第四百七十三話 ジパング昔話
「そうですね〜。まず……ヒバリコ先生の祖先の国は確かニッポンとおっしゃってました…………ジパングですね」
「黄金の国ジパング……そう聞いてはいましたが」
「黄金の国では無いとおっしゃっておられましたが……先生の根っこの部分がありそうな気がします」
「それで?」
「ジパングの事はあまりおっしゃってくれませんでしたね。それでも少しは……」
「何です? 思い出しなさい!」
「う〜ん……そう言えばジパングの建国の話を聞いた事がありましたが…………」
「ほう、それで?」
「ただ話した後に先生は今のは無し、忘れて下さいとおっしゃいました」
「……?」
どういう意味か分からないがここで聞かない訳にはいかない。
「続けなさい、今更ですよ」
「…………そうですね。では……今より約二千年前にシルクロードの東端の島にジパングの国が建国されました。その国の権力の頂点に即位した者を天皇と呼びました」
「…………」
テレジアはやっとマリーの話に口を挟まず聞き入る事ができた。
「一千年以上前、仁徳天皇という方が即位していた頃です。天皇が山から民家を見下ろすとどこからも釜戸を炊く煙、炊煙が出ていないのに気付き、民が困窮していると知りました。そこで天皇はしばらくの間民から税を取るのを中止しました」
「それは…………思い切ったことを」
「税収が無くなったその間に天皇の館は段々傷み雨漏りする程になりました。しかしそれでも天皇は税を取らず三年経過し民家から炊煙が見られる様になりました。臣下はそろそろ税を徴収するよう進言しましたが天皇はもうしばらく待つ事にしました。雨漏りが直る事ない館で暮らし続けたのです…………」
「ほう、それで」
いつの間にやらテレジアが話に乗っていた。
「そしてある日天皇の館に民衆が押し寄せたのです!憤まんやる方ないといった様子で!」
「な。何故です?」
「民衆は強引に館に傾れ込むと皆で一斉に…………」
「一斉に?!」
「…………館を修繕し始めました」
「何ですか〜??」
「自分達の為に天皇が困窮しているのが我慢ならなかったのでしょう」
「…………」
「この仁徳天皇にまつわる話を聞いて私はいたく感銘を受けたのですが、ヒバリコ先生はこの後つい口が滑ってしまいました、今のは聞かなかった事にとおっしゃったのです」
「口が滑った?! あれだけ長く話しておいて!?」
「あ、それ私も言いました」
「……」
「ヒバリコ先生随分恥ずかしがってましたね」
「あの女何考えているのだ〜!!」
「無かった事にするには素晴らしすぎる話です! だから私も王家に身を置くからには見習わねばと心に刻みました」
「やめんか〜!!」
テレジアはうつむきながら何らかの力を溜め込み出していた。
手先から震えも来ている。
「ヒバリコの思惑が何であるか聞かされてないと言ってましたが…………もう民への異常な執着という事でいいです!」
「本当にそうでしょうか?」
「違ってても構わん! 東の果ての王とこちらを同じに考えても意味ない! 第一どこまで本当か分からんし!」
「そんな、感動的な話です!」
「どこまでヒバリコに心酔してるのですか! いい加減目を覚ましなさい!!」
「とっくに目覚めてます! これまで通り民の為に身を捧げます!!」
「頑固者〜!!」
「お母様こそ!!」
「…………」
テレジアはここで押し黙った。
マリーはそんな母の様子をうかがい見ていた。。
…………テレジアの沈黙は長時間に及んだ。
その間彼女は散々思いあぐねた様子を見せ続けていた…………
仁徳天皇のお話が出てくるとは。
マリーが親日になっちゃってる。
和の心を持った娘では近代欧州の母も理解に苦しむだろうな。




