チジョウデオボレルッテユカイ
昨日の実験結果で人形の部品が傷つけられた場合直接被害を加えた本人が同じ場所を怪我することはわかっている。それは髪でも例外じゃないみたいで鹿島さんの髪もナイフによって切れた。
となるとこの大量の水はどこかでウィッグ部分が水流にさらされ続けているか、水に沈められている可能性がある。じゃあ今になってなんで?
傷は即座に自分に返ってきたはず・・・。
いや、今考えている暇はない。
このままじゃ地上で溺死しかねない!
「あんたが俺の鞄隠したのか! 言え! どこ!」
彼女の肩をゆするが、大量に流れる水のせいで声が出せていない。
島田先生から慌てたような声が出る。
「おい四方山。今はそんな場合じゃ・・・」
「うるさい! このままじゃ死んじゃうんですよ!」
その声に驚いたのか少し後ずさる。
どんどんと力が抜けて座っていられなくて倒れこんできた彼女を受け止める。 不味い、もしかして窒息!? どうする、どうしたら・・・。
そうだ、原因は髪の毛だ!
「先生! 運ぶの手伝って! 窓まで!」
「お、おう」
先生はもう片方の肩を持つと状況が呑み込めていないクラスメイトの一人だった翔君が「全員場所開けろ!」という声とともに周りが道を開けてくれ、早川も何がしたいのか察したのか窓を開けてくれる。
「先生、顔を上に向けた状態で頭だけ窓の外へ!」
「わかった!」
机を土台代わりに何とか彼女の頭を窓の外に出し髪をかき上げる。
ビンゴ! 思った通り水が出ているのは髪からだけだ。窓から水が絶え間なく落ちていくが、これで窒息する心配はない。
ただ、彼女の頭皮は絶え間なく水でさらされている状態で全身も濡れ体温が奪われている状態だ。早く何とかしないと。
「四方山、これって・・・」
「ああ、間違いない呪が発動している」
先生が「呪い?」と説明するように視線でこちらを見てくるが、今はそれどころではない。
立花さんはやっと息ができるようになったがまだ話せる状態じゃなかったので、周りに彼女を拭くものと体温を上げるための物を持ってくるように伝える。
そうしているとやっと呼吸が落ち着いたようで彼女に問い詰める。
「俺の鞄どこにやったの?」
「しら、ない・・・」
そんなはずがない。そうでもなければ彼女に人形の呪が降りかかるはずがない。
「本当に知らない! だって捨てたのは私じゃなくって!「みゃーちゃん!」」
彼女の声を遮り教室のドアが勢いよく開かれる。宮崎さんだ。
「うちのクラスの子が、その・・・何故か突然立ち上がって、教室から出て行って・・・そのあとが水浸しで・・・えっと、その・・・彼女がいたところに水が溜まってて・・・廊下も濡れてて、それが明らかにおかしい量で・・・」
別にパニックになっているわけではない。どっちかというとごまかすような少し言っていいのか迷っているような恥ずかしがっているような・・・。
そこで、おかしいことに気が付く。
そういえば部品は二つあったはずで両方鞄に入っていたはず。それなのに水が染み出ていたのは彼女の髪からだけであって・・・。
で、このタイミングで隣のクラスで言いにくい水たまりってことはまさか!?
「宮崎さん! どっち行った!」
「こっち!」
「ちょ、ちょっと! ぶ!?」
急いで教室から出て宮崎さんのさす方向へと向かう。
転んだ早川はこの際無視だ。




