第四百六十話 過去話
「あなたがその様に民が民がと言い初めたのはいつの頃でしたか……」
「……ずっと言ってる様な気がしますけど」
「そんな訳ないでしょう! あなたがやたら民の事を言い出したのは乗馬を習い出した後です! 四、五歳の頃にヒバリコがあなたを馬小屋に連れ込み馬に慣れさせるとか言って……」
「ああ、あの頃私は犬を初め動物が怖くて仕方なかったのでなんとか克服する為先生が色々してくれた時期ですね。犬以外の小動物から始めて段々大きな生き物にしていって、ヒヨコ、鶏、豚、牛、馬と……」
「それが何で乗馬になるんですか? 単に慣れるのと乗り回すは違うでしょう! 乗馬を覚えたと思ったら城外に出馬して騒ぎを起こす様になった! それからしばらくして民がどうとか言う様になった!」
「う〜ん、すると七、八歳くらいでしたか」
「六歳の誕生日だ! 誕生日のケーキを勝手に持ち出して帰って来たら知り合いの民に分けたとか何を考えているのですか?!」
「おお、あれは皆さん喜んでくれました!」
「おかげでヨーゼフの食べる分が無くなったでしょ!」
「お兄様は気にするなとおっしゃってくれましたよ」
「あれは妹の前で見栄張っただけです!」
「え〜っ、そうだったんですか?!」
「ええい、そんな事にも気付かないとは……」
「いえ当時六歳ですし」
(何の話をしているのだ……)
国王は母娘の会話が自分そっちのけになっていくのを感じていた。
何も言えないが何も言わなくていい方が気が楽かも知れない。
このまま黙って聞いてるだけでいられたら……
「健全な心身をと毎朝城内を走り回らせて、乗馬を教え込んだら場外に連れ回す! ヒバリコのせいであなたは……何度クビにしようとした事か! その度あなたは必死でヒバリコをかばっていた!」
「命の恩人ですし、何よりこの世で一番尊敬していました。だから先生の為にも一生懸命勉強しました」
「それ!! 辞めさせようとする度にあなたは国語やフランス語、算術などで目覚ましい結果を出してヒバリコのおかげだと喧伝した! おかげで遂ぞ辞めさせる事が叶わなかった! これもヒバリコの入れ知恵か〜!」
「いえ、そんな! あれは私自身が絞り出した生活の知恵です」
「生活ぅ?!」
「はい。日々そういう事態がありましたから」
「そんなもの日常化してどうする!!」
「お母様が事あるごとに先生を辞めさせようとするからです。しかも年が経つにつれ頻度が増えて……」
「当たり前です! しかもあなたを城外に連れ出して何やら怪しい武闘を教えているらしいと聞き及んだ時は耳を疑いました」
「おや、いつお気付きで?」
「あなたが十二の時です!」
「できるだけ気付かれない様に人目を避けて鍛錬してましたが……良くお分かりになりましたね」
「…………あなたが酔っ払いの軍人を投げ飛ばしたからでしょうが〜!!」
「ああ、真昼間から酒瓶片手に裏若き乙女に手を出したので、ついこちらも手が出てしまいました」
「違〜う、そこじゃない!! 十二のあなたが何で軍人投げられるんですか!? 最初は信じられなかった! どうやらヒバリコが教えたらしいと知る頃にはあなた暴れん坊と呼ばれ始めたでしょうが!!」
(う〜む、そんな事があったのか……そんな話聞く機会がなかったな…………)
国王は母娘の会話に聞き入っていた。
何だか二人の丁々発止のやりとりに面白味すら感じていた。
流石にこの国この時代にボケと突っ込みの疑念は無かったが。
三人の食事の手はずっと止まったままだった。
マリーの幼少期から十二まで……
国王も興味津々で聞いてる?
口はしゃべる為だけでなく食べる為にもあるものですが、ご馳走様はいつになるやら。




