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Re:d Box ー異能BGー  作者: Amie


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第12話 不良狩り

 身辺警護課の兼高班のメンバー全員、オフィスに呼び出されていた。

 「どうしたんすか?兼高さん」

 想が怪訝そうに聞く。

 「新たにRED BOXの覚醒者が見つかった」

 「!?」

 全員が驚く。

 「本当なんですか?兼高さん」

 「あぁ、これは探偵に調べてもらった資料だ」

 新メンバー候補のプロフィールがモニター画面に写し出される。

 「岬赤月(みさき あかつき)、萌木女子高等学校の一年生だ」

 「萌女つったらお嬢様学校ですよね、戦えるんすか?」

 「戦える戦えないは関係ない。異能力者である以上は身柄を押さえて仲間にする」

 兼高は淡々と続ける。

 「それに、その懸念は杞憂だ。彼女は全中準優勝の剣道有段者だ」

 

 ——全中準優勝。

 

 言葉だけなら簡単だが、全国大会で準優勝など生半可な実力では辿り着けない。

 凄い経歴だ。

 「どうして彼女が異能力者だと分かったんですか?」

 斗黎は素朴な疑問を口にする。

 「不良狩りって知ってるか?」

 知らない……その界隈の噂なんて耳には入ることなんてない。

 「知らないです。ニュースにでもなってるんですか?」

 想は冷めた反応だ。

 「あくまで噂話だ。木刀を持ったマスクをした女の子が不良やヤンキーを片っ端から襲ってるって話だ」

 「へぇ、美化活動で良いじゃないですか」

 「まさか、その子が不良狩りなんですか?」

 話の流れからしてそうだろうな。

 「あぁ、成瀬班の奴がたまたま現場に遭遇したらしい。その時に不良狩りからシオン粒子が視えたそうだ」

 なんて血気盛んな女なんだ……。

 不良狩りなんて物騒な噂の中心にいる人物が、自分と同じ高校一年生だという。

 本当に同い年の女子なのか?

 正直、想像が追い付かなかった。

 「わざわざ探偵まで雇わなくても良かったんじゃないですか?」

 「今回の勧誘は少し難しいかも知れん。だから慎重に情報収集から始めた」

 「学校にバレれば、部活動停止どころか退学ですもんね。実績もあるのにどうしてこんなことしてるんでしょうか」

 櫻子の疑問は尤もだ。

 「いや、高校では部活はやっていないようだ」

 「人生投げ遣りみたいっすね」

 「今回、勧誘は矢車と櫻子に任せる」

 「!?」

 いや、ちょっと待て。コミュ障の俺が血の気の多い女子とまともに会話なんてできるわけ無いだろ。

 言葉には出さないが、役割を与えられた瞬間、冷や汗が止まらない。

 「わ、私ですか?」

 櫻子もご指名に驚いているようだ。

 「俺も……自信ないですよ?」

 「俺と蓮華は別任務が入っている。霧島はどうやら良いイメージを持っていないようだしな」

 「いくら異能力者でも、そんな問題児、仲間に入れないと駄目なんですか?」

 いやいや、お前も結構、問題児だろ。

 「お前も然程変わらんだろ」

 兼高が淡々と答える。どうやら兼高も同じ意見のようだ。とはいえ、想の言うことも分かる。仮に仲間になったとして上手くやっていけるだろうか。悪いイメージが一人歩きする。

 「兎に角、二人共。頼んだぞ」

 そう言うと用事があるのか、兼高は部屋から出ていった。

 「不良狩りってやっぱり少し怖いですよね……」

 櫻子は不安そうだ。

 「ま、まぁなんとかなるよ」

 言葉に詰まる。


****


 ――次の日、兼高から渡された資料を持って、岬赤月の自宅前まで来ていた。

 

