第四百七十六話 お膳立てが進む
「いかがなされました、ヴォードルイユ伯爵殿?」
ビロン元帥は自室に彼を引き入れながら問い掛けた。
「いや、実はな」
その場に立ったままヴォードルイユは話し出した。
「例の女王の挨拶の際の護衛だがうちの兵で行う事になった。もちろんわしの兵だけで女王と関係者全員を護衛しきれる訳ではない。軍人総出で役割分担せねばならない。で、王妃は女王と離れた場所で見守る事になった。まあ今現在の二人の関係から言ってそうなるだろう」
飄々としてビロンは聞き返した。
「ほう、そうなのですか?」
「民衆の前で親子喧嘩されたら困るだろう」
「ああ、そこですか」
「そこで王妃側の護衛を頼めるか?」
「ふ〜む」
ビロンは一応考える振りをした。
ヴォードルイユになんらかの思惑があるのではないか。
「私でないといけないのですか?」
「ああ、ブザンヴァルは王妃を苦手としている。以前奴が推した王妃付きの護衛は皆王妃により落とされた。面目丸潰れだ。というか王妃を苦手としていない貴族軍人など滅多にいない!」
「それで私を?」
「ああそうだ!」
「う〜む」
厄介事を押し付けるのが表向きの理由か。
裏もあるという気がするのだが、あったとして他の者に護衛をさせるのはどうなのか。
王妃の面白さを理解する自分としてはこれは受けるべきではないか。
裏の事情などがあっても対応は可能だろう。
「分かりました。お受けしましょう」
「おお、そうか! 感謝する!!」
こうしてマリーの護衛責任者はビロン元帥と決定した。
テレジアの民衆への挨拶はヴェルサイユで行われる事になった。
その日まで後五日となってヴェルサイユはもちろんパリも熱狂的な空気が蔓延していた。
テレジアが公の場で民衆にお目見えするという報が流れたからだ。
女王という身分もだがあのマリーアントワネットの母である。
どの様な人物なのか興味が尽きない。
すでに漏れ広まった噂も桁違いに強烈だった。
ざわめきが収まらないパリの街のとある酒場。
そこの地下にある密会所で机を挟んで向き合って座る二人の男。
ヴォードルイユとフィリップだった。
「お膳立ては整えたぞ」
ヴォードルイユの第一声にフィリップが聞き返した。
「具体的に教えてもらおうか……」
お膳立ては悪巧みをする側のもの。
着々と進んでいるようですが。
果たしてどんな仕上がりに向かっていくのやら……




