46 気まずい、気まずすぎる!
中央支部へ戻った俺たちは、さっそく真神支部長に状況を報告した。
そして俺は、ずっと胸に引っかかっていたことを口にする。
「それから……俺たちが監視されていた件。前に、ロキという男が言っていたことを思い出したんですが」
「ロキ、か。確か、“2E”と同じ組織の仲間だと名乗っていた男だな?」
「はい。そのとき、あいつはこう言ったんです。
――『調査どおり』って」
真神支部長は顎に手を当て、しばし考え込む。
「なるほど……つまり」
「ロキ、2E、そして美零。この三人は、同じ組織に属している可能性が高いんじゃないかと」
俺の言葉に、室内の空気が静かに引き締まった。
「確かに……美零に関しては、例の映像に映っていた人物が本人だと仮定すれば、2Eと同じ存在な可能性は高いな」
その言葉に、室内の全員が無言でうなずいた。
「よし。現時点で結論は出せないが――今後は、その可能性を前提に行動してくれ」
「分かりました!」
◇◆◇
「……じゃあ、そういうことだから。そっちも気をつけろよ」
「連絡は終わったか?」
ROOTSでの報告を終えたあと、俺は美零の調査対象になっていた可能性のある全員に、注意するよう連絡を入れた。
藤宮もブッチも驚いてはいたが、今のところ異常はないとのことだった。
鏡見にも電話をして、何かあればすぐに連絡をくれるよう伝えてある。
「はい。とりあえず、写真にあった三人には連絡しました」
「よし。じゃあ、これからの予定だが――明日、俺の実家に向かう」
「鬼頭さんの実家って……確か、三重県でしたよね?」
「ああ。三重と滋賀の県境付近だ。結構な山奥でな……昔は“隠れ里”として存在していた場所だ」
たしか、鬼頭さんの一族は、朝廷の強引な併合に異を唱え、抵抗した一族だったはずだ。
「それと、向こうへは車で行くぞ。移動の足があったほうが何かと都合がいいからな」
「了解です」
◇◆◇
「はぁ〜……さすがに疲れたな」
鬼頭さんが背筋を伸ばしながら言う。
「お疲れ様です。さすがに、休憩を挟みつつ六時間ですからね」
車に乗っての長時間ドライブ。
さすがの鬼頭さんも、表情に疲れが滲んでいる。
「そういえば、ROOTSの備品に自動運転搭載の車種がありましたよね?」
「ああ……あんな玩具じゃ、いざという時に使い物にならん」
鬼頭さんいわく、以前一度使ったことがあるらしい。
だがその搭載AIは、使い物にならなかったという。
乗客の安全を最優先するあまり、AIが少しでも“危険”と判断した瞬間、マニュアルモード中でも勝手に急制動をかける。
そのせいで、逆にピンチに陥ったらしい。
「現場じゃな……安全第一なんて言ってられん時もある。あんなものは送迎用にしか使えん」
鬼頭さんは、そう不満げに吐き捨てる。
そんな時、俺のスマホに着信があった。
「あ、神楽くん。よかった、今大丈夫?」
電話の相手は鏡見だった。
「どうした? 何かあったのか?」
「何かあったってわけじゃないんだけどね……テレビ局のスタッフさんが美零さんのことで思い出したことがあるって教えてくれたの。そのスタッフさんがね、収録のために美零さんを呼びに行ったら、局の屋上で金髪の男の子と話してるのを見たって言うの」
「金髪の男の子……か。それは誰だか分からないのか?」
「うん、その時は急いでて確認しなかったんだって」
「そっか。ありがとう、気に留めておくよ」
「じゃあ、もうすぐ収録だから切るね」
「ああ、助かった」
通話を終え、スマホをしまう。
金髪の男の子が、テレビ局の屋上に――。
おそらく、あいつらの仲間だろうな。
その情報を鬼頭さんにも共有し、俺たちは再び車に乗り込んで、鬼頭さんの実家へと向かった。
◇◆◇
鬼頭さんの実家は、鈴鹿スカイラインを降りてすぐの場所にあった。
そして驚いたことに――鬼頭さんの実家は、“お寺”だった。
「実家、お寺だったんですね」
「まあな。遷座して、今はこっちに移ってきた。
昔は、もっと山奥にあったんだがな」
「なるほど……そうなんですね」
車を止め、寺の門をくぐった瞬間だった。
上から何かが覆いかぶさってきたような感覚に、思わず息を詰める。
「こ、これって……!?」
「少し我慢しろ、そのうち慣れる」
「……結界、とは違いますよね?」
「法力だ。寺を囲むように、張り巡らされている」
鬼頭さんの説明を聞きながら、俺たちは寺の奥へと進む。
境内の隅に建つ、住居らしき家の前まで来たところで――。
そこに、見覚えのある人物が立っていた。
「結局、来たのね……蓮」
そう言って、鬼頭さんの姉、鬼灯 凛がこちらを見る。
「…………」
「神楽くんも来てくれたのね。歓迎するわ」
「どうも……お邪魔します」
応接間に通されると、いかにも頑固そうな坊主頭の男性が座っていた。
背筋を正し、目を閉じたまま腕を組んでいる。
――この寺の住職。
おそらく、鬼頭さんの父親だろう。
その人物は、俺たちが入ってきても微動だにしない。
鬼灯さんに促され、俺は鬼頭さんの隣、住職の正面に腰を下ろす。
そして――
俺たちが座るのを待っていたかのように、住職がゆっくりと口を開いた。
「……何をしに戻ってきた」
低く、重い声。
「破門を言い渡したはずだが」
空気が、一気に張りつめる。
明らかに、歓迎されていない。
「じじいが殺されたってのは、どういうことだ!」
鬼頭さんが声を荒げる。
「…………」
住職は答えない。
「…………」
沈黙が、応接間を支配した。
――そうなるだろうとは思っていた。
だが、想像していたより、何倍も険悪なんですけど!
き、気まずすぎる……!
「あ、あの……」
思わず声を出した瞬間、住職の視線がこちらに向いた。
――動けない。
蛇に睨まれたカエル、という言葉が頭をよぎる。
「俺たちは、ROOTSの仕事で来ました。小鬼との関係を調査しています」
それだけ言うのに、背中を冷たい汗が伝う。
「……君は」
住職が、低く問いかける。
「蓮の同僚か?」
「あ、はい。鬼頭先輩には、日頃からお世話になっています」
「鬼頭、か……」
住職は小さく息を吐く。
「まだ、そんな名を使っておるのか」
「あ……えっと?」
一瞬、空気が重くなる。
「……いや、すまんな。客人の前で失礼した」
住職はそう言って、わずかに姿勢を正した。
「儂は、この寺の住職。鬼灯 勲という」
「えっと……神楽隼人です」
名乗り合いの言葉で、ようやくこの場に“会話”が成立した……。




