第四百七十七話 作戦に不安あり
「お膳立ては整えたぞ」
ヴォードルイユの第一声にフィリップが聞き返す。
「具体的に教えてもらおう」
「ああ、まず朝十時から始まる。これは女王が宮殿から出てくる時刻だ。わしを含めた護衛に付き添われて馬車に乗ってだ。屋根なしの馬車なので乗ったまま挨拶となる」
「女王はいい。王妃を……」
「女王と王妃の位置関係を知るのに必要だ。宮殿の馬小屋の前の外側の門、ここから民衆は中に入れる。そして女王は内側の門から出て来て挨拶をする訳だ」
「ん……」
「国王はもう一台馬車を用意してそれに乗る事になるだろう。そして王妃は少し離れて西、というか宮殿の奥の方に位置する事になる」
宮殿の形はコの字型だからその奥側となる。
「まあ王妃も内側の門からは出てくることにはなるな。内と外の門の間の広間に女王と王妃がいると。距離は遠目に女王を眺められるくらいだ。二十トワーズ(約四十メートル)程かな」
「付かず離れずか……」
「いや、これでも離れた方だろう。親娘だからな」
「ふん……」
「入り口門の外に縄を張って十トワーズ幅の道を作る。道の中に民衆が入り込まない様に護衛が張り付く。かなりの人数だ。そして門を開いて女王、続いて王が出てくる。王妃は距離を維持して後に続く」
「ふ〜ん、そんなものか。かなり緩いな」
「お前にすればそうだろうがこっちは重労働だぞ」
「そうか。後は?」
「当然女王始め重要人物の周りにも護衛が張り付く。王妃にもだ」
「分かってる、想定通りだ」
「それで…………どうやって始末する気だ?」
フィリップはにやりと笑った。
「そこまでは言えない。業務機密だ」
「依頼者にもか」
「もちろん! あんたも知らない方がいいぞ。下手に知ると隠すという負担を背負う事になるからな。俺もそうだが気が重いもんだぞ」
「……分かった」
「これで情報は全部か?」
「ああ、そんな所だ。くれぐれも王妃以外にまで被害を飛び火させない様にな」
「こちらも王妃以外狙ってない! 恨みつらみは全部あいつにあるんだからな」
「よし、話はこれ位にしとこう。後は頼むぞ!」
ヴォードルイユは席を立ち部屋を出ていった。
見送るフィリップは深くため息をついた。
「ふうっ、本当に気が重いな…………」
その夜フィリップはアジトである街外れの掘建小屋にいた。
殺風景な室内に八人の屈強そうな大柄の男達が並んで立っている。
向かい合って立つのは彼らに負けない大男のフロン。
その横に唯一小男のフィリップが立っていた。
フロンがフィリップに話しかけた。
「おいフィリップ……」
「いやここではフィリップではなく……」
「それもういい!!」
「む……」
「細かいとこまで気にするな、親分だろ?!」
名前の使い分けに突っ込まれるのは初めてだった。
それだけ空気が引き締まってるのか。
「…………では王妃を仕留める手立てについて作戦を伝える」
フィリップは計画した作戦を話し出した…………
作戦を話し終わった後、多少のやり取りが行われて解散となった。
フィリップと共に帰路に着くフロンは不安を感じていた。
「なあフィリップ…………」
「なんだ?」
「今回の作戦…………あれで大丈夫か?」
「ああ大丈夫だ」
「観衆の中でやる必要あるのか?」
「大衆の見守る中で仕留めた方がこれまでの恨みつらみも晴らせるってもんだ」
「それはそうだが仕留めた後の逃走経路も心許ない」
「二度の失敗で腕のいい奴を集められなくなったからな。図体のでかいだけの奴らばかりだ。だが高い金に釣られて集まったんだからそれ相応の覚悟はしてもらう」
「それは関係ないだろう!」
「う〜ん……」
フィリップは思案顔になった。
フロンの言う事は正解だった。
こいつにだけは言うべきか。
「フロン、耳を貸せ」
耳打ちでフロンにフィリップの言葉が伝えられていく…………
……フロンの表情がみるみる青ざめていく。
「そんな事…………」
フロンのうめく様な声にに対しフィリップ鋭い口調で言い放った。
「お前も覚悟を決めておけ」
計画はずんずん進行していく。
多少の不安はあれど。
しかしフィリップは腹に一物持っているみたい。
果たして暗殺計画の行末は……?




