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Re:d Box ー異能BGー  作者: Amie


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13/14

第13話 地下闘技場

 「殺すって誰を?」

 恐る恐る聞いてみる。

 「〝狼〟って男」

 「本名なの?」

 「そう。本名よ」

 赤月の表情が険しくなる。

 「そっち界隈じゃ有名な奴。平気で人を殺すらしいわ」

 「そっち界隈って……危ない人達の世界って事ですか?」

 櫻子が恐る恐る聞いてみる。

 「そうよ。私はそいつを殺したいの」

 「どうして、そいつに拘るんだ?」

 「……そいつが……私のお祖父ちゃんを殺したからよ」

 声に怒りを滲ませて答える。

 「……殺された?」

 「……」

 「あの……差し支えなければ、話してもらえませんか?」

 櫻子が言う。

 赤月は重い口を開く。

 「私、お祖父ちゃん子だったの。保育園の頃にお父さんを蟲に殺されて、弟と一緒にお母さんの実家で暮らすようになったの。家の離れは昔、お祖父ちゃんが剣道を教えてた道場で、私も自然と剣道をやるようになったわ」

 赤月も肉親を蟲に殺されてたのか……

 「お祖父ちゃん……粒子が視えたみたいで、私が使ってたから粒子の持つ特性にも気付いていたの。だけど、大会で粒子を使用した事がバレてもの凄い怒られたわ」

 覚醒無しでも視えるのか……?

 「私……頭に血が登っちゃってお祖父ちゃんと言い合いの喧嘩をしちゃって、家を飛び出したの」

 ドラマでよくありそうな光景だ。

 「帰って来ない私をお祖父ちゃんが探しに行ってくれたらしいんだけど、私を捜す中でゴミをポイ捨てした男がいて、それを見過ごせなかったお祖父ちゃんは男に注意したらしいわ……」

 ん?赤月の言葉が途切れる。

 「その男に殴り飛ばされて死んだの」

 「!?」

 「殴り飛ばされた?」

 「えぇ。顔を殴られて数メートル吹き飛ばされて、頭部が壁に当たって弾けたって……即死だったらしいわ」

 まるで交通事故みたいだ。俄には信じ難い話だな。

 「いやいや、人間技じゃないですよね?」

 「私もそう思ったわ。でも現場を見ていた大学生がそう証言したらしいわ」

 「……」

 「不良狩りをしていく中で、男の名前と素性が分かってきたわ」

 「それが、狼……」

 「狼は半グレやヤンキー、ヤクザの下っ端をシバいて金を巻き上げ、日銭を稼いでいるらしいの」

 碌でもない奴だな。

 「そして、もう一つ……不定期だけど、狼は地下闘技場アンダーグラウンドファイトのファイターとして出場して賞金も稼いでいる」

 「それじゃあ、岬さんが不良狩りをしていたのって」

 「奴の食い扶持をできる限り潰すため。正直、不良狩りをしているだけじゃ本人に遭遇することは難しいわ。地下闘技場も週に一回の開催でファイターへの賞金もそこそこの額だから次の試合に必ず出ると思う」 

 !?

