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Re:d Box ー異能BGー  作者: Amie


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14/14

第14話 暁の決意

 試合を終えて、控え室へ戻って来た赤月。

 「凄かったな、お前」

 「歯応えがなかったわ」

 筋肉隆々のパワー系の男を相手に、赤月は圧勝だった。相手の猛攻を身軽な動きで躱しながら、有効打だけを的確に叩き込んでいく。無駄のないその立ち回りは、まるで相手の動きを先読みしているかのようだった。

 戦い慣れしている。

 場数だけではない。幾度も修羅場を潜り抜けてきた者だけが持つ、冷然とした強さがそこにはあった。

 「次の試合、どうやら、私とあなたみたいね」

 「そうだな」

 この試合で赤月が自分に負ければ、赤月は狼と当たることはない。

 「この試合で負けたらどうするんだ?」

 「どうするもなにも、また、出直すわ。あなたに負けてるようじゃ、狼にも勝てない」

 その言葉に迷いはなかった。

 狼への執着にも似た覚悟が滲んでいる。

 「俺が狼を倒したら、仲間になってくれるのか?」

 「えぇ、その時は仲間になるわ」

 ここに出入りするだけでも十分危険だ。

 だが、蟲である可能性のある狼と赤月を戦わせるのは、それ以上に危険だった。

 一番の理想は俺が赤月に勝ち、そのまま狼を倒すこと。

 シオン粒子のコントロールとRED BOXを使って。

 狼を倒せば赤月の目的も達成される。

 なにより、仲間になるという言質も取った。

 櫻子にもサポートを頼み、兼高さんにも連絡してある。

 恐らく、もう合流しているはずだ。

 ……できてるだろうか。

 僅かな不安が胸を過る。

 「そこの二人。次だ。準備しろ」

 係員の声が飛ぶ。

 二人は顔を見合わせることもなく、静かに立ち上がった。

 「さっきの試合じゃ見れなかったけど、あなたのシオン粒子を使った戦いも見てみたいわ」

 「いいぜ、見せてやるよ」

 そう言うと二人は足早に控え室を後にし、リングへ向かうのだった。

 

****

 