 「凄い、大きい家ですね」

 「そうだな」

 平屋の一軒家に大きめの離れがあり、土地面積だけでも結構広い。

 「どうします?チャイム鳴らしますか?」

 「あぁ」

 意を決してチャイムを鳴らそうとすると、玄関の引き戸が開く。反射的に近くの電柱陰に身を潜める。

 「どうして、隠れるんですか?」

 「な、なんとなく……」

 萌木女子高等学校の制服を着た女の子が出て来た。

 艶のある黒髪を肩口まで下ろし、背筋は真っ直ぐ伸びている。

 仕草の一つ一つに品があり、一見すると不良狩りなどという物騒な噂とは到底結び付かない。

 何処にでもいるお嬢様学校の生徒――そう見えた。

 「あの人ですかね?」

 「写真とイメージは違うけど、そうだろうな」

 二人は後をつけることにする。

 暫く尾行していると、岬は公園のトイレへ入っていった。 

 「待ちだな」

 「はい」

 待っていると、ポニーテールでマスクをした軽装の女の子がトイレから出て来た。

 「違いましたね……結構長くないですか?私、見てきます」

 櫻子がトイレに向かおうとする。

 「いや、待て!さっき出て来た奴が岬だ」

 清楚な制服姿に上書きされていたが、資料で見た不良狩りの姿だ。

 「えぇ!?」

 櫻子は驚いているがそんな暇はない。

 「行くぞ!」

 「は、はい!」

 急いで岬の後を追う斗黎と櫻子。

 高架を抜けると空気が変わった。

 建物同士が肩を寄せ合うように並び、昼間だというのに路地には薄暗い影が落ちている。

 壁には色褪せたスプレーのラクガキ。道端には潰れた空き缶や吸い殻が転がり、ゴミ袋まで無造作に放置されていた。

 普通の人間なら長居したくない。

 そんな荒んだ空気が辺りを支配している。

 「この辺って、確か、翠嵐高校があるとこじゃ……」

 「翠嵐高校?」

 中学生の櫻子は知らないみたいだ。まぁ櫻子の場合、中高一貫の進学校だから他の高校なんて選択肢に無いのだろう。

 「素行の悪い奴が集まる学校だよ。入試も平均三十点取れれば入れるらしいよ」

 「そうなんですね……」

 今時、マンガに出てくるような喧嘩に明け暮れる不良が集まる学校なんて無い。素行が悪ければ大抵は退学だ。

 この地域には翠嵐高校の生徒だけでなく、翠嵐高校を中退した奴らやそもそも高校に通ってないヤンキーも多く集まるので治安は最悪だって噂だ。

 「お嬢様が不良とヤンキーをシバいてストレス発散か?って、あれ?」

 話に気を取られて岬を見失ってしまった。

 「見失いましたね」

 「まだ、遠くには行ってないと思うけど……」

 当たりを見回し、岬を探す二人。

 『んだよっ、お前!』向こうから怒号に似た叫び声が聞こえてくる。

 「行こう」

 二人は視線を合わせると声のする方へ向かう。路地を曲がると尻もちをついている、中学生くらいの少年と翠嵐高校の生徒十人に対峙して岬が立っていた。

 二人は思わず、物陰に身を隠す。

 翠嵐高校の生徒は頭の悪そうな武器や金属バットを持った輩もいる。対する岬は短い木刀を手に持っている。

 「まさか、十人相手に一人で戦うのか?」

 「お前、最近、噂になっている不良狩りとか呼ばれてる奴だな」

 リーダー格のような奴が岬に話しかける。

 「………………」

 岬は言葉を発しない。

 「黙りでもいいが……やられた分は返させてもらうぞ」

 男は岬を睨みつける。

 「やれ!」

 男達が一斉に襲い掛かる。

 普通なら恐怖で足が竦む人数だ。

 だが岬は微動だにしない。

 振り下ろされた金属バットを半歩だけ身体を捻って躱す。

 次の瞬間、木刀が閃いた。

 乾いた打撃音。

 男の手首から金属バットが零れ落ちる。

 間髪入れず脇腹へ一撃。

 「がっ――!?」

 男が崩れ落ちる頃には、岬は既に次の相手へ向かっていた。

 無駄がない。

 まるで試合の稽古でもしているかのような洗練された動きだった。

 一人。

 二人。

 三人。

 不良達が次々と地面へ沈んでいく。

 黒いシオン粒子が岬の身体から微かに漏れ出し、その動きに合わせるように揺らめいていた。

 残るはリーダー格の男だけとなる。

 「なっなんなんだよっ!」

 狼狽した様子で声が裏返っている。

 岬はゆっくりと、近づいて行き木刀ではなく、グーパンチで一撃を入れると男も倒れたのだった。

 つい数十秒前まで威勢よく吠えていた不良達が、今は全員地面に転がっている。

 しかも岬は息一つ乱していない。

 「強い……」

 櫻子は呆然と見ている。

 「すげぇな」

 斗黎は思わずポロリと口にした。

 不良達を片付けると直ぐにその場を立ち去る岬。

 「あっやばい、移動するぞ」

 慌てて後を追うが岬を見失ってしまう。

 「見失ってしまいましたね……」

 「あぁ、でも収穫はあったな」

 「はい。先輩は気付きましたか?」

 勿論、『気付いてるよね?』みたいな口調で聞いてくると少し不安になってしまう。

 「シオン粒子か?」

 「はい、岬さん。シオン粒子をコントロールして戦っていました」

 確かに動きの節々で黒色のシオン粒子が漏れ出しているようなエフェクトがあった。

 「岬はシオン粒子の特性を理解しているってことか……なら、RED BOXも使えるのかな?」

 俺でも蓮華に説明されるまでは知らなかったし、説明を聞いた後でも半信半疑だった。

 「使うまでの相手でもなさそうでしたし、分かりませんが、シオン粒子のコントロールだけでも常人の戦闘能力を遥かに上回ります」

 いくら剣道有段者でも女子校生だ。体が出来上がって喧嘩慣れしている男を複数人相手にできるのは何処かの極道の高校教師くらいしか知らない。まず、シオン粒子の特性を理解して使いこなしていると見て間違いないだろう。