 「まさか、お前……」

 「私もファイターとして出場するわ」

 「高校生が地下闘技場なんて危ないだろ」

 「そこら辺の有象無象よりは強いわ。シオン粒子を使えば狼にも引けを取らない」

 「あ、危ないですよ」

 赤月はそっぽ向いている。

 「話を聞かせた以上は手伝ってもらうわ」

 赤月を一人で行かせる訳にはいかない。

 それに――。

 狼という男の話が本当なら、RED BOXを使えない赤月には危険だ。

 シオン粒子のコントロールだけで、どうこうできる相手じゃない。

 「なら、俺も出る」

 「と、斗黎さん!?」

 櫻子が心配そうな顔をしている。

 「大丈夫だ」

 「!?」

 櫻子は、もう何がなんだか分からないようだ。

 「試合はいつなんだ?」

 「明日よ」

 「あっ明日ですか?随分と急ですね」

 「週一回、金曜日に開催されてるらしいわ。取り敢えず、今日はもう遅いから明日の放課後に新宿駅前に集合。勿論、私服で、動きやすい格好でね!」

 赤月を仲間に引き入れるだけのはずが、大変な事に足を突っ込んでしまった。


 ****


 ――翌日。


 三人は新宿駅の前で待ち合わせし、一旦カフェへ入る。

 「それじゃあ、これからの事を説明するわね」

 「あぁ」

 「はい!」

 「今から行く地下闘技場は鬼醜會って言う暴力団が所有しているビルの中にあるの」

 「暴力団ですか……」

 櫻子の表情が少し曇る。

 「このご時世、本当にそんな催しがあるのか、今でも半信半疑だ」

 暴力団って言葉を聞くだけで危ないところに行くという意識に持ってかれてしまうだろう。

 「そういうのって違法じゃないんですか?」

 「表向きはね。やりたい奴が出て、観たい奴が金を払って観るだけ。ファイターが素人なだけで興行そのものはプロレスと変わらないわ」

 「表向きは?」

 「噂では、裏で賭博もやってるらしいけどね」

 そうなのか…… 

 「話を戻すわ。ビルを所有しているのは鬼醜會だけど、地下闘技場を運営管理してるのは、新宿を拠点にしている不良集団〝(トリカブト)〟よ」

 「菫?」

 「菫の幹部の一人が狼だって噂もあるわ。ビルにはVIPルームって名の賭場があって弁護士や医者、政治家や上場企業の社長なんかも出入りしているらしいわ」

 「賭博って、やっぱりもう、違法じゃないですか!!」

 「元締めなら、わざわざファイターとしてでなくても良くないか?」 

 「売上げは1円残らず、鬼醜會の資金として流れるらしいわ。矢車には私と一緒にファイターとして参加してもらう」

 「流石に止められるんじゃないか?」

 お世辞にも、3人共、大人っぽいかと言われれば、真逆だ。斗黎と赤月は櫻子を見る。

 「な、なんですか?子供っぽい見た目だって言いたいんですか?」

 「「……」」

 「地下闘技には女性も出場しているし、年齢、性別は不問よ。私達と同年代の不良も出場しているわ。偶に、死人が出ているって噂だから気を付けてね」

 マジかよ。

 「なんで、スルーなんですか!」

 「それじゃあ、出発しましょう。受付は19時よ」

 三人は地下闘技場がある新宿区某所のビルへ向かうのだった。


 ****

 

 「斗黎さん、これ、兼高さんに知られたら絶対怒られますよ」

 「そうかもな」

 しかし、この件が解決しないことには、赤月は仲間になってくれないだろう。

 「斗黎さん、ちょっと、ワクワクしていませんか?」

 「してないよ」

 九篠警備保障株式会社に入社して訓練や少ないが実践経験を得て多少戦闘には自信があるが慢心はしていない。寧ろ恐い……ワクワクだなんてとんだ見当違いだよ?