 「手加減はしないわよ」

 「あぁ」

 両者が向かい合う。

 次の瞬間――

 『カーンッ』

 乾いたゴングの音が会場に響き渡った。

 開始と同時に赤月が仕掛ける。

 休むことなく手数を増やしながら、鋭い連撃で斗黎へ襲いかかった。

 拳が唸り、足が閃く。

 だが斗黎は冷静だった。

 赤月の攻撃を躱し、時に手でいなしながら後退する。

 無理には打ち合わない。

 相手の癖と呼吸を観察しながら、隙を窺う。

 「はぁ……はぁ……」

 序盤から飛ばし過ぎたのか、赤月の呼吸が徐々に荒くなり始める。

 焦りはない。

 だが、確実に体力は削られていた。

 その刹那。

 手数が僅かに鈍る。

 斗黎はその変化を見逃さなかった。

 すかさず前へ出る。

 今度は斗黎が攻勢へ転じた。

 鋭い拳が赤月へ迫る。

 赤月は躱すので精一杯だった。

 連続する攻撃を辛うじて捌きながら後退する。

 そして斗黎の拳を弾き、一旦距離を取った。

 互いの呼吸が交錯する。

 リングの上に、張り詰めた緊張感だけが静かに漂っていた。


****


 「ヒットアンドアウェイはどこで身に付けたのやら」

 「ヒットアンドアウェイ?」

 櫻子が怪訝そうに兼高へ訊く。

 「敵に素早く接近して攻撃し、反撃される前に距離を取って離脱する戦術や行動スタイルの事だ」

 「へぇ」

 感心したように櫻子がリングへ視線を戻す。

 観客席は妙な静けさに包まれていた。

 誰一人として大声で応援する者はいない。

 それほどまでに二人の攻防は緊迫していた。

 目にも留まらぬ速度で交錯する攻撃と防御。

 観客達は歓声を上げることすら忘れ、その高度な戦闘に見入ってしまっている。

 「二人共、シオン粒子をコントロールして戦ってますね」

 「あぁ。矢車に関しては身に付けて一ヶ月弱で、よくここまで動けたものだ」

 兼高は感嘆混じりに呟く。

 リング上を縦横無尽に駆ける斗黎の姿は、既に素人の域を遥かに超えていた。

 「凄いです」

 櫻子から素直な感想が漏れる。

 シオン粒子を扱い始めてから、まだ一ヶ月も経っていない。

 それにもかかわらず、赤月と互角以上に渡り合っているのだ。

 「どっちが勝つと思いますか?」

 櫻子が兼高へ訊ねた。

 「贔屓目に見て矢車かな。うちで訓練を受けただけあって動きがいい。対する岬はシオン粒子で能力の底上げこそしているが、動きがぎこちないし、無駄も多いな」

 兼高は冷静に分析する。

 経験則から導き出された評価には説得力があった。

 「なんか、ちょっと余裕を感じますね」

 櫻子にはそう見えた。

 斗黎は終始落ち着いている。

 相手の出方を窺いながら、自分のペースで試合を組み立てているようにも見える。

 「岬が武器を持っていたら分からんかもしれんがな」

 その言葉に櫻子は小さく頷いた。

 そっか……赤月さんって剣道の有段者だったっけ。

 素手だからこそ斗黎が優勢に見えるだけで、本来の得物を持てば話は変わるのかもしれない。

 リングの上では、今も一瞬たりとも気の抜けない攻防が続いている。

 「まぁ、二人共、常人の動きではないがな」

 兼高は苦笑を浮かべる。

 その言葉通りだった。

 人間離れした速度。

 人間離れした反応。

 そして、人間離れした身体能力。

 櫻子の目には、もはや二人の動きが残像となって映っていた。


****


 「やるわね」

 赤月の目つきが変わる。

 先程までの冷静な眼差しではない。獲物を狩る獣のような鋭さが宿る。

 「でも、私も負けられないの」

 『ガッ、ガッ』

 拳と拳がぶつかり合う。

 常人では到底捉えきれない速度で、二人の攻防が激化した。

 踏み込み。牽制。迎撃。

 互いに一歩も譲らない。

 その刹那――

 斗黎が赤月の攻撃を躱す。

 紙一重だった。

 そして、そのまま流れるような動きで背後へ回り込む。

 「なっ」

 赤月が振り返るより早く、

 「悪く思うなよ」

 斗黎の回し蹴りが炸裂した。

 赤月は咄嗟に腕を交差させて防御する。

 だが勢いまでは殺しきれない。

 体が宙へ浮き、そのまま場外へ吹き飛ばされた。

 「ぐっ!」

 鈍い衝突音。

 赤月の身体が壁へ叩き付けられる。

 衝撃で空気が肺から押し出され、そのまま床へ崩れ落ちた。

 尻餅をついたまま動かない。

 壁への激突は想像以上に重かったのだろう。

 「〝12番〟場外、勝者〝13番〟」

 審判のコールが響く。

 直後、それまで静まり返っていた会場から歓声が湧き上がった。

 高度な攻防を見せた両者への称賛。

 そして決着の瞬間への興奮。

 様々な感情が入り混じった歓声だった。

 赤月はストレッチャーに乗せられ、そのまま控え室へ運ばれていく。

 何とか狼と赤月の試合を阻止することができた。

 控え室へ戻ると簡易ベッドの上には赤月が横になっていた。

