第四百六十九話 会話しに行く
翌朝、マリーはカークとビスケを連れテレジアのいる貴賓室に向かった。
ドアの前には護衛が三人、臨戦体制を取っていた。
彼らを遠巻きで様子を見ている野次馬が十人以上。
オーストリア女王を一目見ようと集まった一般人だ。
そこまでテレジア来訪の噂は広まっていたのだ。
マリーが部屋に近付いて来ると案の定野次馬が騒ぎ始めた。
「あ、王妃様だ〜!!」
「王妃様が女王様に会いに来たぞ〜!!」
「すげ〜、親子の対面だ〜!!」
護衛達が威嚇に回る。
「こら! 騒ぐな、王妃様の御前であるぞ!!」
「早々に立ち去れい!!」
マリーは取り巻きの野次馬達に無造作に近付いて行った。
慌てて両脇をカークとビスケが固める。
「皆様方、おはようございます。マリーアントワネットです」
おお〜
丁寧な挨拶にどよめく野次馬達。
「今朝はどの様なお集まりでしょうか?」
改めて聞かれて当惑する野次馬達。
「いや……そりゃあオーストリアの女王様を一目見たいから……」
「おお、そうですか」
笑顔のマリーに当惑が深まる。
この反応おかしくないか?
一応彼らも野次馬だという自覚はあった。
「これから母と朝の会話をする所です。親娘水入らずの会話ですので皆さんにお見せする事はできません。ご了承下さい」
おお〜
取り敢えず歓声。
女王が見られないので勢いはない。
「まあお気持ちは分かりますがオーストリアにはフランスの様に王宮に民を出入りさせる習慣はまず見当たりません。ですので母もこの場所で民に接するのは難しいでしょう」
野次馬の中から一人の夫人が進み出てが問いかけた。
「こっちの習慣に合わせてはもらえないのですか?」
「そう簡単に合わせてはもらえないでしょう。我が国独自のものですから。でも私は好きですよ。この習慣のおかげで食事中にも民と気楽に話せます。先先代の国王様に感謝ですね」
「国王の食卓ですね」
「はい。あなたもおいでになった事はありませんか?」
「はい。先日……」
「通りでどこかで見た顔だと思いました! またいつでもおいで下さい」
「はい……しかし希望者が多くて……一応先着順ですが早めに行かないと満員になってしまって……」
「おお、そうですか。考えねばなりませんね。定員を増やす術はないものですか。国王様にも相談せねばなりませんが」
談笑するマリーを見てカークは思った。
またこれかと。
十時前に着いたのにこのままでは約束の時刻を過ぎてしまう。
「国王様と別に私が民に接する場を設けるという手もありますか。王妃の食卓、いえマリーの部屋とでも名付けて」
毎度の事ながら民との話となると、どうしてこうも取りとめないのか。
もう限界だ。
カークが話を遮ろうとマリーと夫人の間に入った。
「い つ ま で 話 し て る の で す か 〜!!」
突如ドアが開き漆黒の塊が飛び出しマリーを怒鳴りつけた!
「早く中に入りなさ〜い!!」
テレジアがマリーの首根っこ掴むと部屋に放り込んだ。
ばたんっ!!
ドアが閉まる。
マリーの制止を空ぶったカークを始めこの場の全員が呆然と立ち尽くしていた…………
数秒後ドアが少し開くとメルシー伯が気まずそうに出てきた。
「…………あ、しばらく立ち入り禁止でお願いします。私を含めて」
話しに来たら例によって民が群がったいた。
いくら何でも当時のフランス王国ってここまで民の出入り自由だったんだろうか?
書いていてちょっとやりすぎじゃないかと疑問を持った今日この頃ですw