 「入りましょ、櫻子ちゃんは外で待っててね」

 「はい……」

 「櫻子、(コクーン)で変装して客席まで入ったら、そこで待機だ。何かあった時は援護を頼む」

 「分かりました」

 赤月にバレないように無線で連絡を取り合う。

 「待て」

 守衛の人間に止められる。

 「私達、ファイターとして参加しに来たの」

 守衛に上から下まで舐めるように見られる。

 「分かった。そこの扉から入れ」

 扉の向こうに案内される赤月と斗黎。先には筋肉隆々の大男や刺青の入ったガラの悪そうな男。鍛え抜かれた筋肉質な女性。が十数人集まっていた。

 団服らしき同じ格好をした菫の人間が、此方に呼びかける。

 「こっちで出場登録を済ませたら、全員地下の控え室へ向かうように」 

 言われるがままに、登録を済ませると〝十三番〟のバッジを貰った。

 「試合の時は、女以外は上半身は脱ぐように。武器の使用は禁止だ」

 「あぁ」

 控え室へ行くと、モニターには既に登録を済ませた奴が試合をしていた。

 「ビビってる?」

 〝十二番〟のバッジを付けた赤月が話しかけてきた。

 「少しな。結構迫力あるな」

 虚勢を張っても仕方ない。

 「正直ね。そうね、でも見てくれだけ立派なやつとかが多いみたいよ」

  斗黎の体付きを見る赤月。

 「あんた、いい体してるわね。何かしてたの?」

 「中学の時は陸上部だった。高校入学して会社に入ってからは護身術と逮捕術……カリとサンボも少しかな」

 「ふーん」

 「赤月は大丈夫なのか?武器の使用が禁止なら、お得意の剣道も使えないだろ?」

 「問題ないわ。お祖父ちゃんもお父さんも元警察官だったの。剣道の他に護身術と逮捕術は習ってるし、合気道の心得もあるわ。それにもしもの時はシオン粒子もあるしね」

 「シオン粒子があるとはいえ、慢心は命取りだぞ」

 「わかってるわよ」

 モニターに映る男の姿に赤月の表情が変わる。

 「〝三番〟」

 「!?」

 「恐らく、あいつが狼よ」

 「分かるのか?」

 「無駄にここ数日、諜報活動してないわ。聞いている特徴と一致する」

 モニターに映る男は長身痩躯だが引き締まった肉体をしている。

 青髪のウルフカットで左耳にはピアスをしている。そして特徴的なのが首筋から左肘にかけて狼のようなトライバル柄の刺青が彫られている。

 「あいつが狼……」

 狼の対戦相手は〝四番〟のバッジを付けた大柄な男だ。身長は狼よりも高い。

 「バッジの順番通りじゃないんだな」

 「対戦相手はランダムに決まるみたいね」

 大男は大振りで力に任せた攻撃を連続で繰り出している。 〝当たれば〟ただでは済まないだろう。しかし、狼は軽快に攻撃を躱す。攻撃が当たらず、体力の消耗と共に焦りが見え始める。

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 大男が奇声と共に渾身の一撃を狼にぶつけようとするが——次の瞬間。

 

 ——狼が振り抜いた手刀が閃いた。

 

 大男の首が宙を舞う。

 遅れて噴水のように鮮血が噴き上がり、リングを赤く染めた。

 観客席から歓声が湧く。

 「目の前で人が殺されたのにこの歓声って……」

 「狂ってるわね」

 「こんな風に死ぬかも知れないのに、参加する馬鹿は後を絶たないんだな」

 「さっきもチラッと言ったけど、ここには芸能関係者や実業家、政治家とかも観戦に来るわ。蟲が蔓延るこの時代に良さそうな人材がいたら、前科があろうが自分専属のボディガードにスカウトする人もいるのよ」

 「そうなのか」

 「スカウトする側もここのファイターはただの使い捨ての駒にしか思ってないわ」

 成る程な。

 腕っぷししか取り柄のない連中にとっては、ここが成り上がるための舞台って訳か。

 それに優勝すれば賞金も貰える。利用されてると分かっていても一石二鳥だ。

 「手刀で首を斬るなんて……人間ができる芸当じゃない」

 あれがシオン粒子だけの力だとは思えない。

 

 ——RED BOX。

 

 あるいは――蟲。

 「次、あなたでしょ?」

 モニターには次の対戦カードが映っている。

 「あぁ」

 対戦相手はランダムなんだな。俺の対戦相手は〝十番〟か。

 斗黎はリングへ続く廊下を歩いて行く。

 モニター越しに観ていた、狼が向こうから歩いて来る。

 「……やっぱり」

 すれ違った瞬間——

 微かだが、碧いシオン粒子が揺らめいている。

 狼は数歩進み――立ち止まった。

 ゆっくりと振り返る。

 まるで獲物を見付けた獣のような目だった。


**** 


 コンクリート張りの室内とは思えぬ程、広いリングは金網で覆われている。照明はこれでもかと言うほどリングを照らし熱い。リングを囲うように観客席が広がり、ほぼ満員だ。何処かに櫻子がいるはずだ。少し高いところには、ガラス張りの部屋が幾つもある。恐らく赤月が言っていたVIP席だろう。