 「今日は一旦仕切り直そう。家も押さえてるし、明日、接触してみよう!」

 「はい!」

 自分の方が後輩だが、歳上なせいか場を仕切ってしまう。気を付けなければいけない。


****


 ――次の日。


 斗黎と櫻子の二人は岬赤月の家の前に来ていた。

 『ピンポーン』

 「はい?」

 女性の声が返ってくる。

 「……」

 チャイムを鳴らしたのはいいが、自分が何者か説明する言葉が出てこない。違う高校の異性が訪ねて来たら警戒するに違いない。

 「翠星中等教育学校の九篠櫻子と言います。赤月さんはご在宅でしょうか?」

 色々考え手尻込みしている間に櫻子が割って入る。歳上ながら情けない……。

 暫くすると『ガラガラガラッ』と玄関の引き戸が開き、綺麗な女性が顔を出した。

 「赤月の友達かしら?あの子まだ、学校から帰ってないのよ」

 「そうなんですね、赤月さんのお姉さんですか?」

 櫻子が少し気になっていたことを聞いてくれた。

 「いや、赤月の母です」

 はにかみながら答える赤月の母。

 二十代後半と言われても信じてしまいそうな若々しさだった。そんな事を考えてると背後から声がする。

 「……何してるの?」

 不意に背後から声がした。心臓が跳ねる。

 振り返ると、制服姿の岬赤月が怪訝そうな表情で立っていた。

 「あっ赤月、ちょうど!お友達が来てたところよ」

 「あっちに行こうか」

 「あら、上がってもらったらいいじゃない」

 「お母さんは黙ってて!」

 確かに赤月の心情から知らない人間を家には上げたくないだろう。

 「こっち来て!」

 赤月に連れられて大きな川沿いにやってきた。ここまで来るのに終始無言だった。ベンチに腰を掛ける赤月。

 「赤陵と翠星の人が私に何か用?」

 赤月が口を開く。

 「初めまして、翠星中等教育学校の中等部二年の九篠櫻子です」

 「赤陵高等学校一年の矢車斗黎……です」

 慣れない自己紹介をする。

 「今日は岬さんにお話があって来ました」

 間髪入れず櫻子が畳み掛ける。

 「話?」

 「どうして不良狩りなんてしてるんですか?」

 「!?」

 少しギョッとした表情をすると直ぐに真剣な表情に戻る。

 「成る程、昨日私を付けてたのはあんた達だったんだ」

 「気づいていたのか?」

 「まぁね」

 どうやら尾行は失敗していたようだ。だから昨日撒かれたのか。

 「後を付けたのは謝ります」

 「あなた達には関係ないでしょ?」

 キッと此方を睨む赤月。

 「関係ないし、岬さんのやってることを咎めに来た訳じゃない」

 「じゃあ、何?」

 「俺達の仲間になってくれないか?」

 「仲間って何の仲間よ?」

 「俺達、九篠警備保障株式会社の身辺警護課で働いてるんだ」

 「中学生と高校生が?」

 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの返答だ。

 「岬さん、昨日、不良を叩きのめした時にシオン粒子を使っていたろ?」

 「シオン粒子?……あぁ、あれ、シオン粒子って言うんだ」

 やはり確信犯だ。

 「シオン粒子のコントロールはいつから?」

 「部活してた時かな。体から溢れてくるからさ、抑えようとしたら、動きが良くなったり、相手の動きが遅く見えたりしたから使ってた。けど私以外には視えないみたいだった」

 「シオン粒子は使える人間にしか視えないんだ」

 まさかとは思うが……

 「全中準優勝の実績もシオン粒子を使ったのか?」

 「そうだけど?」

 岬は悪びれる様子もなく答える。罪悪感も後ろめたさも感じられない。本気で当然のことだと思っているのだろう。

 「この能力も私の能力だし」

 人は生まれながらにして平等ではない。

 体格も、身長も、身体能力も違う。

 それぞれが与えられたものを武器にして競技に挑んでいる。

 「シオン粒子を使えるなら、優勝もできただろう?」

 「決勝では……粒子は使わなかった」

 変な間があったな。

 「どうし……」

 「どうでもいいでしょ、で、私に警備会社に働けって?嫌よ」

 「シオン粒子を扱える人はそれだけで特別なんです。うちの会社に入ってもらえたら、あなたの存在を知った外部からの圧力からも守る事ができます!」

 「結構よ。自分の身は自分で守れるわ!それに、私にはやる事があるの」

 これは交渉決裂しそうな雰囲気だ。

 「不良狩りか?」

 「不良狩りは目的を達成するための過程に過ぎないわ」

 「目的を達成したら入ってくれるのか?」

 何とか軌道修正しなければ。

 「そうね……もし達成できたら、入ってやらないこともないわ」

 おっ少しだが、光明が見えたぞ。 

 「目的って何なんだ?手伝えることなら俺達も力になる」

 「復讐よ」

 その言葉だけで空気が変わった。

 先程まで淡々としていた岬の声に、初めて明確な感情が滲む。

 

 ——憎悪。怒り。

 

 思わず言葉を失った。

 櫻子も息を呑んでいる。

 「ある男を探し出して、殺す事。それが私の目的」

 冗談を言っている顔ではなかった。

 ましてや脅しでもない。

 本気だ。

 本気でその男を殺そうとしている。

 そう理解した瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 「!?」

 「それは……」

 

 ——無理じゃね?

 

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