第四百九十二話 王と女王がなだれ込む
「ええい、式典は中止だ! 皆帰れ!!」
ヴォードルイユの兵たちが観衆を帰らそうとするが中々思った通りには動いてくれない。
彼らにとってこの場を離れるには余りに惜しい。
野次馬根性をそそる出来事が起きているのだから。
魔女コールをしている者までいる。
ヴォードルイユはビロンの警護区域を見た。
(向こうの縄張りまで踏み込む言われは無いが事態が事態だ。ビロンの了解は事後承諾で良いから踏み込むべきか……)
「マリー!!」
国王の声がまだ聞こえている。
護衛の壁は分厚く一歩も前に進めないでいたのだ。
ヴォードルイユが顔をしかめた。
(うるさいなあ静かに……)
「ヒ 〜 バ 〜 リ 〜 コ 〜!!」
「うわあ!!」
護衛の壁が押し崩された。
そしてそこから国王が押し出され、続いてテレジアが押し進む!
彼女の瞳は何十mか先の一点に絞られていた。
「見 〜 つ 〜 け 〜 た 〜!!」
さっきまで低めだった女王テレジアのテンションが一気にMAXまで跳ね上がっていた。
「改めまして、マリーアントワネットでございます〜」
通路の両側に陣取る観衆の前でくるりと一回転しつつ、マリーは挨拶をした。
「魔女だ〜!」
フィリップの手下を中心にまだ魔女コールは続いていた。
ヴォードルイユの兵がビロンの管轄区域に入り込んだ。
しかし観衆に手を出す前にビロンの兵に押しとどめられた。
ビロンの王妃に好きにやらせよという命令が効力を発揮していたのだ。
自己の兵とよその兵のせめぎ合いを見ながらビロンは呟く。
「あまり時間はありませんよ。お早めに、王妃様……」
国王はテレジアに後押しされてヴォードルイユの受け持つ警護区域を出てビロンの警護区域前まで来た。
それは有り難かったが。
「ヒバリコ〜!!」
後ろの圧が物凄い!
追い縋る護衛兵を撃ち払いながらテレジアは怒鳴る。
「触るな! 触ると極刑に処す!!」
さすがに初めてこのフレーズを聞く兵達は二の足を踏んだ。
さらに前進しようとする二人の前にビロンが悠然と歩いて来た。
「国王様、女王様、この様な事態の中、申し訳ありませんがここで少しお待ちを。王妃様が事態の収拾を図っておられます」
「何?」
「ヒバリコ〜!」
「対応を誤れば王妃様が今後魔女を汚名を受け続けなければなりません。王妃様に策がありそうです。ですのでここは王妃様に一任するのが得策と思います。賊の方は皆片付けておりますので。王妃様のお力添えで。ぜひご了承を」
「いいからヒバリコに会わせなさい!!」
(いいのか?)
ビロンはヒバリコの顔も知らないのでテレジアの期待には沿えない。
で、国王の方は……
「マリーは大丈夫なのか…………」
「ここは王妃様を信じてあげて頂ければ……と思います」
「随分妻の事を分かっている風だな」
「あっ、これは失礼致しました!! 」
こんな返しをされるとは思っていなかったので、ビロンは思わず狼狽えてしまう。
確かに王妃への信頼と言うか依存がやけに大きい。
関係を勘繰られたか?
「君もマリーに任せてしまう人種か。私もそうだが……」
マリーをじっと見つめる国王。
「多分それが妥当なんだろう、しかし見守るだけがこんなに重苦しいとは……」
唇を噛む王の姿にビロンは息を呑んだ。
(この人達…………夫婦で面白い! で、私としては……)
「ヒ バ リ コ を出しなさ〜い!!」
ビロンは思わず耳を塞いだ。
(この人も面白いけど近付きにくい!)
国王と女王、特に女王がやかましい。
対応する側も大変。
マリーのお邪魔にならないようにして欲しいのですが……




