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第4話 侵入者

「おい、そこでなにしてる」


 ごそごそと幼稚園の裏手で作業していた魔族の男に、勇者が声をかける。

 男は、ビクリと肩を揺らした。


「なにしてる、って聞いてるんだ」


 魔王と勇者はゆっくりと男に近づき、肩にふれようとして――――男がいきなり駆け出した。


「っち」

「問題ない」


 魔王が勇者の前に出て、厳かな声で命じた。


「止まれ」


 だが、男が止まることはない。


「おい」


 ジト目で勇者が魔王を見る。

 魔王は冷や汗をかきながら、勇者とともに駆け出した。


(見誤った!)


「い、急いで捕まえるぞ!」

「ったく」


 魔王と勇者は、男の後を追いながらふつふつと嫌な予感が湧き上がるのを感じた。


「まずいな」

「ああ。この先は、園児たちがいる」


 そう、男が向かっているのは、園児たちが休憩しているエリアだった。

 事が大きくなれば、運動会の中止もあり得る。


「私が先に行く」


 そう言うと、魔王はふっとその場から姿を消した。


「う、うわあっ」


 そして、男の前に瞬間的に現れる。

 驚いた男は慌てて後ろに逃げようとするが、後ろからは本気で走ってきた勇者が目前に迫っていた。

 ちなみに、本気の勇者は時速100kmで走れる。

 勇者はなんなく男を捕まえ、腕をひねり上げた。


「いってええええ」

「うるさい」

「ぐえ」


 叫ぶ男に容赦なく布を噛ませる勇者。

 魔王は同族である《《人間にも》》容赦の無い勇者を見て、思わず呆れてしまう。


「そんなに手荒にしていいのか?仮にもお前と同じ人間だろう」

「だからこそ、だよ。こいつは自分を魔族と偽った。魔族が幼稚園に危害を加えたと見せかけようとしたんだ」


 勇者の瞳には、メラメラと怒りの炎が見て取れた。

 全く、と魔王は思いながらも、勇者らしい、とも思ってしまう。

 勇者が男の尖った耳に手をかけると、男の耳はいとも簡単にぽろりと落ちる。

 ようは、ハリボテだったわけだ。

 そのただのハリボテに、魔王である自分が一瞬でもだまされたことが口惜しい。


「おい、お前。なにをしようとしていた。どうしてこんなことをした!」


 勇者が男に詰め寄る。

 一度布を外された男は、にやりと歪んだ笑みを浮かべた。


「なにを、だって?もう遅えよ。もう、手遅れだ」

「は?」

「なにもかも、全て、魔族がわりいんだ。あの醜悪な種族を受け入れる、だと?ふざけんじゃねえ!高潔な人間様と魔族が同じ扱いなんて受け入れられるか!こんな幼稚園なんてつぶれちま」


 男が不自然に言葉を止め、がくりと白目をむいて気絶する。


「おい」

「ふん」


 犯人は勇者だった。

 勇者が、男を手刀で気絶させたのだった。


「それよりも」

「・・・・・・・ああ」


 この男の言葉から、察するに、まだ、なにかある。


「さっき、こいつがいたところが怪しいな」

「ああ」


 魔王と勇者は、男をふん縛り、人目のつかないところに放り込むと、先ほど男を見つけた場所へ駆け出した。



「・・・・・・・これだ」


 男がいた場所には案の定、不審物が置かれていた。

 いかにも、な茶色い袋に入っている。


「爆弾、だよな?」

「ああ、間違いない」


 魔王は不審物の側にしゃがみ、中身を透視して確認した。

 中では、カチカチと時計の針が動いている。長針と短針が重なると、爆発する仕組みだろう。


「どうする?」

「とにかく、ここから離れたところに移動しよう。幼稚園の安全確保が最優先だ」


 勇者の言葉に魔王はうなずき、爆弾を持ち上げようとして――――止まった。


「まずいな」

「え?」

「これは、衝撃でも爆発するタイプだ。下手に移動すると、途中で誤って爆発しかねない」


 目を見開く勇者を横目に見ながら、魔王は冷静に頭を回した。


(どうする。辺り一帯を結界で覆うか。いや、爆発の威力が分からない以上、幼稚園から爆弾を離すのは絶対だ。それなら)


「私が、転移魔法でどこか遠くに行こう」

「は?」

「どのくらいの衝撃で爆発するかはわからないが、転移してしまえば、こちらで爆発することはないだろう」


 そうすれば、少なくとも幼稚園に被害は出ない。

 これこそ最良の案、と魔王は考えたのだが、勇者は納得がいかないと言うように頭を振る。


「ダメだ。それじゃあ、お前が爆発に巻き込まれる」

「問題ない。私は魔族、しかも魔王だ。身体は人間の何百倍も丈夫だ。大抵の爆発なら無傷ですむ」

「けどっ」


 勇者は、ギュッと拳を握り込む。


「わかんねえだろ。もし万が一、魔王のお前も傷がつくような爆弾を開発してたらどうするんだよ」

「・・・・・・・」

「悪いのは、俺だ。あいつはだぶん、最近肥大化してきた反親魔派のやつら。あいつらは、常日頃魔族を殺す兵器を開発してるんだ。俺は、そいつらの摘発に手こずってて・・・・・・・今回のことは、俺にも責任がある」


 魔族と人間の遺恨はほとんど残っていないとはいえ、完全に潰えたわけではない。

 直接相手に危害を加えられたわけではなくとも、己の現状に対する不満や苛立ちを体よくぶつける相手、共通の敵を求めてしまう人がいる。

 あの男も、そんな人間の1人なのだろう。

 魔族は悪。だからどんな理不尽をぶつけても構わない。

 そんな論理が、彼らの中で正論として存在してる。

 もちろん、それは人間だけでなく魔族も同じ事。

 魔族にも反親人派が存在する。

 故に、今までも散々テロやら、相手を悪に仕立てる工作やらが行われてきた。


 それでも、今魔族と人間が戦うこと無く、均衡を保っていられるのは、魔王と勇者の尽力のおかげだ。


勇璃(ゆうり)


 名を呼んだ。

 勇者でも、お前でもなく。

 彼の――――幼なじみで好敵手(ライバル)の彼の名を呼んだ。


「私を信じろ」


 そして、不適に笑う。


 そんな魔王を見て、勇者は、息を吐き出して笑った。


「そう言われたら、頼むしかねえじゃんか」


 勇者は、魔王に拳を突き出した。


「頼んだ。魔真(まこと)


 魔王がこつりと勇者の拳に拳をぶつけた瞬間、魔王ははるか上空数万kmのポイントへ転移をした。



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