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第四百四十六話 密会で注文






 

 その日の夜。

 ヴォードルイユはとある酒屋に姿を現していた。

 

 「いらっしゃい」


 酒屋の主人が彼に声をかける。


 「ぶどう酒を一瓶欲しい。長らくの友と酌み交わしたい」


 「へい。じゃこちらに」


 ヴォードルイユはぶどう酒を渡されなかった。

 主人は部屋の奥にヴォードルイユを案内した。

 通路の突き当たりまで来てドアを開けた。

 背後で主人の声がこそっと聞こえた。


 「後はご自由に」


 ドアの向こうに地下への階段があった。

 迷わず降りるとそれまでと違う石の通路が見えた。

 坑道に繋がっていたのだ。

 通路を進んで角を曲がるとこじんまりとした部屋に入った。


 「よう、久しぶりだな」


 背の低い男が座椅子に座ったまま挨拶した。

 

 「フィリップ。調子はどうだ?」


 ヴォードルイユの問いにフィリップは気だるそうに笑った。


 「全然だね。あれからイノサン墓地で王妃を襲ったが返り討ちにあったよ」


 「あの事件はやはりお前だったか。連絡を絶っていたからな……」


 「おかげでまた手駒を失った。王妃には恨み骨髄だぜ」


 「で、まだ諦めてないのだな?」

 

 「もちろん! 手駒を揃え直した所だ」


 失敗続きでこの稼業界隈の信用を失い、集められた手駒の質が落ちてしまった事は言わない。

 

 「それで俺に何の用だ?」


 「決まってる。王妃の始末の催促だ」


 「ふふ、前金もらったままだもんな」


 「笑ってる場合じゃない!」


 怒るヴォードルイユにフィリップは手で椅子を進める仕草をした。


 「まあ座れ。俺にも考えはある。丁度あんたに話したい事があった」


 座りながらヴォードルイユは聞いた。


 「なんだ? 手を貸せというのか?」


 「実はだ。最近王妃の母親が来ているそうだな」


 「む! 知っているのか?」


 「もうパリ中に知れ渡っているぜ。まあその前から知ってはいたがな」


 自分が広めたのだから当然だ。


 「それでだ。王妃は俺の仲間、クロスボウ使いと剣使いを王妃自身が仕留めたとの噂だ。イノサン墓地の六人も王妃が戦闘に加わっていたそうだ。さっきの剣使いがヴェルサイユで王妃の十人掛けを直接見たってんだからとんでもない」


 最後の話はヴォードルイユ自身も知らない話だった。


 「そ、それで何をして欲しいんだ?」


 「王妃を狙うにあたってだ、まず可能な限り観衆が沢山集まっている場所に王妃がいる事が必要だ」


 「何?」


 言ってる事に違和感を感じる。

 構わずフィリップは言葉を続ける。


 「女王がパリ市民に顔見せでもしてくれればすぐにでも集まるだろう」


 「……貴様!」


 「言うつもりは無かったがまあいいか。女王が来ているのをパリ中に言いふらしたのは俺だ」


 「な……なんだと」


 「驚くな、お膳立てだ。こっちは王妃を狙って動き出してるんだ」


 驚くなと言っても驚くしかない。

 衆目の中王妃を仕留めるなどと容易く言える事ではない。


 「お前一体……」


 「そして大事なのは女王と王妃が一緒にいない事。別々でいて欲しい。女王と王妃をまとめて仕留める訳にゃいかんだろ。国際問題どころじゃなくなる。だから同じ馬車に母娘仲良くなんてのは願い下げだな。王妃だけ襲うにはせめて別の馬車になるな。馬車の外にいたらもっといい」


 ヴォードルイユは表情をを歪ませた。


 「お前の企みが俺には分からん。どういう計画か?」


 フィリップはにやりと笑った。


 「そこまでは言えないぜ。依頼人だからと言って手口を丸ごとばらす請負人がいるかよ! そこはお任せ願うぜ」


 「…………今度こそ始末できるんだな?」


 「あんたの悪いようにはしないつもりだ」


 「それで大勢の衆目の中で、しかも王妃を……孤立させるのか?」


 「ああ。護衛がいてもいいが、護衛されるべき存在が他にいない事だ。だから国王も駄目だわな」


 「随分な注文だな。お膳立てできると思うのか?」


 「できないのかよ? あんたを持ってしても」


 ヴォードルイユは考え込む仕草を見せた。


 (女王が顔見せする事になれば馬車で行進か。王妃を別の馬車に乗せるのか。女王を説得できれば後は自ずと馬車は別になるはず。今の女王と王妃の仲を考えればな)


 「できるよな? ヴォードルイユさんよ」


 「からかうな! 保証はできんが不可能ではない」


 「じゃ、やるんだな?」


 ヴォードルイユは立ち上がってフィリップを睨み下ろした。


 「ああ、やってやる!!」


 

 


 

 色々画策しているフィリップ。

 狙いがまだよくわからない。

 ヴォードルイユが乗せられてますが……

 果たして彼の策はマリーを仕留められるのか?

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