 「赤月……」

 「強いわね」

 赤月はそう言った。

 顔はこちらを向いていない。

 天井を見つめたまま、淡々と呟く。

 「悪かったな……」

 「なんで、謝るのよ」

 赤月は小さく鼻を鳴らす。

 「これが今の私の実力よ」

 その言葉に自嘲も悔しさもない。

 ただ現実を受け入れているだけだった。

 「次は狼と試合らしい」

 その瞬間。

 赤月の肩が僅かに震えた。

 背を向けていた赤月がゆっくりと体を起こす。

 そして斗黎へ向き直った。

 「大丈夫なのか?」

 「大丈夫よ。それよりも気を付けなさいよ」

 赤月の声音は真剣だった。

 「シオン粒子のコントロールは絶対に試合中は切らさない事」

 一拍置く。

 その瞳には明確な警戒が宿っていた。

 「じゃなきゃ、あなた、死ぬわよ」

 冗談ではない。

 本気の警告だった。

 「わかってる」

 斗黎は静かに頷く。

 恐らく赤月も狼対策として色々と準備していたのだろう。

 だからこそ、その言葉には重みがあった。

 もう次の試合が始まる。

 トーナメントが進むにつれ、試合の消化速度も明らかに早くなっていた。

 「じゃあ、行ってくるよ」

 斗黎は落ち着いた様子で立ち上がる。

 余計な緊張はない。

 覚悟だけを胸にリングへ向かった。

 「気を付けてね」

 背後から赤月の声が届く。

 斗黎は振り返らず、軽く手を上げて応えた。

 その背中を赤月は静かに見つめる。

 やがて視線をモニターへ移した。

 画面の向こう。

 リングの上では――狼が待っていた。

 まるで獲物が来るのを待つかのように。


****


 約一ヶ月前まで、俺は喧嘩のやり方すら知らない、ただの男子高校生だった。

 それなのに今では、こうして地下格闘技のリングへ上がり、命のやり取りにも等しい戦いをしている。

 いつの間にか戦闘にも慣れていた。

 たった一ヶ月。

 あまりにも短い期間の中で、本当に色々なことがあった。

 その全てが積み重なり、今の自分を形作っているのかも知れない。

 多くを学んだ。

 強くもなったと思う。

 だが――これが慢心なのかどうかは、自分でも分からなかった。

 

 ――目の前の敵に集中しよう。

 

 余計な思考を振り払う。

 会場へ入り、リングへ上がる斗黎。

 そこには狼が立っていた。

 圧倒的な存在感。

 ただ立っているだけなのに、周囲の空気が重く感じる。

 「前の試合を見ていたが、結構やるなぁ。お前」

 「どうも」

 話しかけられるとは思っていなかった。

 思わず空返事になってしまう。

 狼は斗黎を値踏みするように見つめた。

 「お前……何者だ」

 そう言うと、その目が碧く光る。

 シオン粒子が体内を巡っている証だ。

 斗黎も構えた。

 体内へ意識を向ける。

 シオン粒子が全身へ行き渡る感覚。

 筋肉が熱を帯び、感覚が研ぎ澄まされていく。

 「用意、始め!」

 審判の合図と同時だった。

 狼が地を蹴る。

 まるで弾丸のような速度で斗黎へ突っ込んできた。

 「っ!」

 拳。蹴り。肘。

 躊躇のない攻撃が次々と襲い掛かる。

 斗黎は躱すだけで手一杯だった。

 シオン粒子コントロールによって身体能力が底上げされている。

 赤月とはまた違う。

 純粋な暴力の塊。

 そんな印象だった。

 手強い。

 狼が大きく踏み込む。

 しゃがみ込んだ斗黎へ向かって、渾身の拳を振り下ろした。

 轟音が響く。

 拳は斗黎を捉えなかった。

 だが――

 『ドォンッ!!』

 コンクリートの床が砕ける。

 罅が蜘蛛の巣状に広がり、破片が飛び散った。

 「なっ」

 思わず声が漏れる。

 観客席からもどよめきが上がった。

 人間の拳で出せる威力ではない。

 狼は何事もなかったかのように拳を引き抜く。

 斗黎は素早く後退した。

 一旦、間合いを取る。

 斗黎は少し息を切らしていた。

 このまま守りに回れば、確実に押し切られる。

 ジリ貧だ。

 なら――

 攻めるしかない。

 「いくぞ」

 小さく呟く。

 次の瞬間。

 斗黎は一気に間合いを詰めた。

 今度は斗黎から攻める。

 拳。蹴り。連撃。

 淀みなく放たれる攻撃が狼へ襲い掛かる。

 しかし狼は余裕の表情だった。

 易々と捌き、いなし、躱していく。

 「どうした……そんなもんか?」

 狼の口元が歪む。

 直後。

 二人の距離が消えた。

 拳と蹴りが激しく交錯する。

 空気を裂く音が連続し、会場の熱気が一気に高まる。

 観客達も固唾を呑んで見守っていた。

 その最中――

 斗黎の拳が狼のボディへ突き刺さる。

 「!?」

 狼の表情が初めて変わった。

 斗黎は確かな手応えを感じる。

 「弾いていなすんじゃなくて、躱すんだったな」

 

