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第四百八十五話 満を持して

 




 



 「何だこれは……」


 フィリップが絶句した。

 あんな芸当を王妃が何でできるのか。

 いや、もう分かっている。

 王妃だからできるのだ。

 だから自分の仲間も部下も返り討ちにされた。


 「フィリップ!!」


 フロンが食い入るように見つめる。

 

 「まだか!?」


 「いや、駄目だ。観衆が今王妃に見惚れている。このタイミングでは……」


 「そうか、なら俺がやる!」


 「何?!」


 「後は任せた!!」


 言うが早いかフロンは前に居並ぶ観衆を押しのけて駆け出していった。


 「フロン!!」


 フロンに向けて伸ばした手が握りしめられ震え出す。


 「お前まで……犠牲になるのか!」




 

 やっとの事で護衛達がマリーに襲いかかった暗殺者共を制圧し終わった。

 一人手の空いたビスケが早速マリーの元へ走り寄る。

 

 「マリー様、大丈夫ですか!?」


 「ええ、大丈夫です」


 振り返りながら答えるマリーだが警戒体制はまだ解いてない。

 

 「マリー様……」


 ビスケが言葉を続けようとした瞬間……


 巨大な影が猛烈な勢いで二人めがけて覆い被さって来た!

 ビスケは見た。

 その影が両手に大金槌を持って振り翳そうとしているところを。


 マリーは大きな影、フロンに向き直った。

 一瞬で周りの状況を見切った。

 金槌二本。

 この状態ではビスケも一緒くたに攻撃されるかもしれない。

 自分だけでなくビスケの安全も確保しないと。

 そのためには…………



 自分を境界にした自分以外の空間。

 幼少の時から指導されずっと意識してきた。

 その空間との親和。

 そしてたどり着く境地があるという。

 

 マリーは眼前の大男を見定めた。

 他者を境界にした他者以外の空間。

 マリーは右手を開きフロンの胸元に向けて突き出した。


 (まだ実践してないけど……できる!)


 手の平が胸元に届く。


 (他者を、他者以外の空間に……)


 マリーの手の平がフロンを叩いた。


 ぱんっ


 (……落とし込む!!)


 フロンの体が吸い込まれるように後方に飛んだ。


 「うわっ!!」


 背中から倒れていくフロン。

 その際片腕に持つ大金槌の突起が顔面をこすった。

 瞼から額にかけて突起で引っ掻き血が飛び散る。


 「ぎゃあ!!」


 血を振り撒きながら地面に背を打ち付けるフロン。

 振り撒かれた血がマリーの頬に、衣服に飛び散った。

 

 「ううう……」


 呻くフロンをマリーは無言で見下ろしていた。






 観衆は暴漢の返り血に染まったマリーの姿を声も無く見入っていた。

 あまりの出来事に頭が追いつかないといった感じで…………





 

 フィリップはマリーを凝視している。

 一体王妃がフロンに何をしたのか分からない。

 とにかく暗殺は思った通り失敗し血の雨まで降った。

 

 (予想以上だ…………)


 いよいよ時は来た!





 カークとビスケが二人揃ってマリーに駆け寄ろうとした。

 静寂の中、マリーはフロンの様子をうかがっていた。

 まだ動けるかと。

 フロンに向かい一歩踏み出そうとした瞬間。



 静寂を破り叫び声が響き渡った。





 「 魔 女 だ 〜〜〜!!」



 





 

 常に自分と自分以外の空間を意識し、さらに他者と他者以外の空間を意識する。

 そして他者を他者以外の空間に落とし込む。

 なんでも合気道の達人や忍術の達人、果ては花道の達人が到達する境地だとか。

 まさに神業、何も知らない十八世紀のフランスの民衆が見たら魔法に見えるかもしれませんね。

 マリーは魔女にされちゃうの?

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