に入った。


 「ここか」


 そこにあったのは、自分の家とは比べものにならないほど大きな日本家屋だった。

 さすが、社長令嬢の家だ。


 「うわぁ……」


 あまりの大きさに思わず見入ってしまったが、気付けば予定の時間を少し過ぎていた。

 斗黎は慌てて玄関へ向かい、チャイムを鳴らす。

 「はい」

 中から聞こえてきたのは、女性の声だった。お母さんだろうか?

 「矢車です」

 玄関の扉が開くと、エプロン姿の若い女性が姿を現した。

 「あっ、すみません……えっと……」

 「話は伺っております。どうぞ」


 女性はニコッと微笑み、斗黎を招き入れてくれた。

 家に上がると、そのままリビングへと案内される。  


 「おっ、やっと来たか!」

 「十分遅刻よ」

 「遅いですよ!斗黎さん!」


 想と蓮華、櫻子が斗黎の姿に気付き、それぞれ声を掛けてくる。


 「ごめん、遅くなった」

 

 此処へ来るまでに一戦交えてきたことは、伏せておこう。

 

 「斗黎君も来たところだし、始めよっか! クリスマスパーティーと赤月の歓迎会!」


 ——色々あったが、こうしてようやく、クリスマスパーティーが幕を開けるのだった。

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