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第四百六十五話 溜息を繰り返す



 



 

 「お母様! おやめ〜!!」


 叫びと共にマリーは宙を飛んでいた。

 

 どんっ


 音を立ててマリーがテーブルの上に片膝ついて着地した。

 テレジアの王に向かって伸びた両腕を掴んだ。

 

 「マリア〜!! 何をする〜!」


 「国王様には、夫には手を出させません!! 手を出すなら私にいくらでも!!」


 互いに唾がかかる程近付く顔と顔。

 護衛達がぞろぞろと駆けつけて来た。

 近付く護衛をテレジアが睨む。


 「触れるな、触れたら極刑に処す!!」


 「お母様、それ前にも使った手です!! みなさん遠慮なくお触り下さい!!」


 マリーは再び宙を飛んでテレジアの頭を超えた。

 すとんと背後に降り立つと回れ右して母の背に抱き付いた。

 テレジアは強制的にマリーをおんぶする形になった。


 「これ! 離れなさい!!」


 振り払おうとするが背中の娘は離れるどころかこちらの身動きが取れなくなっていた。

 マリーの両手両足がテレジアの両手両足に絡まり自由を奪っている。

 

 「うぬぬぬ」


 マリーの体が段々重く感じてきた。

 

 「お母様にこの様におぶってもらうのはいつ以来でしょうか」


 「四歳だっ、離れんか〜!!」


 律儀に答えてから文句を言う母。

 マリーは母の首筋に頬を擦り付けてみた。


 「おぎゃあ、おぎゃあ」


 「赤ん坊か〜!!」


 テレジアはだんだん岩でも背負っているみたいな感覚になってきた。

 足を絡められ一歩も動けない上、そもそも大人を背負ってるのだから無理もない。

 テレジアは押し潰される様にして両手をついてしまった。


 どてっ

 

 「あなたはもののけか〜!!」


 四つん這いになったテレジアが後ろ手に回した。

 

 「捕まえた〜!!」


 「これ完全なおんぶです」


 「違うわ!」


 母は両腕で娘の背を締め付けた。


 ぎゅうううっ


 「あ、火事場の馬鹿力!」


 「馬鹿とはなんだ〜!!」


 「お母様に痛い程抱きしめられるとは、うふふふ」


 「笑う事か!!」


 王は積み重なった母娘の姿を見下ろしながらまたため息をついた。

 またもやこうなるのか。

 似たもの母娘とはこういうのをを言うのだろう。

 とにかく今止められるのは自分だけみたいだ。


 「あ〜二人共そこまでにして欲しい」


 母娘が同時に振り返った。

 母の顔の方が怖いがそれでも言わねば。


 「我々はあくまで会談をする為ここにいるのだ。ここらでやめて頂きたい。女王殿が私に対して対話以上の事をしようとしたのは不問とするので今日のところはこれでお引き取り願いたい」


 「むっ…………」


 テレジアは失態を犯した事をやっと自覚した。

 怒りに任せて王に手を出すとは……しかも脅し切る前に娘に割り込まれた。

 王に借りを作った形になってしまった。

 もはや一旦引き下がるしかないか。


 「国王殿」


 テレジアは言いながら立ち上がった。


 「怒りにまかせつい、やり過ぎてしまいました。申し訳ない」


 「分かってくれればよいのです」


 「寛大な言葉、ありがとうございます。今日はこれで失礼いたします」


 女王は王に会釈して背を向けた。

 マリーの背中が見えた。


 「こら!! いつまで張り付いているんだ〜〜!!」


 「うふふふ」


 体をぶるんぶるん震わせテレジアは娘を振り払い出した。

 王はまたまた溜息をついた。


 (今頃振り払うのか。気付いてただろうに……)


 離れないと見るや母は両の拳で娘のこめかみを挟んでぐりぐりし始めた。

 

 「この〜、お仕置きです!!」


 「痛、お母様さすがです」


 もう見ていられない。

 国王は勅命を下す気分で言った。


 「マリー、もういい加減離れなさい」


 「あ、はい!」


 一瞬でマリーは母の背から半歩後ろの位置に降り立っていた。

 テレジアは振り返りもせず舗を進めながら唸った。


 「マリア〜、覚えてなさいよ〜〜……」


 「はい!」


 笑顔で見送るマリーの顔も見ずに女王とその一行は退室していった。

 国王は最後のため息をついてしみじみと呟いた。


 「やれやれやっと終わったな」


 「あなた、大丈夫でしたか?」


 「ああ、交渉は決裂で終わった。順調に」


 「そうですか……母が襲い掛かっていたのには肝を冷やしました」


 「いや、あれで結果的にこちらに有利に運んだのだから構わん」


 「……腹が座っておられますね」


 「君程ではない。にしても……」


 「はい?」


 「いや、なんでもない」


 「?」


 君達親子を見ていてなんだか楽しそうだな、と言おうと思った国王ではあったが口に出す事は止めにしておいた。

 





 

 子泣き爺いって子供と思って背負った人を石になって重みで押しつぶす妖怪。

 今は鬼太郎の仲間のじいちゃんのイメージだけど。

 マリーに子泣き爺いごっこさせても分かる人がどれだけいるやらw

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