 「両者、前へ」

 審判の男が斗黎と対戦相手を呼ぶ。

 「はっ弱そっ」

 斗黎の目の前にいる〝十番〟のバッジを付けた男は、年齢も同じくらいに見える。

 細身の体つきだが腹筋は浮き上がっていた。

 斗黎を下に見ているのは明らかだった。

 「……」

 「それでは、試合始め!」

 審判の掛け声と共に相手が突っ込んでくる。

 相手はパンチを放つが斗黎は軽く身を捻って躱す。

 その後も連打を浴びせるが、かすりもしない。

 躱してばかりの試合に観客は不服そうだ。

 「このっ」

 相手は消耗してきている。

 「腰抜けが」

 相手は苦しそうに吠える。手が緩んだ所にすかさず、間合いを詰めて蹴りを入れる。

 「ぐふっ」

 飛ばされまいと必死に堪えるが、顔面に何発も斗黎のパンチが飛んでくる。

 「ぶっ、ぐふっ、がっ」

 意識が朦朧とした相手は精いっぱい拳を上げるが、溝落に斗黎の強烈な一発が入り、その場で力尽きる。

 「勝者、〝十三番〟!」

 うわぁぁぁっと観客席から歓声が広がる。倒れた相手はストレッチャーで運ばれていった。

 存外あっさりと勝ててしまった。斗黎は会場を見渡す。まだ居ないか。


****


 ビルの外に居る櫻子。

 老若男女が、ビルの中に吸い込まれて行く。

 「じゃあ、あの人にしようかな」

 物陰に身を寄せると〝繭〟で姿を変える。

 「よしっ!」

 ビルの入口へ向かい、入場料三千円を守衛に支払う。

 『意外とすんなり、入れたなぁ』

 「おい、そこのお前!」

 後ろから声をかけられピクリとする櫻子。だが、聞き覚えのある声だ。

 振り向くとサングラスをした兼高が立っていた。

 「兼高さん!?どうしてこんなところに?」

 「それは、こっちの台詞だ」

 呆れた風に返す兼高。

 「てかっ、私って分かるん……ですよね……」

 「これをかけてるからな」

 可視化サングラスを指差す。

 「矢車から報告を受けた。勧誘が難航してるらしいじゃないか」

 「はい……」

 しおらしくなる櫻子。

 頭を撫でる兼高。

 「観客席へ行こうか。何かあれば、矢車をサポートするぞ」

 「はい!」

 真剣な表情になる櫻子。

 観客席へ向かう扉を開けた二人。

 『うぉぉぉぉぉぉぉぉ』歓声が会場を包み込む。観客は試合に夢中だ。熱狂している。

 「結構、賑やかですね」

 「そうだな」 

 リングの方に目を遣ると体と頭が離れた遺体が横たわっている。

 「兼高さん……あれって……」

 櫻子は引き攣った表情を浮かべる。

 「遺体だな。この試合で死んだんだろう」

 「本当に人が死ぬんですね……」

 「〝三番〟……あれは恐らく蟲だ」 

 「そうですね。微かにですけどシオン粒子があの人の周りに漂ってます」 

 「矢車の奴も気付いているだろうが、無線機を持ってるなら、連絡しておけ」

 「はい」

 「斗黎さん」

 「……」

 呼び掛けるが、斗黎に繋がらない。

 「駄目みたいです」

 「まぁ、服を脱がなきゃいけないみたいだから、無線機までは持ち込めないか。櫻子、お前の武器だ」

 布に包まれた櫻子のリボルバー。

 「万が一、矢車と岬に危険が及ぶようなら加勢する。いいな」

 「はい!」

 

 ——願わくば、何事も起こらないよう、心の中で願う櫻子だった。

 

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