第四百六十二話 標的を変える
結局さして話が進行せぬまま食事は終了した。
それでいて時間は随分経過していた。
ヒバリコ絡みでオーストリア時代のマリーの話が時間を取ってしまったからだ。
テレジアとしては他にもっと話す事があった筈だったが。
「取り敢えず今日はこれで。明日また同じj時刻に」
テレジアに言われて国王は気付かれない様にほっとため息をついた。
聞いてるだけで大分疲れた。
テレジアは立ち上がると立ち去ろうとしたが動きを一旦止めた。
国王を見下ろし一言言葉を投げかけた。
「明日は国王様と一対一で会議をしたく存じます」
「えっ!?」
「え?」
思わず夫婦で声を出してしまった。
テレジアは続ける。
「国を代表して国王と女王だけで。娘の話は置いておいて国同士の外交のみの会談を望みます。よろしいでしょうか?」
「む…………」
国王は言葉を濁す。
何だかんだあってもマリーの口添えは王にとって支えになっていたのだ。
それにこの女王の圧力を受け止められる人間はそうはいない。
しかしそんな事情はテレジアは百も承知、むしろそれが狙いと言えた。
「国同士の頂点が内密に国の今後について相談するのです。一対一は必然でしょう」
「それは……」
鋭い視線が王に刺さる。
「何なら明日と言わず今始めますか?」
「う…………」
窮する夫を助けたいマリーだが会談を行う要求自体は止められそうにない。
ならば……
「あなた、無理をせずに明日にして下さい。あなたには通すべき自国の、自分の意思があるのですから」
言いながらマリーは夫の手を取った。
「む…………」
取られた手が握り返してきた。
国王が女王に目を向けた。
「今から始めよう!!」
「ええっ?!」
「えっ!?」
母娘が同時に驚きの声を上げた。
意外な形で国王と女王の一対一の会談が行われる事になった。
部屋を出る間際にマリーが国王を気遣う。
「あなた、大丈夫ですか? 明日も待たずに……」
「ああ、大丈夫だ」
「そうですか…………頑張って下さい!」
両手の拳を握って元気付けるマリーに国王もつい拳を握って答えた。
「うむ、頑張る!」
二人の様子を額に皺寄せ眺めるテレジア。
(普通明日と言わず今始めるか、と問われたら今やるとは言わんでしょうが!)
マリーが部屋を出るとドアはぱたんと閉められた。
国王が女王に振り向く。
「では奥の部屋に」
「聞こえない……奥の部屋ですか……」
マリーはドアに耳を付けて中の様子を窺っていた。
外で警護していたカークとビスケが慌ててドアから主を引き剥がそうとした。
「マリー様、盗み聞きはよろしくないかと……」
「仕方ないですね。待つしかないですか」
「ここでですか?」
「ええ」
カークとビスケはため息をついた。
国王の護衛も含めて五人もいるのに一緒に立っているのか。
そうなると。
「待ってる間お話でもしましょうか」
やっぱり。
「そちらの方新人さんですか。お名前は?」
状況についていけず無言の新人護衛。
「ああ! 失礼、お初にお目にかかります。私はマリーアントワネットです」
カークとビスケは心の中で同時に突っ込んだ。
(知ってる知ってる!)
国王が女王とタイマンで。
これは女王としては話の中身より攻略しやすいかどうかではないでしょうか?
国王はマリー抜きでどこまでテレジアに抗する事ができるのか……




