最終話 未来
「おそいな。魔真と勇璃」
「そうねえ。一体、なにがあったのかしらあ?」
もうすぐ休憩終わりであることを示す放送を聞きながら、魔輝と勇茉はそうこぼした。
次の競技が終わったら、お昼を食べ、最後にダンスで今日の子どもたちの出番は終わりだ。
そろそろ間に合わないのでは、という心配が頭をよぎるが
「おおっ、悪い!遅くなった!」
「悪かった」
後ろから夫たちの声が聞こえ、妻たちは振り返り――――絶句した。
「ちょっと、魔真!どうしたんだ、その服は!」
「ああ。悪い、魔輝」
「魔真にケガがないなら、いいが」
魔王の服はボロボロで、あちこちに穴が開いていたり、スス汚れがついていたりした。
まさに、爆弾が目の前で爆発したかのような姿に、魔輝は眉根を寄せる。
「なにがあったのか知らないが・・・・・・・あまり、私を心配させないでくれ」
「・・・・・・・悪かった」
泣きそうに瞳を揺らした魔輝の頭を、魔王はなでる。
だが、魔輝は知っていた、魔王はいざとなれば自分の身など全く顧みないことを。
だから魔輝は、パッと顔を上げ、ニッと笑う。
「さ、早くその服をこっちに着替えたらいい。ちょうど、持ってきておいて良かったな」
「そうだな」
魔王は言われた通りに、魔輝が差し出した服――――紛うことなき運動着に一瞬で着替えた。
「え、気合い入りまくってるじゃねえか」
「ふん、当たり前だ」
魔王は勇者の言葉に腕を組み、ふんっと鼻息荒く答える。
だが、そこに一石投じる者が1人。
「あらあ、勇璃くんだってえ。今日のために、靴を新調してるじゃなあい」
「ちょ、勇茉。それは言わないでって」
「え~」
魔王がちらりと勇者の靴を見ると、勇茉の言う通り、ピカピカの新品だった。
「ふっ」
「あ、おい。笑うんじゃねえ!」
だが、まあ、気合いが入るのも無理は無い、と思う。
なにせ次の競技は
『次の競技――――親子二人三脚に参加される親御様は、入場口までお越しください』
ちょうど、その競技についての放送があった。
「勇璃くうん!がんばってねえ」
「おう!」
「魔真!応援しているからな!」
「ああ」
魔王と勇者は気合いも充分に、子どもたちの元へと向かった。
パアン
親子二人三脚のスタートの合図が鳴り響く。
魔王と勇者は、他の親の誰よりも気合いの入った踏み込みでスタートダッシュを決め、魔威斗と勇威人がついていけずにズッコけた。
慌てて子どもたちを抱き起こす夫を見ながら、妻は苦笑していた。
「あーあ、気合い入りすぎちゃったわねえ」
「そうだな」
クスクスと顔を見合わせ笑う2人。
「本当、あの2人は相変わらずだわあ」
「そうだな。だがそれは、私たちもだろう?」
「そうねえ」
本当に、長い付き合いだなと魔輝は思う。
学生時代、魔真・魔輝・勇璃・勇茉の4人は、いつも一緒にいる幼なじみグループだった。
「いつもいつも、勇璃くんが魔真くんにつっかかってえ」
「なんだかんだ、魔真がそれに応戦して」
「わたしたちがそれを止めるまでがあ、ワンセット」
「でも、いざとなったら誰よりも強い絆と連携をとるのが2人だったな」
「そうねえ」
だからこそ、と妻たちは思う。
そんな2人が魔王と勇者である今の世は、これからますます良くなっていくだろうと。
園庭では、ようやくもちなおした魔王と勇者が、なんとか子どもたちと息を合わせてデットヒートを繰り広げている。
「じゃ、私たちも応援するか」
「そうしましょうかあ」
魔輝と勇茉は息を合わせて
「「2人とも、がんばれ――――ッ!」」
誰よりも大きな声援を送った。
○●○
そしてまた、次の決戦の日がやってくる。
「魔王、今日こそ俺は、お前を倒す!!!」
「勇者よ、できるものならやってみろ!」