****

 

 「成る程な」

 兼高が腕を組む。

 納得したように小さく頷いた。

 「どういうことですか?」

 櫻子は兼高へ訊ねる。

 視線はリングへ向けたままだ。

 「あいつが蟲で、矢車のシオン粒子を打撃と一緒に注入されたなら、奴の体を巡るシオン粒子は相殺される」

 兼高は淡々と説明する。

 「そうなれば、シオン粒子による身体能力強化の恩恵を受けられなくなる」

 櫻子は目を見開いた。

 「つまり、ただの常人に戻ると言う事ですね」

 「あぁ、そうだ」

 兼高は頷く。

 もし予想が正しければ、斗黎は狼の最大の強みを崩し始めている。

 それは単なる一撃ではない。

 勝負の流れを変える一撃だった。


****


 「この、クソガキ」

 頭に血が上ったのか、狼の表情が見る見るうちに険しくなる。

 先程までの余裕は消えていた。

 その双眸には剥き出しの殺意が宿っている。

 「そろそろ、本性現したらどうだ」

 斗黎は敢えて煽るように言った。

 「!?」

 狼の目が見開かれる。

 「気付いていたのか?」

 「シオン粒子が使える時点で疑ってたさ。極めつけは、お前の体内に注入した俺のシオン粒子に、お前のシオン粒子が反応したことだ」

 「……」

 狼は動きを止めた。

 数秒の沈黙。

 そして――

 「なら……見せてやるよ」

 「グァァァァァァァァ!」

 全身からシオン粒子が噴き出す。

 肉が蠢き、骨格が歪む。

 人の姿が崩れていく。

 現れたのは、百足と人間を無理矢理融合させたような異形だった。

 「グルゥゥゥゥ……」

 見るだけで生理的嫌悪感を覚える。

 何とも醜悪な姿だった。

 その姿を見た観客達は一斉に悲鳴を上げる。

 「きゃああああ!」

 「化け物だ!」

 恐慌状態となった会場から人々が我先に逃げ出していく。

 「お前は俺が殺す」

 「!?」

 斗黎は息を呑む。

 自我がある。

 しかも自ら擬態を解除した。

 頭の中で組み立てていた仮説が、最悪の形で現実になった。

 『シャキンッ』

 ポケットに忍ばせていた警棒を取り出し、伸ばす。

 「その力、どうやって手に入れた」

 「さぁな」

 狼は不気味に口元を歪めた。

 次の瞬間。

 斗黎へ襲い掛かる。

 『バンッ!』『バンッ!』

 横から銃声が響いた。

 「兼高さん!」

 「矢車!」

 兼高だった。

 同時に控え室から赤月も飛び出してくる。

 兼高の放った銃弾は狼の肩へ命中した。

 深緑色の血液が飛び散り、床を汚す。

 「全開でいくぞ!」

 斗黎は空間湾曲移動を発動。

 視界から消えたかと思えば別方向から現れ、縦横無尽に動き回り、狼へ攻撃を叩き込む。

 確実にダメージを蓄積させていく。

 「何……これ……」

 赤月は呆然と呟いた。

 理解が追い付かない。

 目の前で繰り広げられている戦いは、もはや格闘技などではなかった。

 「グァァァァァァァァァァァァァァア!!」

 狼が絶叫する。

 怒りに任せて攻撃を繰り出すが、斗黎には掠りもしない。

 そして――

 狼の視線が赤月を捉えた。

 「っ!」

 赤月の方へ向かう狼。

 異形の巨体が迫る。

 その圧倒的な迫力に赤月は腰が抜けて立ち上がれなかった。

 「キャーッ!」

 狼が大口を開く。

 赤月へ噛み付こうとした、その瞬間。

 『バンッ!』

 銃声が会場に響いた。

 兼高かと思い反対側を見る。

 そこには――

 リボルバーを構えた櫻子がいた。

 狼の頭部には風穴が開いている。

 異形の体が大きく揺れ、そのまま倒れ込んだ。

 やがて体は粒子状の煙となり、静かに溶けていく。

 あの距離から頭部に命中させたのか……

 斗黎は思わず息を呑んだ。

