第四百五十九話 娘の素行より領地?
(私はここにいていいのだろうか?)
国王は二人のやり取りを眺めながら場違い感をひしひしと感じていた。
ヒバリコは妻の教育係だった事くらいしか知らない。
それだけでも相当な人物とも言えるが。
「国王様!」
「はっ!?」
いきなりテレジアに呼ばれて国王は尻が浮き上がってしまった。
「な、なんですか?」
「我が国と御国の今後についてお話を…………」
意外な言葉だった。
これまで国同士の政策そっちのけでマリーの素行を修正しようとしていたテレジアが今、国王と交渉を始めている。
マリーにとってこれは大きな状態変化だった。
(お母様、諦めたのか……それとも?)
この後テレジアはオーストリアとフランスの共闘すべき政策について協議する事になったが……
オーストリアの領土拡張について国王はこれまで通り非協力を主張した。
ヨーゼフ二世の来仏時にも拒否の姿勢を取った国王ではあったが、相手が女王テレジアとなると分が悪い。
「我が息子ヨーゼフ二世が以前持ちかけた通り、うちがバイエルンを併合するのを認めてくれるなら、そちらがオランダの一部をお譲りします。それでよろしいでしょうか?」
「…………いや、それはできぬ。百三十年前のヴェストファーレン条約により神聖ローマ帝国の領邦の安定を我がフランス王国は担っている。これを損ねる事はできない」
神聖ローマ帝国は実質ドイツの事である。
しかし宗教的意味合いではカトリック信仰を持つヨーロッパ地域の総体であり、そう言う意味ではドイツもオーストリアもフランスも神聖ローマ帝国だった。
弱い結びつきの国家連合とは言え内部で領地の奪い合いがあるとなれば、フランスは百三十年続くその崇高な役目を怠った事になる。
国王ルイ十六世はそこにこだわりがあったのだ。
テレジアにとってはただ無駄に律儀なだけだった。
「お母様」
「むっ」
マリーが声を発した事にテレジアは敏感に反応した。
何をやらかす気か。
「オランダは百三十年前の条約締結時に神聖ローマ帝国から外されたとは言え安易に奪ったり譲渡したりするものではないと考えます。国王様はオランダを欲しいですか?」
急に振られた国王だがすぐさま返答した。
「いや、その気はない……」
テレジアは娘を渋い顔で睨む。
祖国からわざわざ嫁がせた我が娘なのに、何故オーストリアの利益にならない発言ばかりするか。
「お母様、国家にとって領地が増えるのは利益かも知れませんが、それは正解でしょうか?」
「どう言う意味です!?」
「要は当の領民にとって喜ばしい事かどうかが大事かと思います。オランダ国民が心穏やかに暮らせるにはどうすれば良いかまず考えるべきでしょうね」
苦虫噛み潰した表情になるテレジア。
「…………また民ですか?」
「はい。民無くして国は成り立ちませんから」
事も無げに言い切るマリー。
テレジアは表情を変えないまま目を閉じた。
「あなたがその様に民が民がと言い初めたのはいつの頃でしたか……」
神聖ローマ帝国の説明ですがかなり簡略化してあり適当です。
実際は相当ややこしくて把握しきれん、と思いこんな程度で済ませました。
しかしテレジアもさすがに娘の素行だけに執着してる場合では無くなったか。
むしろそれが当たり前なんですがね。




