第四百六十一話 会食中でした
「私が幼少時野犬に襲われた時ヒバリコ先生に命を助けてもらいました。その時の恐怖で心を壊しそうになった私に先生が救いの手を差し伸べて下さいました。心身を鍛える事で恐怖を克服する為に付きっきりで指導して下さったのです。それが無ければ今頃私は心を壊したままこの国に嫁ぐ事もなく引きこもっていたかも知れません」
(え〜! 、そうだったの!?)
さっきから聞いているがマリーの過去話には驚きを禁じ得ない。
今の妻から想像もつかない事だった。
こんな事ならもっと色々聞いておけば良かったと思うくらいだ。
「私が武道を教わったのは過去の恐怖を乗り越える為、自身が強くなるしかなかったからです。もちろん身につけた強さは世の為に役立てますけどね」
「それが分かってるからこそヒバリコを辞めさせ切れなかった! 今となっては痛恨です!!」
「私には福音でした」
「良い様に言って! あれからあなたのおかしな噂が増え出した! 民に異様に礼儀正しい貴族の娘が出没しているだとか農家の牛小屋に突如身分の高そうな少女が現れひたすら夕刻まで乳搾りを手伝い続けて帰って行ったとか……」
「それは七歳からです」
「自慢になるか! 馬に乗って小麦粉泥棒を追い回しただとか村娘に絡んできた男の顔を地面に叩き付けただとか物騒な噂を聞く様になった!」
「それは十二歳からですね」
「本当だったのか〜!!」
「幾分話が違って伝わってますけどね」
「幾分?!」
「小麦泥棒ではなく強盗です。男の顔は壁に叩き付けました」
「幾分どころかちょびっとだけじゃないか〜!!」
「泥棒と強盗では暴力性が違います」
「暴力振るってるのはあなたでしょうが〜!!」
国王はやっと食事を再開した。
聞き入っていてはいつまで経っても食事が終わらないと判断したからだ。
食べながら、しかし聞き耳はしっかり立てて…………
「どうしてヒバリコはあなたにそんな暴力的な術を教えたのです!? 心身を鍛えるなら他にも色々あったでしょうに!! ヒバリコはあなたに余計な事を……いや、余計な考えを吹き込んだ! そのせいで王家の習わしからはみ出してしまった…………ヒバリコ、許さん!!」
「ヒバリコ先生は私に自分の考えを強要するのを嫌っていました。学術武術を教えるだけで。ただし王家の責任として民に対しては寄り添う気持ちを絶対忘れるなと言明されました。そしてそれを行動に伴わせる様にとも」
「な、なんですって!?」
「民の怒りを買う事、憎まれる事がどれ程悲しく不幸な事か理解できる様にと。先生の教育にはそういった意思が込められていたと思います」
「その結果がこれですか……ヒバリコめ〜!」
「国家は、王家は民の上に乗って成り立っているのです。民無くして国はありません」
「…………王家の尊厳無くして国家は成り立ちませ〜ん!! 民に寄り添いまくって王妃の威厳を損なうな〜!!」
国王は食事をしながら酷く悩む事になった。
二人に言うべきかどうか……
だが母娘の会話がいつ終わるとも知れないので意を決する事にした。
「二人共話したい事はあるだろうが……」
母娘は国王に揃って振り向いた。
圧を感じつつ彼は言葉を続けた。
「全く料理に手を付けてないよ。会食の場だ。会話だけでは食事が終わらんよ」
「…………」
「…………」
二人は一旦目の前の料理に目を向け食事を開始した。
「どぅえすはらあなたうぁ!」
「おふぁあ様何言っふぇるのふぇすか?」
「二人共食べながら叫ばないでくれ! はしたない」
「ほの娘ぐぁろぐでも無いふぉとを言ふがらこひらも言わふにいられない!」
「おふぁあ様……ごくんっ……ですからお母様!」
「んがぐぐっ」
「口の中に食べ物が残っている内に相手の言葉に言い返すのはやめましょう」
「あんたもそうだ!」
「ええ、お互いに……」
食事そっちのけで話してた。
両方いっぺんはやりにくい?
それでも言わずにいられない。
会話と食事に終わりは見えるか?




