第四百五十話 勘違いに閉口
馬車は一応お忍びの地味なもので行く事になった。
マリーとテレジアは二人乗りの馬車でテレジアの護衛が御者となった。
もう一台は四人乗りでメルシー伯とカーク、ビスケを含む護衛三人で御者がバジー。
傍を馬に乗った護衛が二人。
かなり変則的な形だった。
パリに向かって馬車が走る。
並んで座る母娘はしばらく無言だった。
マリーにとって従者も護衛も乗らない二人乗りの馬車を母が所望した事が重要だった。
二人きりで何を言い出す気なのか。
「マリア……」
やっと母が口を開いた。
「はい……」
「…………ヒバリコは元気ですか?」
「えっ!?」
あまりに唐突な問いかけだった。
マリーは言葉を失う。
だが母は構わず言葉をたたみ掛ける。
「パリにいるのでしょう? あなたがパリに頻繁に出掛けるのはそう言う事でしょう? なんで今まで思い付かなかったのか……」
(…………盛大に勘違いしてる〜〜!!)
マリーはこの後しばらく無言を余儀なくされる事になる。
テレジアはマリーに己が推測を滔々と語り続けていた。
「あなたがフランス王国に御輿入れする時に……ヒバリコを帯同させる事を私が絶対許さないのを一番良く分かっていたのは…………ヒバリコ自身です!」
(困った……)
「だからその前に自ら身を引き立ち去って行った。私は見事に大喜びしましたよ。やっと厄介払いができたと。今から思えばなんと浅はかな……」
(どう言えばいいか……)
「その後自分でフランスへ行ってしまえばヒバリコはあなたと再び会う事ができる。パリに住めばいくらでもあなたとつるむ事が可能です」
(言っても信じてもらえるか…………)
「フランスにおける今日までのあなたの行動はヒバリコが陰で操っていると考えれば合点がいきます」
(だから違うの〜!)
「ヒバリコに会わねばならない……」
マリーは遂に自分の心情を言葉にして叫んだ。
「私が会いたいです〜!!」
昼下がりのパレ・ロワイヤルの庭園。
立ち並ぶ菩提樹の一本の木陰に二人の男が立っていた。
身長差がかなり大きいこの二人の背の高い方が話し出した。
「フィリップ、こんな場所で落ち合うとはどういう気だ?」
「結構やりやすいんだよ、ここは。それでお膳立てはどうなった?」
「ああ、女王の帰国時に市民への顔見せが行われる手筈だ。帰国の日取りは決まり次第伝える」
「まだ決まってないのかよ?」
真っ当な問いにヴォードルイユは口元を歪めて答えた。
「王妃が不確定要素になってるんだろう。女王の胸先一つだろうな」
「女王と王妃は一緒にはならないな?」
「ああ、もちろん。他に聞くことはないか?」
「特に無い。ご協力感謝する」
「……それではこれで失礼する。頼むぞ!」
「おう」
ヴォードルイユは踵を返して歩き去って行った。
見送るフィリップはため息をついた。
「ふうっ、これからが骨が折れそうだな……」
テレジアが誤解している。
確かに可能性として考えられるけど。
実際はそうでは無いと証明するのも大変そうだし。
これからが骨が折れそうだな……