 赤月の元へ九篠警備保障の三人が集まる。

 「赤月さん、大丈夫ですか?」

 櫻子が心配そうに訊ねる。

 「うん、大丈夫。ちょっと腰が抜けちゃっただけ。ありがとうね、櫻子ちゃん」

 「はい!」

 櫻子は嬉しそうに笑った。

 「やっぱり蟲でしたね」

 「あぁ」

 兼高が頷く。

 「それに、自我があって、自分で擬態を解きました」

 「神楽坂さんの時みたいに、薬で蟲になったんですかね?」

 「何ともいえんな……」

 兼高は顎に手を当てる。

 考え込むように視線を落とした。

 その時だった。

 外からパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 観客の誰かが通報したのだろう。

 「話は後だ。一旦、ここを離れるぞ」

 「「はい!」」

 立てない赤月を斗黎がおぶる。

 急いで出口へ向かう。

 「入口にもう、警察が……」

 「兼高さん、櫻子、俺に触れて」

 兼高が肩に手を置く。

 櫻子は斗黎へしがみついた。

 「ぐっ」

 シオン粒子を大量に消費する感覚。

 空間湾曲移動を発動する。

 視界が歪み――

 次の瞬間。

 三人は事前にマーキングしていた近くの公園へ移動していた。

 「間一髪かな」

 「えっ!? どういうこと? ここ……公園? 私達、会場にいたよね」

 赤月が混乱する。

 当然だ。

 普通なら理解できる現象ではない。

 だが――

 今はそれよりも。

 櫻子のたわわな果実が背中に押し付けられている。

 赤月の疑問に答えている場合じゃない。

 「櫻子、ちょっと苦しい」

 「あっ、すみません!」

 櫻子は慌てて離れた。

 顔がほんのり赤くなっている。

 「何とか、大丈夫そうですかね?」

 「あぁ」

 兼高は頷く。

 そして着ていたコートを上半身裸の斗黎へ掛けた。

 気付けば空は薄っすら明るくなっている。

 どうやら、夜通し戦っていたらしい。

 「シオン粒子を扱える者は異能力が扱える。君もその可能性を持っている」

 兼高の言葉に赤月は目を見開いた。

 「それじゃあ、私にも……異能力が……」

 「俺は兼高。矢車と櫻子の上司だ」

 「警備会社の人?」

 「あぁ」

 兼高は頷く。

 「これまでの件は矢車から聞いていた。狼が死に、君の目的は達成された」

 赤月は少し空を見上げた。

 「そうですね。実感はわかないけど、何かホッとしてます」

 追い続けた復讐。

 その終わりは、思っていたより静かなものだった。

 「達成された暁には仲間になると言ったそうだな」

 「はい……」

 「うちに入ってくれるか?」

 「……」

 赤月は黙り込む。

 逡巡するように視線を落とした。

 だが、その沈黙は長く続かなかった。

 「分かりました。入ります」

 兼高が僅かに目を細める。

 「いいのか?」

 斗黎が聞き返した。

 「うん。約束だったし、あんたに負けたのが悔しかったのもあるけど」

 赤月は微笑む。

 どこか吹っ切れたような笑顔だった。

 「それ以上に、この力を自分のためじゃなくて、今度は人のために使いたいなって思ったの」

 「そうか……」

 斗黎は静かに頷いた。

 狼への執着だけで生きていた赤月。

 その心に確かな変化が生まれていた。

 「よろしくね! 矢車、櫻子!」

 「あぁ、よろしく」

 「よろしくお願いします!」

 櫻子は嬉しそうに頭を下げる。

 こうして新たな仲間が加わった。

 ひとまず解散となる。

 全身が悲鳴を上げていた。

 疲労も限界だ。

 

 ――早く帰りたい。

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