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第四百六十六話 野次馬との接触


 





 王の部屋を出て貴賓室へ向かおうとしていたテレジアとその取り巻き達。


 (ええい、このまま何も成果なしで終わるのか!? 帰国の期日も決めねばならぬのに……)


 不機嫌そうな顔でずんずん歩いていると廊下の向こう側から数人の人影が角を曲がってこちらに来るのが見えた。

 平民らしい。

 宮殿は平民も出入り自由なのは分かっているがテレジアにとって好ましいものでは無い。

 と、平民達がテレジアを見て指差し出した。


 「おい、あれマリアテレジアでねえか?」


 「おお、黒い服着てるぞ!」


 「んじゃやっぱり女王様だ〜!」


 (なんだこいつらは〜?)


 テレジアは不愉快そうに睨んだ。

 だが彼らは気付かぬ様子で騒ぎ続ける。

 

 「本当にオーストリアから来てるんだ〜」


 「すげえすげえ」


 騒ぎながらぞろぞろとテレジアに近付いて来た。

 

 「女王様、テレジア女王様ですか〜?」


 気安過ぎる言葉にテレジアは護衛らが動く前に一歩踏み出した。


 「馴れ馴れしい! 人を見て騒ぎ立てるな〜!!」


 怒号とそれ以上の迫力の強面。


 「ひえっ!」


 ぞろぞろと後退りする平民達。

 

 「立ち去れい!!」


 叫びの一撃で彼らは蜘蛛の子散らす様に逃げ出した。


 「うわあ、やっぱ暴れん坊の母だ〜!!」


 逃げぎわの一言にテレジアがぶち切れる。


 「誰 が だ あ〜〜!!」


 メルシー伯が慌てて止めにかかった。


 「テレジア様、ここは落ち着いて下さい。騒げば余計目立ちます。一刻も早く部屋に戻りましょう」


 「ううむ……」


 怒りを滲ませながらも再び歩き始めたテレジアの背後でまた声がする。


 「ああ、あれは女王様?」


 「ええ!? テレジア様」


 今度は女性二人組だった。

 身なりから貴族の端くれらしい。


 「テレジア様〜、お会いしたく存じ上げておりました〜!」


 「お会いできて光栄です〜」


 テレジアの顔が引きつる。


 「ええい次から次へと〜!」


 無視して早足で貴賓室に向かう。

 しかし。


 「マリア・テレジアだと〜?」


 「女王様だあ!」


 人がだんだん集まってきた。

 

 「なんだこれは?!」


 ここまで急に人気者になるとは!

 テレジアは自分の存在がどれだけ人に知れ渡っているのか解っていなかった。

 一般人の出入り可能なこの宮殿ではそれが悪い方に向いていた。


 「テレジア様!」


 メルシー伯がテレジアに訴えかけた。


 「ここは急いで貴賓室に戻りましょう! 我々が女王様をお守りします!」


 護衛達が示し合わせた様にテレジアの周りを取り囲んだ。

 その間にも観衆、というか野次馬が増え続け騒ぎも大きくなっていく。

 テレジア一行は周りを囲まれてしまった。


 「女王様〜」「テレジア様〜」「女王おおお」「テレジアちゃ〜ん!」


 守るべき立場のメルシー伯がすがる様な目をテレジアに向けてしまった。


 「テレジア様……」


 「 え え い 静 ま ら ん か 〜 〜!!」


 ぴたっ


 観衆達は愚か護衛達も完全に停止した。

 停止したまま視線だけ向けた先には圧倒的な怒気を発散する女王が仁王立ちしている。

 彼女はそれらの人々をすり抜けて豪然と歩んで行った。


 「…………あ、テレジア様〜!」


 メルシー伯と護衛が後を追いかけて行く。

 取り残された観衆の一人がやっとの事で声を発した。


 「怖え…………オーストリアのハプスブルグ家ってのはあんなのばかりか…………?」


 


 



 いよいよテレジアの来仏が知れ渡り野次馬がまとわりつき始めた。

 煩わしさが増え続け、そろそろ帰る頃合いか。

 でも本当にこれで終わるテレジアでしょうか…………

 

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