第四百七十四話 八方塞がり切って
何を言っても何をやっても娘は全く変わらない。
暴力を振るっても。
他に一体どうすれば…………
「ううっ」
怒りを通り越して切なさが心の中で膨らんできた。
(なんでこんな事に、どうすればいいのか……分からん!!)
悔しさが切なさに上乗せされ、そして…………
「も う 、い や あ あ〜!! …………」
叫びと共にテレジアの目から涙がこぼれ落ちた。
「も う 勘 弁 し て よ お お お〜!!」
「えええっ、お母様??」
明らかに母が母でなかった。
(こんなお母様見た事ない〜!!)
「ううううっうえっう……」
肩を落としうつむきつつすすり泣き続けるオーストリア女王マリア・テレジアをマリーは傍らでただ唖然として見下ろしていた。
(お母様がこんな弱々しい姿を見せるなんて…………一体どうして?)
「何をどうやってもあなたを正す事ができない! もう、私じゃ無理よお〜!! …………」
マリーはやっと事を理解した。
まさかと思える事態だが……
(お母様が……さじを投げた?)
想像もしない光景が目の前で繰り広げられている。
母が敗北に打ちひしがれているのだから。
そんな母を見るマリーの目が泳いでいた。
(こういった場合…………私どうしたらいいの〜〜!?)
「もう嫌なのよ〜! 糞の王女の母親なんか〜!!」
臆面も無く泣きじゃくるテレジアをマリーはただただ傍観していた。
対応の仕方が思い付かないのだ。
強気で怒る母ならともかく弱気に泣き叫ぶ母を、しかも自分が原因となるとどう声をかけていいのか…………
(これが泣き落としというものでしょうか? いえ、それならまだ良いでしょうが単に本気で泣いてるだけみたいに見えます……)
だとしたらどうすれば……逃げる訳にはいかなかった。
なにしろ今横に座っているのだから。
(もうかける言葉がないのなら……)
意を決するとマリーは母の体を側から腕をまわして抱きしめにかかった。
「お母様…………」
「何をやっているのよう……あなたの事を嘆き悲しんでいるのに〜!」
「今の私にはこれ位しかやれる事がありません」
「それより私を気遣うのなら…………糞の王女と呼ばれるまでに暴れん坊するのをやめて〜!」
「嫌です」
「……うっ…………うわあああ〜ん!!」
娘の腕の中で母は号泣し続けていた。
「い や だ あ あ あ〜〜!!…………」
もうこうなると泣き止むまで待つしかない。
ここまで弱さをむき出しにしてしまった母にマリーは愛おしさすら感じていた。
マリーは右手をテレジアの頭の上に置くと優しく撫で始めた。
「これ! 娘が親の頭に何をする!?』
「いいじゃないですか。考えは違っても親と子ですから……」
「いいように言うな! そんなんじゃ……ううう」
相変わらず涙を止めないテレジアをマリーは情を込めて抱きしめ撫で続けていた。
やがてテレジアは一言も発しなくなり体を丸めていった。
「…………」
マリーは母の顔を覗き込んだ。
「お休みになられたようですか……」
マリーはテレジアを座っていたベッドに寝かしつけた。
シーツを掛けてハンカチーフを取り出しテレジアの涙に濡れた顔を軽く拭いた。
寝顔を見下ろしながら呟いた。
「取り敢えずは今日はこれまでですか。これを機に和解もできそうですね……」
「マリア〜ゆるさぬ〜〜…………」
「この寝言! やはりお母様はお母様だわ……」
マリーは微笑むと寝室を後にした。
とうとうテレジアがギブアップしてしまった。
マリー恐るべし。
しかしこれで母娘が和解できるでもなし。
先はまだ見えない?




